おおよそだいたい、合唱のこと。

ようこそお越し頂きました。
主に、管理人が参りました、合唱団の演奏会のロングレビューを掲載しております。
また、時折、気分に応じて、合唱如何関係なく、トピックスを記事にしています。
合唱ブログのつもりではないのに、気付いたら合唱ブログみたいなことになってきました。
やたら細かいレビューからノリツッコミまで、現状、合唱好きな方の暇つぶしには最適です。
ゆっくりしていってね!!!

2014年12月24日水曜日

【大阪大学混声合唱団第56回定期演奏会】

2014年12月23日(火・祝) 於 高槻現代劇場・大ホール

チケット代1,200円也
(内・チケット代本体500円、ビラ込みのために勝手に持ってきたスーツケースをいれるためのロッカー代700円)

最近にしては更新が遅れ、申し訳ありません。さて、昨日は2年連続で阪混でした。ちょっと、選曲で、気になる点がありましたので。しかし、相変わらず今年もビラ込みからのスタートである。
しかしまぁ、去年の演奏と比べてどんな音が鳴るだろうか、という比較にも興味がありました。……嫌がらせじゃないよ?w ホールも違いましたし、去年は、ある意味、初演と大々的な合同に色々持ってかれたって思いは素直にありますし……とはいえ、今年も団員数134名という大所帯みたいですけどね笑すごいわこれ笑団員だけで圧巻の5列オーダー。
しかし、大阪では間違いなく偏差値第1位団の一角だろうと思われるこの団(他、阪大男声、フロイント、テンペスト)、何かこう、色々とスペック高く見えるんですよねぇ……いろんな人見てると(完全に個人の印象ですw)。しかも噂話に、阪混の中にミス阪大がいるという電波話題をキャッチ。一応照会しましたが、事実は確認できておりません……笑

・ホールについて
久々?のはじめてホールですね。この前、あましんアルカイックホールを「ザ・市民ホール」と形容しましたが、なんてことはない、こちらは、それを凌ぐほどの「ザ・市民ホール」。ベルは安定の「B--------------------------」笑 タイル貼りのステージ周辺と、何やら丸い意匠。なんだろう、この、丸いの。そこから出てくるエアコンの送風音が、いつまで経っても、切りたての水銀灯のような音を立てて邪魔してきました← しまいには、非常灯が電球切れ近いのかチカチカしだす始末。どうにかしてくれ!w
そしてこのホール特徴的なのは、絶壁ホールと「真逆」な点。1階席の座席が、いつまでたっても低いんです。最初から最後まで、ほとんど角度がついていない。多分5度とついていない。否、1度といっていいかもしれない(あくまで目算)。そりゃその分、天井は間違いなく高いのですが、それにしてもまぁ、段差が「ある」ホールは数あれど、こんなに段差が無いホールははじm……そういえば、しらかわホールは段差がないホールですね←
そして、多目的ホールにしても、これはすごい。実に響かない。所謂「デッド」と表現されるホールの響き、まさに、ここにあり。高槻をして、「ザ・市民ホール」の名に相応しい……ちなみにいうと、決して馬鹿にしているわけではなく、音圧を十分高めた上でなら、1960−70年代の邦人作曲作品は基本的に「デッド」な方が表現が豊かになるのではないかと踏んでいます。器楽でも、合唱でも。是非皆様、トライしてみてください笑
ところで、この「ザ・市民ホール」、花道がありません。歌舞伎等の代替公演や歌謡曲系のコンサートに備えて、こういう多目的ホールは大体1本は花道を持っているものですが……(1本という例も、東京エレクトロンホール宮城くらいと珍しいものですが)

全体として、ステージの入退場が恐るべきスムーズさでした。100人以上が動いているとは思えないほどの軽快さ。見てて美しかったです。

・オープニング
吉本昌裕「大阪大学学生歌」(立山澄夫)
黛敏郎「萬葉歌碑のうた」(志貴皇子)

さてオープニング。散々語った学生歌への思いと「萬葉歌碑のうた」の成立史については、去年の記事を御覧ください←露骨な誘導
やはり、団旗ピンスポ、指揮者ピンスポ、そして曲の始まりでステージ明転。明転のスピードが早かったか。「朝影さして」あたりでピークが来るとちょうどいい気がする(妙なコダワリ)。
演奏は、全体として滑ってしまったか。惰性で歌ってしまった、といったほうが近いかもしれない。確かに散々歌ってきた曲とはいえ、いずれも歌詩に美しい曲。その良さを活かせるだけの言葉をしっかりと出すべきだった。具体的には、文節の切れ目でちゃんとフレーズを設計する、それだけのことで、この曲の表現は、もっともっと豊かになったような気がします。「萬葉」なら、途中のsub. pをもっとしっかりと示すだけでだいぶ印象が変わったはず。他、細かいことで、「学生歌」おそらくベースの、第三音の合流の仕方をもっと丁寧に(他三声に原因ありやも)、「萬葉」、テナーのノド鳴りが気になった点。
普段から歌っている歌にこそ落とし穴。気をつけたいことです。もっとじっくり聞きたかったなぁ。テンポもちょっと早かった?

第1ステージ
瑞慶覧尚子・混声合唱組曲『あなたとわたし』(みなづきみのり)
指揮:鈴木敬史
ピアノ:山本亮

これが聞きたくてやってきたようなもん。所属団初演曲です。なんという私的事情(そりゃそうか笑)、初演団体として、再演詣では出来る限りしたいものです(意見には個人差があります)。3曲目がヒッジョーに好きです。とても好きです。刹那と孤独の中に潜む感情の発露、あるいは咆哮。もちろん他の曲も大好きですよ、ええ笑 パンフレットの曲紹介が見事でした。ものすごくこの曲を読み込んでいる。キーテキストに据えられたのは、「あなたとわたしは ふたりでひとつ はなれてうまれて ぶじにであえた」。ここでこれだけ読み込める、もしやお主は文豪か←
さて、「終わりよければすべてよし」!? 4曲目はとても良かったです。他、1曲目の「グッピー」の言い方、あるいは鈴木くんの指揮など、とても好印象な点がおおい演奏です(実際、この指揮好きやで!)。逆に、特にベースが語尾を投げ捨てがちだったのと、1回しか出てこない、パートソロで奏でる「生と死の反復」が埋没してしまったこと、あるいは、全体的に母音や有声子音が出だしに来る単語の飛び方がイマイチだったことが課題として挙げられます。とはいえ、各パートの音もしっかり揃っていて和声もしっかりしている。対位の部分も各パートちゃんと歌えていて、聞いていてとても気持ちのいい演奏。でもどこか、窮屈というか、表現の自由度がとても低く思えました。なんというか、周りに沿って歌うことは十分なものの、じゃあ、各個人の歌がちゃんと歌として機能できているか、勘ぐってしまうものがありました。みんなが自由に声を出して、それが支えあっているというのが、特にこういった曲の理想であるような気がします。お互いがしっかり歌い切ることをベースとしないと、ただ旋律をなぞるだけになってしまう。したがって、楽譜という決められた範囲内で、もっと動いていい!それゆえか、良かった4曲目も、クラップはおとなしすぎたか。
……もっとも、初演も中々表現が浅いものでしたけれども←

インタミなしでこのまま暗転、舞台転換。3ステ構成の場合、最近、特に愛知県だとここに10分休憩を入れて、次に15分休憩を入れることが多いものの、ある人曰く、嘗てはこちらのほうが普通だったとのこと。なるほど、ここの10分休憩は、次の演出ステージに備えた着替えの時間という意味合いも強かった点、そういった大事がない限りは、ここの休憩はない方がテンポがいいかも。4ステ構成なら、ここでインタミないのも慣れっこですからね。

第2ステージ
千原英喜・混声合唱のための『おらしょ』カクレキリシタン3つの歌
指揮;馬場麟太郎

またしても演奏したことのある曲。ここまでそういう曲が続くことは、いろんな演奏会へ伺いましたが、さすがにそう滅多あることではありません。最近、何かとクラシック界隈を騒がせた「おらしょ」再評価の流れ。合唱界隈だと、おらしょと言えば、なみいる作曲家たちの作品を抑え、圧倒的人気を誇る千原おらしょ。徹底的に世俗的な流れの中に、ひっそりと、まさに「カクレ」ている、グレゴリオ聖歌による祈り。認められなかった聖を、なんとか俗の中に根付かせ、溶けこませ、そして隠そうとする、その努力が、表面上の音楽と内面の静かな祈り。最後、終止しないのもまた、この曲が生活の只中に根拠を求める一つの所以……とまで言うと、言いすぎかしら。並びは女前男後でしたが、男声の旋律が結構あることを考えると、素直にSATBでよかったような気もしました。好き好きですけど。
さて、この曲、上にも書きました通り、聖俗入り乱れて祈りを段々と描写していく作品です。いわば、俗に隠すようにして、禁令の聖を守るという側面を持っていると解釈しています。その意味では、この世俗的な旋律は、全く迷いのない、ピュアな世俗旋律でなければいけません。雨森文也先生などは、愛知県のワークショップで「ぐるりよざどみぬ」の部分を酒の席のひと唄のように表現せしめたこともあります。それがオーバーにしても、それくらいに、全く見えないところに祈りを隠した上で、逆に直接的にグレゴリオ聖歌を歌うところでは、全てから開放されたように信仰心をぶつける必要がある。宗教曲というよりは、この曲は、一つの戯曲的側面を持っていると言っても過言ではありません。
すると、結局、第1ステージの課題が課題として残り続けます。めいめい世俗を歌う中に、信仰という一つの目的に収斂していく、その意味では、合わせるというよりは、旋律が収束していくといった方が正しいのかもしれません。ここにおける歌詩の意味は、擬態している以上、この歌詩の意味で「なければならない」のですから、まさにそのように歌うべきです。逆にそれでこそ、静謐たる聖の部分が際立つ。やはり、綺麗なアンサンブルでした。千原和音は十分に鳴っていた。しかし、やはり、この部分を抉りにいくことが、ひとつ、とても重要なことのような気がしてなりません。
しかし、自分のメモ、「世俗性に擬態しながら神を歌う曲」って、このメモ書いた脳みそどこ行った……w
あ、そうそう、3曲目の男声ソロの入り、これ以上ないほどに最高でした。

インタミ20分。さすがに長いと思ったのか、幕間。有志(と、ねこバス)合唱でした。
久石譲(arr.若林千春)「となりのトトロ」(中川李枝子)
東混の愛唱曲でも有名……だよね?笑 さすがに人数が必ずしも多くなかったため、リズムパートがホールに負けてしまっていたようには感じましたが、そこは逆に、有志だけあって、テナーをはじめ、各パートしっかり歌えていたのが印象的でした。ただ、この曲、合間合間に合いの手を入れるのが前提となって編曲されている側面があるので(所々不自然に音が薄い部分がある)、そこでもっと遊ばないと、表現が単純になってしまう側面も。しかし、まぁ、楽しく聴くことができたのでヨシッ!
で、祝電披露、どこぞが「混声団」と呼ばれていたが……そんな団あったっけ……?笑

第3ステージ
Sir John Tavener の作品から
「FUNERAL IKOS」(作詩者不詳)
「THE LAMB」(William Blake)
「THE TYGER」(William Blake)
「TODAY THE VIRGIN」(Mother Thekla)
指揮:根津昌彦(客演)

去年逝去されたジョン・タヴナーの追悼も含めて。時代の中で、ロシア正教に改宗し信仰、脳卒中を発症して以来、途中心臓手術を挟みながら、30年以上にわたる長い闘病生活を送ってきた受難の天才。イギリス作曲界の巨匠の一として作曲界をリードしてこられたとのこと。今回は、2曲目と4曲目はクリスマスキャロル。アナウンスは英語読みでした。アナウンス技術にかかわりますが、ここはカタカナ読みでもいいような。まぁただ僕も、自分でアナウンスするとき、英語読みでやってくれ!とリクエストされたこと、ありましたけど笑
客演の根津先生は、阪大男声の出身。阪大OBです。まちづくりを本業としつつ(へー!笑)、合唱では天上花火の主宰、近グリ常任指揮者などを務められています。ところで、根津先生のこの本業の会社、どこかでお名前を拝見したような気がするんですよね……気のせいかしら笑
オーダーはBSAT。最近、これまで試みられなかったオーダーを試みる団がとても増えた印象。面白いことだとは思います。そしてやはり4年生にはコサージュ。その案内のアナウンスがあった瞬間のちょっとした哀愁のひととき。
知らなかった曲なので曲から。非常に好き。現代曲の諸技法の中に、キャッチーなフレーズがかぶさってくるスタイル。酸いも甘いもみーんな楽しめる。特に1曲目と3曲目が好き。否みーんな好き笑 うちのアラカルトに入れといたら結構映える気がする←
アレルヤの一言だけとっても、おらしょの時とは段違いで旨かったのでびっくらこいたのですが、この表現を前半にも持ってきたかったというのが素直な思い! 特に、3曲目の頭の豊かな音量は、前のステージでも積極的に使っていくべきでした。ちょっと英語がカタカナだったなぁとか、a母音の広い方が浅すぎるとか、あるいは4曲目、裏拍が多用されていましたが、その裏拍と言葉の対応がイマイチ付ききってなかったかなぁとか、あるいは3曲目中間部の女声の対位にズレが生じていたような気がしたとかいう点も見られましたが、それにしても、曲も好きでしたが、表現も好きでした。ブラボー!一歩手前!笑←

・アンコール
根津先生:ラター「天使のキャロル」日本語版
天上花火の団員の方が邦訳活動をされているとか。ラターは今度のPFKで新曲初演もあるそうです。
それにしても、名邦訳!非常に曲にあっていて、好きでした。合唱は上手でしたが、欲を言えば、いっそ、この曲のほうを日本語の方に引きつけて、日本語に合わせてフレージングしても面白かったかもしれません。うまく「手懐けたら(なんつー表現だ!w)」クリスマスの定番ソングにできそうなくらいに印象良かったです。いやもう、「きよしこの夜」に並びますよ、この曲。

馬場くん:信長貴富「青空」(『雲は雲のままに流れ』)
最後のステージの印象のまま、よく音が鳴っていました。アンコールがよく聞こえるというのは、アンコールの宿命なのだろうか笑 すごく素敵に響いていました。

そして、卒団生を前へ。アンプラグドで団長挨拶。あとちょっとまで思いが出かかって、なんとか堪えた。

・エンディング
武満徹「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」
この選曲のセンス!すごく良い!もう、タイトル含め、この歌詩に全部思いが詰まってるんじゃないかなって。こみ上げてくる思いとともに、本当によく歌い切りました。正直ねぇ、グッと来ましたし、これが一番良かったんじゃないかしら笑

さすがに、ロビーコールは出来なかった模様……「ザ・市民ホール」、ホワイエ狭いし、階段まであるしね笑

・まとめ
ここを書くのにずーっと悩んでました(あと、個人的なことで誰某と大喧嘩してちょっと書く気になれなかった……←)
とても評価に値する演奏会だったと思います。特に最終ステージのタヴナー。精緻なアンサンブルと表現の巧みさに、聞き入ることが出来ました。
しかし他方で、1,2ステージでは表現の不足感がどうしても目立った。以前どっかしかで書いた、大人数合唱のジレンマ、というのにハマってしまっている印象も拭いきれません。もちろん、人数いればそれだけアンサンブルも成立しやすくなります。他方で、音質や表現の質を揃えるのに難儀してしまう傾向にあり、ともすると、「縮小均衡」的に、小さい方小さい方にまとめてしまいがちです。それでも、聴くことはできるから。
中規模〜大規模の、現状多くの合唱団に言える。今ひとつ、アンコンの優秀団体のように、「拡大均衡」を目指されては如何でしょうか。しっかりと音を出す、そして、しっかりと表現をする。それを、クサいぐらいに追い求めて、一つの大スペクタクルを十二分に表現出来るだけの力を身につける。そうでないと、『おらしょ』のような曲を表現する時に、どうしても限界が来てしまう。
その成果の先のいいお手本が、タヴナーだったり、「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」だったりするのだと思います。今後共たゆまぬ努力を。しかし、3ステながら中身の濃い、いい演奏会でした!

2014年12月13日土曜日

【神戸大学混声合唱団アポロン第52回定期演奏会】

2014年12月13日(土) 於 尼崎市総合文化センター あましんアルカイックホール

さて、ちょいと用事がありまして、アーバンライナーの中でこの原稿を書いております。土曜日夜便だからか、いつも以上の混雑。ぶっちゃけ言うと、自団の練習がないこともなかったのですが(ぁ)、今回は帰省前に、以前弊団の演奏会に来てくれた子(と、その関係でも増えたTwitterのフォロワーの皆様)が所属している、神戸大学混声合唱団アポロン、通称アポロン(尾高型)の演奏会へ、お礼も兼ねて行ってまいりました。今年度初の学生団。『まだみぬあなたへ』の初演で有名でしょうかね。一度は聞いてみたかった神大の合唱そのイチでした。あとエルデ、そして男声。

・ホールについて
このブログを始める前に書いた(転載済み)去年のパナ・阪混・京大のジョイントでも来たことがあるホールです。何気2回目。ひとまず来てみると、そもそも尼崎駅前がイマイチ使い勝手がよくない……っていうとアレですね。単に、喫茶店に乏しいってことです。こればっかりは事実。文化センター2階に喫茶店が出来てくれて、本当にありがたかったです。
さて、ホールですが、さすが!ザ・市民ホール!笑 おしゃれな多目的ホールッて感じです。反響板がですね、なにかおしゃれなんです。ちょっと四角く装飾してあって、それだけで何か雰囲気見違えるようですが、客席は横に幅広く、席はゆったり赤色シート、そしてこのシートピッチの狭さはやみつきです←
今回私用でスーツケースを携行していたので、クロークがないのは難儀しました。ホールのロッカーでは入らないだろうと踏んで、駅で600円お布施して大型ロッカー利用。ううむ、ザ・市民ホール。しかし客席上部にはバルコニーがある。おしゃれ。しかしブザーは、あの懐かしの「B-----------------!!」しかも、反響板の舞台扉にはなぜか段差があり、出るときはそこを踏み越えないといけない。トイレがやたら広いのも含めて、うん、この感じ、ザ・市民ホール。
反響板に小細工してあるって点でお察しの通り、まぁ声はそんなに飛んできません。でもこのホール、響きという意味では結構優秀なんです。音をパッと切った瞬間に残る残響は、自然にふわっと、客席の方へ飛んで行く。確かにボリュームという意味ではもうどうしようもないんですが、音楽を楽しむという意味では、中々楽しいホールです。和音の綺麗な団が使うと、とても楽しむことの出来るホール。
ちなみに今回は、2階はカメラ用に確保、1階を7~8割埋める集客でした。そもそも、このクラスの団が、無料ですからね。

入場は前から一列ずつ。四段使っていたので、歩くスピードは快適なものの、ちょっと間延びした感がありました。団員数名簿で85人、ですからね。普通に入場するだけで結構な時間がかかります。あと、全面的に照明が安定しなかったのは少し気になる。本編関係ないんですけどね、集中するって意味でも。

0, 学歌「商神」
タイトルかっこいいですよねぇ……さすが旧高等商業学校というべきか。団旗と指揮者にピンスポ→照明約10%で演奏開始→ユニゾンを歌う間に明転、というこの一連の流れを見ると、ああ、学生団の演奏会に来たんだなあって感じがしてきます笑
作らず飾らず、素直な発声でしっかり鳴らす、ピッチもよく揃っていて印象的。ボリュームという意味では味方してくれないホールも、ハーモニーや響きという意味では相性が良かったようです。軽い響きで、前に飛んでくれるわけではないものの、明るい声によく味方していました。市民ホールとしては全然あり。
演奏面。縦はよかったものの、ここは、たかが学歌、されど学歌。演奏会ではオープニングを飾る曲。今ひとつ、フレージングに疑問です。よく言えば歌い慣れしていますが、悪く言えばやや惰性が入ったでしょうか。今一度、フレージングを見なおしてみてもいいと思いました。

第1ステージ
尾形敏幸・混声合唱とピアノのための『五つのギリシャ的抒情詩』(西脇順三郎)
指揮:鈴木勝利(学生)
ピアノ:前田裕佳(客演)

個人的にはあまり見たことのなかったこの曲。西脇順三郎の初期の詩に付曲されたものだそう。
描き分け、という意味で、もう少し頑張れたかなぁと思いました。本当に、ピッチコントロールという意味ではどのステージもこぼさない秀逸さなのですが、曲の風景がめくるめく変わる曲です、その変化の機微をもっと貪欲に表現してみたかったような気がします。緩急の入れ替わり、「急」の部分の入りは、ホールが響きづらいこともあり、もっと突き刺すような音で良かったですし、最後の曲はもっともっと歌いたかった!特に終曲の最後の縦和音も美しいのですから、そこに向かってのフレーズ設計という意味でも、もっと流れに乗ったまま最後の和音へ繋ぎたかった。一方で秀逸だったのが、組曲としても肝にあたる、4曲目「手」。この表現を他の曲でもしたかった、といったところです。
どのパートもよく歌えていました。特に、2,3曲目のアルト、5曲目のテナーは良い仕事。ソプラノは、音の跳躍が大変でしょうが、高音がどうしてもアテに言っているように聞こえたのが残念。そしてピアニスト!この複雑で繊細な曲を非常に見事に弾き分けていたのが印象的です。ベース?……うん、よく鳴っていたと思うよ←
そして、はっきり申し上げておきたい。この曲、大好きだ!すごくいい!笑

ここで小休止代わりの祝電披露。なんか懐かしくなって、全部メモっちゃいましたよ←
ただ、愛知県の合唱団みたいに、ことあるごと全部の学生団に祝電出すっていう習慣はないんですね。それぞれ仲の良い団が中心というか。まぁ、出し過ぎても仕方ないですし、関西圏広いですから、ねぇ笑
エゴラドから祝電が届いていたのが印象的でした。あちらのプログラムもよかったんですよね……興味あった。知り合いがオンステしてましたし。

第2ステージ
阪神淡路大震災20年 追悼ステージ
臼井真(arr. 松下行馬)「あじさいを咲かそう」(坂本繁)
菅野よう子(arr. 北川昇)「花は咲く」(岩井俊二)
臼井真(arr. 川上昌裕)「しあわせ運べるように」
指揮;和田爽良(学生)
ピアノ:中村一輝(学生)

もともと神大という柄からして、神戸出身が多いわけでもありませんし、まして今年の1年生は現役ならば確実に全員、震災を知らない世代ということになります。もっとも、僕とて、小さい頃からずっと名古屋にいたので覚えてないんですけどね。震度3は揺れたらしいです。この時神戸に住んでいた同期は、今でもよく覚えていると証言することが多いですね。しかし、神戸にいるからには、知っておかなければならない曲がある、ということでのステージ。時の流れと、記憶の継承。ちなみに、2曲目アレンジの北川昇先生は神戸出身だそう。
1曲目は、全体が平板な表現になってしまったか。フレーズの膨らみが均質で、どのサビも同じように聞こえてしまった、というのは残念です。その影にある心境の変化をうまく表現したかった。「あじさいコンサート」というイベントの全体合唱曲だそう。2曲目は、北川昇アレンジということ、そして、むしろ馴染み深い震災のキャンペーンソングだということもあり、とてもよくまとまっていました。美しい!ピッチが揃うことが、北川音楽の一番の表現です。3曲目は、演奏云々通り越して、しみじみしながら聴いていました。神戸が乗り越えてきたものと、これから創りあげていくもの。世代をも乗り越えて、これから、受け継がれていく思いが、この曲に描かれているというかなんというか。よく表現されていたように思います。しかし、ソプラノの旋律は、今ひとつ踏ん張りたかったか。

インタミ15分。ひたすら、ロッカーの両替のために買ったりんごジュース飲んでた記憶が←

第3ステージ
Federico García Lorca の詩による合唱曲
Whitacre, E.「With a Lily in your hand」
Rautavaara, E.『“Suite” de Lorca』
「Canción de jinete」「El Grito」「La luna asoma」「Malagueña」
信長貴富『無伴奏混声合唱のためのガルシア・ロルカ詩集』(長谷川四郎/訳詩)
「1. ギター」「5. 傷口の最後の詩」「6. さらば」
指揮:和田爽良

自身のメインステージで、このような、しかも、詩人個展というステージを準備するセンスと勇気。ステージとして非常に秀逸なプログラムだったと思います。ガルシア・ロルカ、たしかに名前は聞くけれど、こうやってまとめてみると、また一つ、新鮮な感覚を覚えます。どことなく、刹那的な詩の多いような印象ですね。国籍でみても、スペイン人の詩に、アメリカ、スウェーデン、日本と、非常にバランスが良い選曲だったのでは。でもって衣装は黒カッター黒ズボン。コンクールによく出る合唱人にとっては「クロクロ」と唱えれば通るくらいに有名な組み合わせです笑
ウィテカー。またしてもピンスポでスタートです。「O, Oh my love, la la!」と歌う間に明転。にくいねこのやろう← で、ラウタヴァーラ。曲がすごくいい曲でびっくり。またじっくり聞きたい。で、信長。ああ、これぞ信長!リッチなパート構成とリッチな和音でガンガンハモる、そしてその和声を捉えるのはこのホールは上手いんだっ!
……と、演奏面について何も書いてないんですけど、どういうことかっていうと、指摘する点がもはやないなって。びっくりしましたし、感動しました。最初のウィテカーから、機動性あふれるいい演奏を聞かせてくれて、表現もバンバンうねらせて。もう外国語がカタカナとか目を瞑る(あるやん指摘するところ←)。素晴らしい。ラウタヴァーラのポリフォニーから縦に揃うtuttiへの入れ替わりの瞬間の音の鳴り方もゾクゾクしちゃいますし、そして信長を鳴らすなんてこの団は朝飯前(先生に失礼←)!次に出てくる音がこんなに楽しみな演奏、本当に久しぶりでした。某ジョブスよろしく、顎をつねりながら聴いていたら、演奏終わる頃には親指がつっているくらいにすごかった(意味分かんないかもしれないけど実話)! 演奏後ブラボーしたのは自分です←

再びインタミ10分。まぁ、次へ向けてのアイスブレイクにはおあつらえ向きです笑

第4ステージ
ヨーゼフ・ラインベルガー『Messe in Es op.109』
指揮;本山秀毅(客演)

巨匠のお出まし。曲も、このプログラムの中では古典。最近、若い世代の団がこの時代の曲やること減りましたね。気のせいかしら? どのみち、人のことは言えないが。
前半は白に黒スカートだった女声は、クロクロを経て白のロングワンピースにお召替え。あら素敵。学生団だとここまでガッチリとドレスを着ることも少ないような。卒団生はコサージュってのはおなじみですね。
もちろん、この前のステージの名演があるからして、何の心配もなく、落ち着いて聞いていることができました。ただ、二群であることに加えてミサ曲、それも、特に Gloria と Credo は長さには定評があるので、その点、中々体力を持たせるのが大変だったか。テナーが他のステージと比べて力んで聞こえた気がしたのに加え、Benedictus ではソプラノがハスキーだったか。また、Credo で特に、入りの弱さが気になりました。本山先生の指揮の含意は、もっと深いところにあるような気がします。やや反射で捉えていなかっただろうか。しかしそれにしても、/u/の深さと響きの美しさ、Sanctus の男女の交唱、そして Agnus Dei の終末の美しさなど、この団の良さは存分に出ていました。大変な曲を、本山先生にも導かれて、よくぞ歌い切りました。
更に言えば、はじめてこのホールを憎みましたね……もっともっと響かせてくれないと!笑

・アンコール
本山:「見上げてごらん夜の星を」(arr. 若林千春)
指揮者:千原英喜「我が抒情詩」(『コスミック・エレジー』)
「見上げてごらん夜の星を」は初めて聞くアレンジ。聞くところ、未出版だそう。二群のままで演奏。しかも編成も二群。アンコールであることを忘れさせるくらいの集中力の高い演奏! 特に「見上げてごらん」の中間部で、弦のピチカートを模した部分があるんですが、その表現の繊細なこと繊細なこと! ポップスで唸った作品は、どうでしょう、『アニソン・オールディーズ』以来でしょうか。で、ご挨拶を経て、団員アンコール。中間部の熱い指示に団員が全力で応えていたのが印象的です。仲がいいんだなぁと思わされます。つくづく。

・ロビーコール
「Ride the Chariot」「夢見たものは…」「狩人アレン」
最後の曲は、初めて聞いた曲。話によると、アポロンの定番曲だそう。でもって、アポロンで第1回から歌い継がれていて、おそらくアポロンオリジナルとのこと。いい文化じゃ。
らいちゃりのソロをどんどん回していくスタイル、団員のみんなの笑顔が印象的でした。そして、ここでもやっぱり音ははずさない。さすが。最後は「総員撤収!」の号令でササッと舞台裏へ。もう午後8時超えてましたからね。午後9時までに現状復帰がルールです(たぶん)長丁場お疲れ様でした。

・まとめ
団員から宣伝を受けた、また、前来てもらったお礼、っていうのは事実だったんですけど、それを凌駕して、アポロン聞けてよかった!って心から思いました。何かと、学生団で人数が多いと大体なる音に想像がいくのが普通なんですが、今回はそれをいい意味で、とてもいい意味で裏切ってくれました。心から音楽をしているその音に陶酔することが出来たのは、本当に、来てよかったと心から思えるものでした。同時に、自分も負けてられないな、と、色んな意味でギアチェンジしてくれる、そんな演奏会。なんだか歳下から励まされるっていうとかっこ悪くみえますけど、しょうがない、彼らが心の底からカッコ良かった! 今回に限らず、これからも、どんどんと躍進を重ねていってください。応援しています!

「まもなく、津、津に到着でございます。」あ、わたべは名古屋下車です。
なおこの後、更新作業の間に津は過ぎた模様←

2014年12月7日日曜日

【Ensemble Mikanier 第7回演奏会】

2014年12月7日(日) 於 エブノ泉の森ホール・小ホール

何者かに来いと脅されましたので……(九割嘘)
さて、色々やることがあるような気もする中、そんなこと忘れてしまうためにも(←)、行ってまいりました。まぁ、実際には、ちょっとした谷間期間だったこともあり、よかったのかもしれないと自己肯定しておくことにする。もっとも、直接の原因としては、お知り合いの団員の肩からお誘いを受けたので行ったわけですがね。そういえば郵送で戴いたチケットだから、チケット代お支払いしてないや← 今度払います←
年末年始の週末って大概毎週アマチュア合唱団の演奏会があるものなんです。今日1日とるだけでも、関西では神戸中央や、同グリ、豊中市合唱祭、さらには地元愛知ではCANTUS NOVAに加えて東海大学合唱祭なるイベントまで開かれていたりと、特に関西で注目の演奏会が目白押しでした。そんな中のミカニエ、それでも、しっかり7~8割客席が埋まっていたのは、さすがです。演奏会の回数でいうと、わたべ所属の弊団より歴史が長いんですね……和歌山の合唱団ですが、演奏会は大阪でやるという、豊中的何者かの陰謀を感じます。まぁ、南海沿線だし、問題ない!?笑

・ホールについて
この絶壁ホールも2回目ですね。泉佐野市にあります。これ大事。岸和田市ではありません
ただねぇ、このホール、演奏の巧拙云々じゃないよ、響かない。響かないというより、飛んでこない、といったほうが正しいかしら。きれいな音をステージの中でとどめておくっていう、そんな感じのホール。今回は、所謂審査員席の辺りに構えていたのですが、それでアレくらいしか飛んでこないのは、ちょっとなぁ。惜しいホールって書きましたけど、本当に惜しいホールと言い切って然るべきホール。場所も何とも言えない場所にあるし。うーん。
とはいえ、ギャラリー含め、近隣の芸術拠点になっていることは間違いないようです。絵画の展覧会もやってました。時間あったら見に行ったのだが、如何せん、きしわd……泉佐野は遠い。岸和田より遠い←

指揮:阪本健悟
ピアノ:佐野真弓

本日の演奏会は、〈千原英喜の宇宙〉と〈アイザワールド〉という2本立ての個展ステージが用意された演奏会でした。普段からお付き合いがあるようで、ご両者(+パナムジカ)のゲスト付きで、終了後には楽譜購入者特典のサイン会付き。あらまぁリッチ。もちろんサインゲットしてきました、はい←
しかし、以前、あい混声合唱団も第5回演奏会で同じようにハーフ個展でステージ組んでいたんですが、そういった意味では、オリジナリティの側面で少し疑問の残る構成です。もっと、なにか出来なかったのかなぁと。今回も勿論楽しかったんですけどね、色々な曲を知ることが出来て。しかし、どこか、テーマ性を見出すのが難しかったのも事実。例えばですが、何かバトル形式にするとか(ってのはいまいち幼稚ですけどw)、いっそ共作で組曲を委嘱するとか(栗友会が似たようなことやってるともいえるか……?)。もっとも、両方共2014年の演奏会なので、単に企画時期が被ってしまっただけかもしれませんが。しかし、それにしても、〈アイザワールド〉の冠の被りは、なぁ。相澤先生の好みかもしれませんので何とも言えませんが……。ちなみにあい混の折は横山潤子先生と相澤直人先生のダブルステージでした。ただ、考えてみれば、相澤先生はあい混の主催でもあるので、その意味ではなんてことなかったり笑
しかし、〈千原英喜の宇宙〉なんにせよ、このタイトルは良いですね、らしさがすごく出ている笑 なにがって、これ以上は申し上げますまいw
開演前には指揮者の阪本先生と、千原、相澤両先生が出てこられて、プレトーク。それぞれの先生方とミカニエ、数奇な縁に導かれながら団が成長していく様子が語られました。そして、この団のPRポイント、宝塚銅賞についてのお話があり、その宝塚でも演奏した千原・相澤作品とこの演奏会の関係が語られるのでした。千原先生曰く、「和歌山は外との交流という意味で刺激は少ないが、神秘性の高い場所」とのこと。

パンフレットを見ると、最近に、それも一般団に珍しく、枠広告がB5見開き2ページにわたってしっかり掲載されていました。広報セクションには4名の名前が記載。いいこった。愛されている証拠です。ところで、この演奏会、ジョヴァンニからCDがリリースされるとのこと、しかも記録はBlu-ray対応、とってもリッチな体制でやっていました。広告があったからこそできる潤沢な資金の使い方……違うか笑
それと、深い関わりを持つ伊東恵司先生からのメッセージ。本日は同グリの演奏会ということで会場に来られないということで「少し太めの指揮者に全て任せました」、「演奏会を(中略)和歌山を少しはみ出た場所で〈演奏会を企画している〉!」と、珍しく?関西ノリに満ち溢れた挨拶文を寄稿していました。
しかし、何がすごいって、テナーが名簿上も実際も2名! ベースに5人もいる男声、なんとテナーは2名!いやはや。

〈千原英喜の宇宙〉
第1部:千原英喜作品アラカルト
「明日へ続く道」(組曲版・星野富弘)
「手まり」(良寛)
「夜もすがら」(鴨長明)
「みやこわすれ」(野呂昶)
「古の君へ」(平元慎一郎・坂口愛美)〈千原英喜・指揮〉

まずは千原英喜先生のアラカルトから。いずれもとても洗練されたハーモニーで聞かせてくれました。特に、「明日へ続く道」の最初の弱音の作り方は(皮肉にもホールにも助けられて)非常に素晴らしかったように思います。他にも、早いメロディで言葉が流れていく傾向にあったものの、特に縦に揃ったハーモニーには抜群の強みを見せてくれました。各パートが1つの楽器のように揃った音を聞かせてくれていたのはとても印象的です。一方、どうしても気になる部分が、表現、これが、最後まで足を引っ張り続ける事になってしまったように感じます。特に、感傷的に聴かせる曲は、その傾向が強かったようにも思います。「手まり」の「ながつけば〜」の部分のテンポの弛緩はよかったのに。とてもコンクール映えしますし、それは結果が証明しているのですが、他方、テンポは、単に叩くためのものになってしまっているような気がしました。テンポが音楽や言葉を訴える要素がイマイチ見極められなかったのは、残念なものがあります。あっという間に終わってしまったなぁという印象。じっくり聞きたかった。

第2部へ行く前に、千原先生インタビュー。「作曲とは、宇宙から飛んでくる音波を作曲家が捕まえてインスピレーションを得て音にしていく仕事のこと。過去や未来の、様々な聞こえてくる音のうち、なぜ人間は生きているのかを考えるとき、キリストの教えには考えさせられるものがある。」とのこと。パンフレットにもご本人の寄稿で「ミカニエは千原作品を歌うために熊野権現から私につかわされた、ありがたきミューズの化身であるかと思うのである―あなとうと、ありがたや、ありがたや。」とある。なるほど、千原英喜の宇宙、である。

第2部:混声合唱のための『十字架上のキリストの最後の言葉』(千原英喜/上田祥行)

割合普遍的とも言える、表題にもあるイエスの言葉に対し、ジャズや「ロック」の要素も含めてかなりラディカルな解釈をされて完成に至った同曲。もちろん、ある種の「神秘性」も忘れては鳴らない要素ですが、他方、作曲家がイエスの言葉をかくも自由に解釈したならば、歌い手も、もっと開放されてゴリゴリ表現しても良かったように思います。とはいえ、全部に劇的な要素を付ける必要もなく、例えば、縦に音が揃う部分を得手をする団であることを鑑みれば、偶数番台の曲が美しいハーモニーで聴かせる曲でした(1~4)から、1, 3番の曲を、いっそハーモニー度外視でさらにバンバン弾ませれば、2, 4番との対比がとれたでしょうし、対して、アタッカで結ばれた終曲2曲は、所謂信仰宣言の代替になる箇所ですから、もっと歌いあげてしまってよかったような気がします。ホールの返す音の細さもあり、若干疲れたような音にも聞こえてしまいました。キレイだったからいいじゃん、ってわけでもないんですよね、ここらへん。うーん、おしい。
あ、そうそう、並びが色々と変わって面白かったです。意味があるとかないとか、言っていましたが、まぁ、抽象的なオブジェクトは抽象的なまま理解するのが一番かなぁということで、あえて言語化は避けておきましょうか←

「相澤ステージは合う系か?」というメモが残されていました。執筆時に解読する時3秒を要したメモ(=字が汚い)。さて答えは。
インタミ20分。この間にサイン会用の楽譜を購入。ずっと欲しかった、千原英喜『明日へ続く道』(混声)、相澤直人『なんとなく・青空』。前者は言わずもがな(湘南コール組曲初演・珍しく千原×カワイ)、後者も、阪混初演で絶賛していた自身としては、待ち焦がれていた出版! 誰かどこかで一緒に歌いましょう!←

〈アイザワールド〉
今度は、まず最初にプレトーク。お喋りも盛りだくさんの演奏会です。『どこかで朝が』について、「委嘱元の要望もあり、じっくりかつ歌える曲を書いた。自分も千原先生みたいに宇宙から音を掴んでみたいが、出来るのはせいぜい、道端で光っている何かを磨いて世の中に届けること」と謙虚に話されていました。万物の宇宙ってやつですね、わかります(勝手な好意的解釈)。もっとも、道端で光っているものの例は大概が、ラーメンをはじめとする、食にまつわるあれやこれやでしたが――!?笑

第1部:混声合唱とピアノのための組曲『どこかで朝が』(谷川俊太郎)

ともすると、千原作品は団員の中で消化不足だったのかしら、と思わせるくらいによいユニゾンの出だしから始まり、途中の早いパッセージでの表現の滑りはともかく、中間部の弛緩の十分性も含め、表現性たっぷりな仕上がりの1曲目から始まりました。他方、2曲目の3拍子にもなると、テンポがかなり固い設計であることが嫌気して、3拍子のしなやかな表現が失われ、3,4,5曲目などは、厳しい言い方をすれば、全て同じような曲に聞こえてしまうような印象がありました。「さようなら」の最後の和声はすごく良かったのですが、では、それと歌詩の解釈を合わせた時、それに応えうる表現をし切れていたかというと、やはり疑問が残ってしまうのでした。表現による歌い分け、というとなんとも取り留めがないですが、歌詩や音型に対応して付けられたアーティキュレーションに対して、より深くアプローチする態度があってよいように思うわけです。つまり、この詩が、この音があるからこういう表現をした、というような、表現の必然性をちゃんと付けたい、ということ。その意味では、課題は同じ会場で行われた大学コンペの高知大の演奏と同じくするかもしれません。高知大にかぎらず、かなり多くの団が抱えているジレンマではあるのですが。しかも、集合的意思決定としては、ちっさくまとめることも解だから、話は厄介なんだと思います。……脱線しすぎ?笑

さて、さらにプレトーク。今度は、『Missa Bravis』初演について、そして、このステージ、第2部について。トークが入った順番に紹介していきます。

第2部:相澤直人作品アラカルト
『Missa Brevis』〈初演〉
-「Kyrie」
-「Sanctus」
-「Agnus Dei」

相澤先生自身カトリックではないものの、合唱をやる上で必ず憧れる教会音楽やパイプオルガンの響きにあこがれて、そして、先生自身の現状の和声の勉強の成果を作品としてとどめておきたいという思いから作曲に至ったという曲。曰く、混6+div. という、少なくともテナー2人でやっているミカニエにとっては大編成です。ボーカルアンサンブルでもないのにテナーが2人、というのが特殊なだけかしら……?笑
作曲家の意図に従い、和声のトレーニング的な曲としても使えます。一方で、しっかりとミサ的な旋律も持ち、加えて、しっかりと響く和音だけで書かれているので、一音一音に妥協の出来ない、非常にバランス感覚の求められる曲です。その上、ディナーミクの指示もいくらか緻密なように思われます。時間も3曲で5分程度。コンクールにもピッタリです。
演奏としても、ミカニエ向きの曲だったようで、Kyrie や Agnus Dei の出だしなどは、合唱団としてもよい音が鳴っていたように思います。でも、Agnus Dei の最後はもっと倍音ならせたはず。他、細々指摘できる点はあったように思いますが、阪本先生のステージ上での懇願に従い(?)、詳しくは述べますまい……笑 曲・演奏ともに佳作でした。言っときますけど、佳作って、「賞は取ったけどアレ」って意味じゃないですからね?w

「なんとなく・青空」(工藤直子)
「チョコレート」(みなづきみのり)
「この闇のなかで」(立原道造)

引き続き、アラカルト。伊東先生に「合唱アルバム」と名付けてもらった、という曲群から(今調べたら、ちょいちょい「アルバム」からではない曲も混じっているわけですが……笑)。まずは、いずれもあい混のレパートリーであるという3曲。うち、「この闇の中で」は宝塚で演奏した曲とのこと。
もう、「なんとなく・青空」なんか、再演されたってだけで感激モノなんですが、演奏としては、いずれも、もっと表現していい!これに尽きます。なんか今日コレばっかですね、ホールのせいでしょうか← 「なんとなく・青空」はもっと歌いあげても、「チョコレート」はもっともっと可愛く歌っても、いいんです。他方、「この闇の中で」は、さすがに、ちゃんと仕上がっているなぁという印象は強く持ちました。ただ、おそらく表記上の表現は完ぺきなのですが、そうではない、いわば「繋ぎ」のフレーズがおざなりになりがちだったように思います。もっと詩が読める、というところでしょうか。

「私が歌う理由」(谷川俊太郎)
「宿題」(谷川俊太郎)
「果てしない助走」(みなづきみのり)

本演奏会の中で一番良かった部分を挙げるなら、この3曲群でしょうか。いずれも、団員たちがどこかで関わった曲達、だそうで。「私が歌う理由」は過去のミカニエ委嘱曲。
「私が歌う理由」は、三善版の曲よりもあっさりと、フレーズの美しさを聴かせる曲ではありますが、だからこそ、団員がしっかりと歌わないと表現が完成しない曲でもあります。美しさは良かったが、終始、表現に苦しんだ今回の演奏会では、美しいだけに終わってしまったか。「宿題」は上手! 表現も含めて、これは上手。普段から愛唱曲としているからでしょうか。歌い慣れたフレージングの上手さが光りました。「果てしない助走」は、accel. の加速がピッタリとついていったことに、驚きです。上手い。その加速が最後のカデンツにつながると、尚良かった。

「あいたくて」(工藤直子)〈相澤直人・指揮〉
台湾から帰国したての作曲者指揮。出だしのフレージングと最後の和音が美しく、音圧に苦しむ。表現としては、終始大人しくてよい曲とはいえ、最後に、今回の演奏会の課題がドバっと出た印象です。

・アンコール
千原英喜「アポロンの竪琴」(みなづきみのり)
相澤直人「うた、結ばれるとき」(『私の窓から』より・みなづきみのり)
〈阪本健悟・指揮〉

ぶっちゃけた話、いずれの作曲家の作品も、アンコールが一番良く歌えていたように思います。アンコールの宿命かしら。ただ、相澤先生作品の「存在」と「不在」の歌い分け、みたいな問題は、まさに今回浮かび上がった課題の核心のように思います。

・まとめ
グランツェの稿でも書いたことですが、「きれいなアンサンブル」の先に、もう一つ大事な段階が潜んでいるような気がします。そこで、どの団も苦しみ、それを乗り越えた演奏が、伝説となって語り継がれている、あくまで主観ですが、そんな印象です。その観点でいくと、ミカニエは「きれいなアンサンブル」を十分聞かせてくれる団ではあるのですが、その先の演奏をするには、今ひとつ、足りない表現の要素があるように思います。もちろん、魂で歌え、みたいなヨクワカランことを申し上げるつもりはありませんが、いうなれば、歌詩と歌、歌詩と和声、歌詩とディナーミクの対応性の部分でしょうか、それを、(魂という言葉でごまかしてもいいから)如何に表現するか、という要素は、案外見捨てられがちな、とても大事な要素なのではないでしょうか。もちろん、今の音作りを捨ててはなりません。しかし、まだできることがある、ということを常に視野に入れて、自律性の高いアンサンブルを組み立てていく工夫を忘れないことは、自戒を込めた、とても大事なことではないかと、この演奏会を通して学んだことの一つです。
割と真面目な話、来年もこのホールで演奏会をやられるとのこと、音圧を高める訓練をひたすら組んでいくのは、アリなんじゃないかと思います。お互い頑張っていきましょう!

2014年11月4日火曜日

【バッカスフェスタ 第16回関西男声合唱祭】

2014年11月3日(月・祝) 於 いたみホール(伊丹市立文化会館)
3, Nov., 2014(Mon) at Itami Hall

酒呑みたちの祭典!
(さほど間違っていない)

You find Bath Male Choir's Information?(for English or other languages Speakers)
This articles introduces and reviews the performance at 16th "Bacchus Festa" in Itami, Hyogo, Japan, also by Bath Male Choir conducted by Dr.Grenville Jones, and a piano by Mr.Philip Evry. They are invited Bacchus Festa as a part of their Japan Tour. "Bacchus Festa" is the chorus festival for the male choir; a whole day was devoted to the male choir included standard classical choir, pops choir, barbershop choir etc., all over Japan. Their, the Bath's performance was very great performance, I think. They were applauded from whole audience there, that shows their great performance. This article introduce the whole of this event, and introduces Bath's bravo performance as the guest performance, in Japanese. Thank you for your visiting this site, and thank you for the Bath, our brother, for your Very Excited Performance! Enjoy your remaining trip!

話題には聞いていましたが、いよいよ参加してまいりました。バッカス。弟分の「男声合唱フェスティバル」(東京都合唱連盟)とともにこの時期に行われ、1日中、いたみホールを男声合唱の響きで包みます。いやはや、最初から最後まで、凄いフェスでした。え、最後?演奏終了のことでしょ?……甘いなぁ笑

・イベントについて
主催 関西合唱連盟・公益財団法人伊丹市文化振興財団・伊丹市
後援 朝日新聞社
協力 伊丹酒造組合
そう!なんと伊丹市公認イベントなんです!というかむしろ伊丹市が関西合唱連盟と手を組んでやっているイベントなんです!これが凄い。何かと内にこもりがちな合唱人にして、こうやってちゃんと手を組んでイベントを発信できるというのが本当に素晴らしいことだなぁと何より思います。完全に出すの忘れてましたけど(コラ)、アンケートも、伊丹市文化振興財団法人のフォーマットです。器楽だと、割とそういうイベントが多いような気がしますが、合唱も、こういうイベントの形式が広まるといいですね。ところで、協力、ってところに何やらアヤシイ文字が見えますね……笑

・ホールについて
阪混以来でしたっけ。なんだか、このホールに来るときは2回とも1日仕事になっているので、とても長い時間を過ごしたような錯覚に囚われます……笑
さすがに凄まじい時間聴いていたこともあり、段々このホールのことがわかってきたような気がします。というのもですね、鳴らないホールではないのですが、鳴らすのにコツがいる。といっても、いつもの、ちゃんと固まった音をガッツリ鳴らしましょうっていう話なんですけどね。阪混の時は、人数の圧力というのもあったので、さほど気にならなかったのでした。コンクールでも使われている手前、色々な話が飛んでくる中で、やたら難しいホールだと言われていたその意味がわかったような気がしました。
ちなみに、上手に金屏風で15列程お酒が並んでいたのは、このイベント独特の光景ですので、お間違えなきよう笑

文字通り、全部聞いてました。いたみホールの椅子は座りやすいのですが(間違いなく)、それでもケツが痛くなる……w

・ゲスト3団体
最初に英語アナウンスをした以上、この団体をご紹介せずにはいられますまい、今回のゲストには、「Bath Male Choir(バース男声合唱団)」「女声合唱団Mai」「関西外国語大学混声合唱団ラベリテ」(出演逆順)が招聘されました。

何より、大トリのバース男声合唱団!イギリスからの招待団体で、彼ら自身ジャパン・ツアーの途上です。指揮者のジョーンズさんは華麗に上着を客席に託し、「Let It Be Me」「Anthem」「Unchained Melody」「Do You Hear The People Sing」「Bring Him Home」「I Believe」「Song for Japan(さくら)」のアンコール含め7曲を披露してくれました。すごく明るい発音なのに、めちゃめちゃ鳴る、自然体の極致のようなナチュラルサウンドが会場を一気に魅了しました。いたみホールが何って、この音が鳴らせればぶっちゃけなんでもいいんですよ!笑 こういう音には、ホールも微笑みかけてくれるんです。一方で、ただ明るいだけじゃなくて、表現について色々な引き出しを持っています。ポップスアレンジを多くレパートリーにしている手前、同じフレーズが繰り返されることが多くても、全然飽きないんです。特に1曲目の「Let It Be Me」では、お披露目と言わんばかりに、その引き出しをまるっと披露してくれました。ハモリよりもっと大事なことを考えて、歌うのが楽しくて仕方なくて、ガンガン声だしていたら、気付いたらハモっていたっていう音を出してくれます。だからこそ、そのエネルギーというのは凄まじいものがありますし、そのエネルギーを最大限発揮するためだけに必要なことを考えている演奏でした。ホント、楽しんで歌ってるなぁって思わされました。指揮者も大概煽ってるだけですしね!w ちなみに、アンコールの「さくら」、ディクションが完璧でした。一体何処で研究したというのだろうか……笑

あとの2団は、途中、男声合唱だけじゃ飽きるだろうということで拉致られた招待された2団。それぞれ、レディースコーラスフェスティバル、混声合唱フェスティバルも開催しており、そちらでのパフォーマンスで推薦されてるという算段のようです。ちなみに、バッカスフェスタでも各イベントへの推薦団体が表彰されています。副賞のお酒とともに←

出演順に。「関西外国語大学混声合唱団ラベリテ」。自主編曲の「川の流れのように」と相澤直人「ぜんぶ」ピアノ版を披露してくれました。しっかりと発声を研究している男声のピュアなサウンドで聞かせてくれました。いい声に所々地声が混ざっているのが気にはなりますが……。しかし、フレーズの長さを比較的長めに取る団のようで、その点、とても好感の持てる演奏でした。それ故に、意外と歌詞が飛びそうになってしまう「ぜんぶ」でも、しっかりと言葉を読むことができていたように思います。全体としてとても美しい演奏で好感が持てました。

「女声合唱団Mai」齢が関西外大と比べるとさすがに***(自主規制)なので、それ故に、年齢を感じさせるビブラート発声でしたが、明るいしっかりとした声出しちゃえばなんてことはないんですね!笑 とてもまとまった、機動的なアンサンブルで聞かせてくれました。フレーズにも伸びが感じられ、しかも言葉もはっきりと飛んできて、とても上手な合唱でした。中田喜直「ちいさな旅の思い出」、高嶋みどり「あげます」、荻原英彦「風に寄せて」(『叙情三章』から)。特に「風に寄せて」では、ディナーミクの管理の妙技が光りました。

・バーバーショップをバリバリ聞ける!
色んな男声合唱を楽しむことが出来るのがこのイベントの特徴ですが、なかでも普段見られない光景が、バーバーショップをたくさん聞けるという点です。それも、バーバーショップ独自の形態で!合唱にお馴染みの方(特に関グリ界隈←)だと、バーバーショップの音くらい聴くよ!っていう方はそこそこいると思いますが、YouTubeに上がっているような、バーバーショップ独自の形態で聴くことはだいぶ珍しいことになってきました。このイベントでは、「A Little side parking」を皮切りに、「Red Point」「The Lockers」の他、京大OB系の「Ensemble Reed」が正統派バーバーショップコーラスを披露してくれました。「A Little side parking」「Red Point」はカルテット。前者は自前のマイクとスピーカーを用意しての披露、後者はアンプラグドでの挑戦です。出演辞退されたものの、「にぬき」もバーバーショップカルテットでしょうか。「Ensemble Reed」は、団員8名での小規模アンサンブル。そして、「The Lockers」は2~30名規模の中規模アンサンブル。鳴り響くピッチパイプの中、前屈みに指揮者が振り向き、それに合わせて指揮者にメンバーが集中する、あの独特の感じもバッチリ再現、それを見た時、思わず、おおおっ、と声が出そうになりました(ピンとこない方は、こちらの動画などいかがでしょう笑)。いずれも、バーバーショップの発声・発音をよく研究され、普段聞けないサウンドに新たな感動を貰うことが出来ました。やっぱり、バーバーショップは、憧れちゃいますね!

・ここは関西である(ネタ枠
ここは関西。どこに行っても、ネタに走る団はたくさんあるものです……笑

「Chor. Draft」初出場。最近関西で頭角を現しつつある、石若雅弥軍団の一角にして、堂々のネタ枠奪取です。石若雅弥「はてしなき議論の後」で石川啄木の歌詩による技巧的な石若サウンドをバッチリと聞かせてくれたのは、ネタ枠でも何でもなくお見事なんですが(ちょいとホール負けしていたのと、レガートで音が流れていたのは今後の課題か)、江口直人「もしかしてだけど」(arr.石若雅弥)では、ガッツリとフリをつけながら、例の「もしかしてだけど〜っ!」の下ネタ(伏せるまでもなく、下ネタ)を午前中(午前10時開演の7団体目)からぶっぱなす!会場大受け!したがって「残念ながら」歌詞がよく飛んだ演奏だった!爆 ちなみに、演奏会ではコントもやっているそうです。どんな団体だよ笑

「合唱団ずずず」も初出場。曲目は間宮芳生『男声合唱のためのコンポジション』第6番から、1番と2番。この曲でどうネタに走るのか、と思いつつ、紹介文には「ずずず…ドイ。」という何やらヤバ気な意味不明な文列。いざ始まったと思ったら、指揮者が客席に向いてピッチパイプの指示をし始める(しかし合唱団からピッチパイプは鳴る)なんていう軽いジャブ、そして、指揮者抜きのアンサンブルを始めると、突然譜面台近辺で腹筋・背筋を鍛えはじめたり、何やら意味不明なカスタネット・ダンス(鳴子踊り、から修正致しました)を披露してみたり、挙句の果てに腹太鼓を披露してみたり、それに団員が追従したり、と、眼前にはシュールな光景が……それに思わず、客席は笑わざるを得ませんでした笑 いやだって、ほら、間宮コンポジでそんなことやるか普通?!しかも悔しいのは、このアンサンブル、音圧も十分で、普通に上手いんだ!爆

「なかもずグリークラブ」は14回目。大阪府合唱祭(レビュー未掲載)と同じネタをぶっこんできました。「菩提寺〈菩提樹〉」「燃え尽き〜行進曲〈ラデツキー行進曲〉」。上(かつら)から下(靴)までバッチリ、宮殿風衣装に身を包み(譜めくりまでも!)、シューベルトとヨハン・シュトラウスの名曲を披露。但し、歌詩は、死にかけのところに三途の川の向こうにいる父親と母親から呼ばれるところでハッとするだとか、めっちゃ頑張って仕事も趣味もバリバリでいるところで突然燃え尽きるだとか、超脱力系の歌詩。勿論、会場を沸かせます。そして「ラデツキー」といったら主題部の拍手ですよね!それもバッチリ再現していきます。課題としては、こういう歌詩なんだし、もっともっと言葉を飛ばしたかった!

「合唱団大阪コンソートTTBB」からは、南安雄「きまっているのに」「おかあちゃんの遠足」「うるせ」「せんせい」「五じゅうまる」「じ」(『子供の詩』から)。ネタ枠、というより、曲そのものがネタなのですが笑 子供の朗読にあわせて、子供のかわいい視点から得られる曲を披露していきます。8時までと決まっているテレビを見る時間も選挙速報に取られることに悪態をついてみたり、父ちゃんと母ちゃんの名前は、うっせとおまえ、だったり、先生Tシャツ一枚でおるからTKBが見えてまっせ、とか、そんなネタを随所に(たぶん自然に)仕込んだ曲に、会場みんなで笑います。でも、「父ちゃんが痔だったから徴兵されずに済んでよかった」という「じ」には、会場おもわず涙です。最初から最後まで、暖かいステージでした。

・ザ・正統派!
もちろん、ここは、男声合唱フェス。ネタ枠やバーバーショップだけでは収まらない、ガッツリとした「男声合唱」も聴くことの出来る空間です。やはり数多いそんな団体から、注目どころをいくつか。

「コールテクニカOB会」は、さだまさし「案山子」(山村達郎編曲)多田武彦「作品第貳拾壹」(『富士山』より)。「案山子」は、縦がイマイチ揃いきれなかったものの、重厚なサウンドで聞かせてくれました。いい意味で円熟したサウンドに好感が持てます。そして、フレーズの収め方が綺麗。「宇宙線富士」は、その重厚なサウンドに乗った、十分なボリューム!所々閉母音が暗いことと、ところどころのトップの圧不足は気になりますが、和音は聞かせるに十分でした。いい挑戦!

「紡(男声合唱団)」揃い方がとてもきれいな、多田武彦「数珠かけ鳩」「白鷺」(『白き花鳥図』より)。特に「白鷺」ではその揃い方とレガートのつなぎ方の綺麗さが音となって顕れ、とても気持ちよく聴くことが出来たように思います。ただ一方で、少し安全路線を行き過ぎたか、緊張感だったりとか、表現の多彩性に欠けた演奏になってしまったようにも感じます。その点、細かいミスも目立ってしまったか。詩を読む、というのは、タダタケにおいては王道の解釈法だと認識しています。

「広島大学グリークラブ関西OB合唱団コーロ・リナッシェレ」は、三木稔「たいしめ〈鯛締〉」「たたら〈踏鞴〉」(合唱による風土記『阿波』から)。愛唱曲という「たいしめ」、そして初挑戦という「たたら」ともに、ザ・男声合唱という演奏を披露してくれました。縦の協和音、sub. p、リードとハーモニーの掛け合い、まさに定番中の定番を、譜面としても、そして合唱としても完全に攫いに行く名演。全体の声量が大きく、特にtuttiの声量は絶品です。それでいて、アンサンブルは近代的なノン・ビブラート。アクセントの刺さり方や、G.P.からの復帰の音程も素晴らしい。こういう音を聞きたかったんですよ、僕は!笑

「男声合唱団 銀河」は、石若雅弥「君死にたまふことなかれ」。ピッチコントロールが「ものすごく」上手い!本当に縦が完全にピチッとハマる様は、聴いていて気持ちが良い物があります。もっとも、そのために、少し全体が平板に聞こえてしまったように感じました。特に、2番目のモーメント以降はもっと捻りに行っても面白いアンサンブルになったように思います。しかし、この演奏、ソプラノのソロも含めて、お手本のような演奏。これは、是非、録音してしまうべきですよ!笑

「京都男声合唱団」からは、佐藤眞「蔵王讃歌」「苔の花」「早春」(『蔵王』から)。いい意味で、時代錯誤感を得られる演奏でした。完全なビブラートサウンドがバンバン鳴っていましたが、それがいいの!笑 4声が上手く溶けた良いアンサンブルでした。歌い慣れた曲をガッツリ歌う、そしてそこから得られる着想に任せるがまま、自然に、快活に歌っていたのが印象的です。もっとも、内声がメロディを取るところは、少しバラけ方が激しかったか。あと、最後、決めたかったですね!

「大阪大学男声合唱団」は、多田武彦「追羽根」(『中勘助の詩から』より)。名曲中の名曲。ソロよく頑張りました。声がもう少し飛ぶとよかったものの、「これお土産に」の収め方はナイスです。音は概ねあたっていたものの、ハミングの音がややボヤケた一方、言葉のパートではやや品がなかったかもしれません。一方、「吹きて散らすな春の風」はより決然と。速度の指示で若干ブレがあったのも気になる。もっとも、文句言いつつも、大好きな曲には厳しくなってしまうんですよってことで一つ笑

「OSAKA MEN'S CHORUS」は、多田武彦「キャプスタン」「帆船の子」(『航海詩集』から)。タダタケの強弱表現からみせる劇性の表現がお見事です。ハーモニーもよく揃い、且つ、それに乗っかるように強弱もしっかり映えています。曲が曲だけに、子音がもっと飛ぶと良かったか。最後まで、ほんの一瞬疲れを見せつつも、ガツガツと鳴らして勢いを保ってくれました。Bravo!

「大阪メールクワィアー&大阪経済大学グリークラブ」は、高田三郎「晴夜」「異郷の雪」(『戦旅』から)。「指揮は、横田清文に代わりまして、須賀敬一」という贅沢なアナウンスと共に(横田先生に何か個人的な恨みがあるわけではありません笑)、聞かせてくれるは何とも贅沢で、そして完璧なまでの高田サウンド!そうですよ、こうでなくっちゃ、高田サウンドは。子音、ディナーミク、フレーズの持つ叙情性、なんといっても、一本の線が通ったような緊張感。もう、1つ目のフレーズから違うんですね、一気に曲の世界に引き込まれてしまうんです。そこから最後まで、完全に計算された音響、そしてそれを理解しきった団員の表現。ホールを目一杯使った須賀・高田サウンド、いつ聞いても、タマランです。

「男声合唱団「DOYA」」からは、多田武彦「忍路」(『吹雪の街を』から)「作品第壹」(『富士山』から)。表現がとても豊かに聞かせてくれました。縦のハーモニーもそうなんですが、タダタケの必要条件に強弱表現があるのは、いうまでもないことなんですね。一方、「第壹」は、確かに必ずしも悪い表現ではなかったものの、名曲だけに、細かい表現ミスが怖い。「種まきのように」のリズムのズレ、中間部が急ぎすぎてしまったこと、途中から内声の音程が落ちてきたことなど、怖い落とし穴に何個も引っかかりそうになっていました。十分楽しむことの出来た演奏かと思います。

・Remarks
「COC」初出場。関西大グリーの若手OBと現役有志。朝一番のグループに、さわやかな発声で気持ちよく。対位的な部分に課題ありか。信長貴富「世界のいちばん遠い土地へ」「ぼくが死んでも」(『思い出すために』から)

「室内男声合唱団Alitheia」2回目。同郷の同志よ!得意なルネサンスサウンドを、軽く歌いこなす。鳴りづらいホールをよく鳴らした。四つの違う言語で多彩に表現。フランス語が白眉。O. di Lasso「Alma Nemes」「Occhi piangete」「En espoir vis」「Ein Guter Wein」

「男.com」初出場。この団以外にも何団体か、I→V7→Iのピアノに併せてお辞儀をする団体が。流行りだろうか笑 フレーズが少し短めだが、軽いトップと重厚な三声で聞かせてくれた。「ずずず」の後だし、声量もこれくらいで調度良い?笑 森山直太朗「さくら」

「北海道大学合唱団関西OB会」2回目。5月に札幌で現役と合同演奏したタダタケ初演曲を関西初演。歌い上げ劇的に表現する難易度の高い曲、長調ののどかな、緑の芽生えを表現する2曲。演奏は、現役がいなかったのが痛手したか、いま一歩。なおも再演が期待される。多田武彦「月夜にめぐり逢う」(伊藤整)「緑の黎明」(北原白秋)関西初演。

「混声合唱団Parsleyの男声とうたおに華麗衆」5回目。超かっこいいスウィングで聴かせる信長編曲と高田三郎から。ノリだけ考えてかっ飛ばす力強いアンサンブルがたまらない。高田三郎は、やや表現が平板となったか。しかし、最後までよく鳴っていた。何より、この2曲を指揮なしでよくぞおやりになる。浜圭介「そして神戸」(信長貴富編曲)高田三郎「自分の眼」(『戦旅』から)

「創価学会関西男声合唱団」14回目。相変わらず縦に美しい創価系サウンド。内声がやや薄めに聞こえたことと、テンポが早く、表現が平板に流れていった。高知大といい、流行りの速さはこれくらいなのだろうか。それにしても、上手いからこそ、もっとじっくり聞きたかった。信長貴富「こころようたえ」

「ジュピター・コール」2回目。旧くからの団で、珍しくロシア曲をレパートリーに持つ団体。昔はもっと人数も多かったとのこと。表現に意欲的。高音がもっとなると聴き応えがありそう。ボルトニヤンスキー「ドストイノ・イェスティ〈ふさわしくあり〉」リヴォフ「汝の聖なる晩餐〈最後の晩餐〉」正教会伝承曲「ムガノヤリェータ〈幾年も〉」

「Outsider」13回目。淀工系と、後に聞く。やはりピアノでお辞儀。骨太のサウンドが、骨太なポップス2曲とよく合った。ビブラートで美しいサウンドを聴かせる、その一つの到達点か。最初の4人のSoliアンサンブルもお見事。森山直太朗「さくら」中島みゆき「地上の星」

「猪名川グリークラブ。」11回目。飯沼京子軍団の一角。なんと猪名川とは一切関係なく、「いなぐり。」と呼ばれたかっただけという衝撃の事実。出だしを肩で合わせるという神業とともに、飯沼先生をリードボーカルに、縦がガッツリ揃った自律的な良いサウンド。選曲含め、ある意味、ロビーコールで聞いてみたい。喜納昌吉「花〜すべての人の心に花を〜」(松永ちづる編曲)

「セレスティーナ男声合唱団」15回目。なんと創団92年。創団年に見合った団員の方が多いものの(断じて100歳以上というわけではない)、全員暗譜というそのバイタリティに感服。ハーモニー全体にまとまりを感じた。歌詞の説得力は良いが、メロディに課題。非常に上手だったのだが、何かが足りない。南弘明「海よ」(『月下の一群』から)

・最後は
15個程賞(という名の酒)を各団にバラ撒き授与し、めでたく閉会……というわけでもなく、その後はホールのロビーでお酒たっぷりのパーティータイム!本当にたっぷりで、なんと事実上飲み放題。それでいてチケットは一般男性(バッカス券)2,000円、女性(ヴィーナス券)1,000円、学生男性(アキレス券)1,500円という、券の名前に落とし所まで付けたオトクっぷり。終演時に曰く「これが本番です!」「帰ろうとする皆さん、今日は帰っちゃダメですよ!」。もちろん、ビール、ワイン、そして兵庫を始め全国のお酒が並びます。どっから出てきたのか、お菓子系のオードブルにとどまらず、焼き鳥やおでんまで!一体どこから出てきたのだろう……笑 わたべは、全団体聞いてお腹も空いたので、空きっ腹に酒はよくないと表彰式もそこそこにミスドで3個ほど頬張った結果、逆にお腹が張ってヘロヘロというオチでした笑 交歓だけにとどまらず、もちろん、歌もご一緒に、「柳河」ソロの公開オーディションや、バース男声合唱団のロビーコンサート、秋ピやさいたらやらいちゃりやといった男声の定番どころを歌いまくって更けていくのでした。いやー、楽しかった! また来年も参加したいですねー。お酒だけでいいから飲みに行きたいくらいだ!爆 できれば、どっかで乗れる団体があるといいんですが(!?)

2014年10月18日土曜日

【第1回大学合唱コンペティション】

2014年10月18日(土) 於 エブノ泉の森ホール(小ホール)

さて、今日は遠路はるばる大阪・泉佐野へ。でもホント、自分は阪急沿線民なので、そこからしたら遠いんですよ、南の方って。阪急から地下鉄に乗り継ぎ、南海へ(梅田からはJRという道もありますが)。しかもそこからまた歩く。用事はこれだけだったのに、結構な長旅でした。
何をしに行ったかといいますと、「大学合唱コンペティション」というイベントへ行ってまいりました。関西合唱コンクールにはとうとう行かなかったのにね……明日? うーん……笑

イベントについて
《主催》JCDA日本合唱指揮者協会
《主管》JCDA日本合唱指揮者協会関西支部
《後援》毎日新聞社 株式会社ハンナ
関西指揮者協会発のイベント。珍しく、JCA全日本合唱連盟と朝日新聞が噛んでいないイベントです。それも、朝日新聞が噛んでいないとなると毎日新聞が食いつくあたり春夏甲子園を思い出しますね!
関西支部が非常に力を入れていて、色々と凄いことが起こっているイベントでした。メインイベントは聞いてきたコンクールですが、それ以外にも表彰式後のカレーパーティー、団ごとの個別指導、さらに研修会もついています。そして、その中身もまたすごい。
・「必ず」学生指揮者が振ること
・審査員は、伊東恵司、日下部吉彦、清水敬一、千原英喜、松下耕(五十音順)
・さらに特別審査員に小瀬昉・ハウス食品グループ本社(株)取締役相談役、宮内義彦・オリックス株式会社シニア・チェアマン
・特別審査員が決定する副賞付きの特別賞(やたら豪華だったらしい)
・さらにいってしまえばカレーパーティーはハウス食品提供
・課題曲は千原英喜書き下ろし「IROHA-UTA(以呂波うた)」
・そしてパナムジカがブースを出展
そんなわけで、色んな所に力が入っているなぁというのがよく分かる運営スタイルでした。あえて言うなら、もう少しチケットを売っても良かったのではないかなぁといったところでしょうか。チケットの入手経路が事実上、サイトからメールする以外にありませんでしたので……ちなみに、沼丸先生が事務局長で、チケットもそこからやって来てちょっとびっくりしました笑
開演前の洲脇副委員長の挨拶からみても、かなり強烈に、1週間ほどでイベントや交流を込みでコンクールを行う海外のコンクールを意識して作っているようです。審査方式は持ち点100点の点数式。100点を各団に振り分けるのか、100点満点で各団を採点するかはよくわかりませんでしたが、最高点最低点の足切りはしないようです。その点については、前回のポストでもご参照戴ければ笑
いずれにしろ、「歴史の第1回に出られたことを自慢して欲しい」とまで言い切るあたり、力の入れようが感じられます。実際、トロフィーもン万円かかったとかなんとか笑
ちなみに、小瀬氏は同志社グリー、宮内氏は関学グリー出身だそうです。宮内氏は、手元を見ると、楽譜も見て審査をしていました。合唱界、たまに凄い人出ますよね……(遠い目)

ホールについて
初めて行ったホールです。北摂からはアクセスしづらい場所にありますね……阪急はそろそろ難波まで延伸してくれませんかね笑 さらに、泉佐野から歩いて20分くらいかかる場所にありました。JRの最寄りもあるようですが、僕自身は南海経由で行きましたので詳細不明……多分あっちのほうが安かったんでしょうが、まぁ気にしない←
さて、ホールは、ちょうど愛知県で言うと文化小劇場を少し大きくしたようなホールです。内装も、豪華に見せている工夫はありましたが、まだホールが若いのもあり、全体として、まだ風格というには遠いようです。公営のホールだなぁというのを強烈に感じる、とも。ちなみに、客席は史上稀に見る絶壁ホールです。目測の感覚では、ステージの高さと同じくらいのところまで客席が迫ります。……言い過ぎ?笑 ちなみに、ベルのメロディが素敵です。
シューボックスタイプのステージではありますが、響きがステージの中だけで鳴ってしまう印象も強いため、なかなか付き合うのが難しそうなホールです。こういうホールこそ実力が試される、という意味では、コンクール向きと言ってもいいかもしれません。とはいえ、決して音を汚すような響きをするわけではないので、もっと頑張ってほしいなぁというホール。近隣の方が使うにはおあつらえ向きかもしれません。むしろ、外のホールへ入る動線をちゃんとして欲しかったですね……トイレ我慢しながら迷うのは辛かった笑

・課題曲について
千原英喜「IROHA-UTA(以呂波うた)」
シンプルな構造で以呂波うたを読み上げていく歌ですが、総合的な技術力を問う、コンクール審査員も歴任されている千原先生ならではの良曲かつ難曲です。特に最初の出だしのユニゾンの上昇音型などは、印象的ながら技術的に上がるのが難しく、ほとんどの団がその部分で音程を落としていたのが本当に勿体無かったように思います。加えて、和声部で基本的な和声を問い、「あさきゆめみし」で低声・高声のポリフォニーでボリュームを上げ、「ゑひもせす」でボリュームを潜めて縦の休符を収めつつ、かつ情緒的に歌いこなす、その後対位構造への理解を問い、さらに終止の三和音をきっちりと決めることも当たり前に求められる、と、合唱団の基礎体力を求めてくる曲です。課題曲の送付を意図的に遅くしたそうですが、おそらく、この辺の基礎力を問うための工夫なのでしょう。後者の「ゑひもせす」の収め方も、基本的に、どの団も手早く進んでいってしまった印象でした。指揮者の合唱団コントロール力もこの曲で同時に測れる。いやはや。この作曲能力に、ただただ脱帽。

・各団自由曲と寸評
会場行ってみたら、部門なんてあったんですね……2つに分かれていました。審査ではどうしたのか、よく知りません笑

A部門(6~29人)
1. 立命館大学メンネルコール
指揮:内山倫史、西川澄
千原英喜「もう一度」(星野富弘)
佐藤賢太郎「僕が歌う理由」
骨格はしっかりとした演奏だったものの、内声とのバランスで安定感を欠く演奏でした。課題曲の入りのユニゾンや決めるべき和音は良かったのですが、経過音の音の崩れが顕著だったのと、また、課題曲の最後の和音も音がずれてしまったりするなど、ともすると、音がなっているだけの演奏になってしまっていた感があります。そうすると表現にもズレが生じてしまい、平板な演奏となってしまったようにも感じます。また、横の流れを失わないためにも、ブレスのタイミングを十分気をつけたい所。カンニングブレス、とも言いませんが、もっとフレーズは長くていいと思いました。シンプルな千原和音で苦手分野が出た一方、「僕が歌う理由」の旋律部は上手く仕上がっていました。しかし、イントロが雑。特に連鎖する上昇音型をもっと大切に。ステージインタビューによると、「日本語が得意」なんだそうです。なら、もっと頑張れる。

2. 岐阜大学コーラスクラブ
指揮:森田真之
千原英喜「第一の言葉」(混声合唱のための『十字架上のキリストの最後の言葉』より)
千原英喜「V Epilogue: Ave Verum Corpus」(混声合唱のための『どちりなきりしたん』より)
コンクール実績という意味では、今日の出演団体の中でも一二を争う実力を持つ団。有志での参加です。ちなみに、関西ということで、パンフレットの紹介文にも力を入れた(指揮者と筋肉たちの会話)ところ、見事に滑ってしまったと団の中にいる人が嘆いていましたが、大丈夫、僕には受けましたからw
課題曲のユニゾンで各団共通の「上昇音型問題」がありましたが、和声部以降は安心して聞けるいいアンサンブルでした。自由曲の頭でややハスキーになった女声が、そして1曲目の最後でタイミングが崩れてしまったこと、”pater”の/p/に不足感があったこと以外は、本当に素晴らしい好演!特に、「Ave Verum Corpus」は本当に美しい演奏でした。基礎的な実力を十分備えている団だからこそできる盤石の演奏といっていたところでしょうか。愛知県にいるときにもっと聞いておくんだった。

3. 甲南大学文化会グリークラブ
指揮:秋山達哉
Forde, Jan Magne「Safari」
発声が浅いなと感じましたが、課題曲ではさほど気にならないくらいのアンサンブル能力だったように思います。ユニゾンでの揃い方に好感が持てる演奏でしたが、他方で、入りでバラけたり、オブリガードにいまいち伸びがなかったり或いは時に音程が落ちたり、惜しい部分も多かった演奏でした。逆に自由曲では、縦がよくそろったものの(中間部のリズムパートは揃うのが遅れましたが)、他方で、声の浅さが表現に響いていたように感じます。もっと飛ぶと良かった。例えば、ストンプの入る曲でしたが、その間に入る和声に力を感じきれなかったのは大いに課題と言えそうです。勢いで聞かせましたが、終止の第三音など、技術的な課題はところどころに落ちていたように思います。

4. 和歌山大学アカペラアンサンブル
指揮:山中一弘
de Victoria, Tomas Luis「Ave Maria」
Brahms, Johannes「Schaffe in mir Gott ein Herz」(『2つのモテット』Op. 29 より)
全体として弱さを感じるのに加え、音作りも粗めに聞こえてしまったか。発声というよりは、フレージングの意識の問題だとメモには書かれています。特に課題曲、そしてブラームスで、フレージングの問題が顕在化し、ところどころ内声が外れたり(内声にも強烈なメロディ性がある曲)、forte を作るときに無理があったり、微分的な、音が分離したアンサンブルになってしまったように感じます。特にベースは、時間を経るごとに喉の方に声が上がっていってしまって、なんとももったいない。対して、ビクトリアは、音量設定の部分で他2曲と同じ問題が顕在化していたものの、カノン部をはじめ、比較的美しくはまっていたように思います。

インタミ15分。主に岐阜人の方々とつるんでました。だって僕ほら、名古屋人だし←

5. 高知大学合唱団
指揮:岡本直大
相澤直人「訪れ」(みなづきみのり)(『風にのれ、僕らよ』より)
信長貴富「こころよ うたえ」(一倉宏)
本番前に団員と握手を交わしてその場の空気を和ませる学生指揮者岡本くん。いいねぇ。いい心構えだ。
課題曲では、少し大きさに欠けるかなと思われた音、それ故ダイナミクスに少し欠ける点もありましたが、残り2曲ではその心配はあまりなかったように思います。特に、「こころよ うたえ」では、その良さが十分に表れました(僕はもっと遅いほうが好きですが笑)。課題曲は、まとまってこそいましたが、小さくまとまってしまったことそのものが課題のように思います。自由曲2曲は、どの団にも言えることかもしれませんが、もっと表現に「必然性」がほしいな、と思いました。例えば、「訪れ」のゲネラルパウゼについて、突然音が消えるのではなく、そこで歌詩の意味が切れたり、強調したりするという意味での必然性、あるいは、「こころよ うたえ」に秘められた、音と歌詩の密接な連環についての必然性。後者は、メロディが単体でさらっと流れてしまい、表現上とても惜しかったように感じました。メロディに負けてしまった、ともいえます。とはいえ、特に、「訪れ」のユニゾンと和声部の対比、さらに「こころよ うたえ」の和声的な想起は良い音が鳴っていたように思います。また、1曲目「訪れ」の、テンポのユルいパートで粗さが目立ちました。なんにせよ、あと少しの所!

6. 近畿大学混声合唱団
指揮:脇坂典佳
丸尾喜久子
「1. はじまり」「2. うわうわ」(『Space for mixed voices and percussion』より)
「森の話」
「4. Space」(『Space for mixed voices and percussion』より)
近畿大学で新造された団。曲は、全曲初演だと聞いていたようなそんなような。(と思ったら、初演は「森の話」だけだったようです。いずれにしろ未出版譜。2014/10/19追記)『Space』は、いずれの曲も、抽象性の高いボカリーズとリズム、そして色々なパーカッションがきかせる、非常に面白い曲です。少し表現にマクロ的な視点が求められおり、ハメる上では難しさを感じるような気がします。また、「森の話」はボイスパーカッションによるサウンドスケープ。そういった曲をコンクールの場に持ってきたことは、純粋に評価に値します。
演奏ですが、非常に、属人性の高い演奏となりました。特に女声は、力強いいい音が返ってきていましたが、それらの音が、アンサンブルをしていたかというと、果たして疑問です。それぞれがしっかりと歌うということ以上に、それぞれの音をしっかりと聴き合い、そして、それらについて十分理解し、寄り添った音を出しあうというのが、精神論だけでない、合唱の本懐であるはずです。ともすると、今回の演奏は、各団員のカラオケ大会のようになってしまったようなきらいがあります。所々その片鱗はありましたが、果たして、個人の技倆だけでどうしようもない表現が存在するとき、その表現を機能的に鳴らすことができたのか、今一度、検討すべき課題のように思います。未だ今年設立されたばかりの団体です。これから先、まだまだやらなければならないことがたくさん残っているかと思います。今後の躍進を期待いたします。

B部門(30人~60人)
7. 横浜国立大学グリークラブ
指揮:久我礼孝
ピアノ:村田雅之
多田武彦「石家荘にて」(草野心平)(男声合唱組曲『草野心平の詩から』より)
松下耕「今年」(谷川俊太郎)(男声合唱とピアノのための『この星の上で』より)
どうやら新入団員が多く入ったようです。全体的に、パートの中での音にコンセンサスが取り切れていないように感じました。発声はともかく、パートの中での微妙なピッチの違いが、いまいち淡白な演奏になってしまいました(個人的には嫌いではないのですが)。課題曲は、最後のオブリガードとのパートバランス設計に失敗してしまっているような気もします。他方、同じアカペラでも、「石家荘にて」はお見事な演奏。勿論、声のばらつきという問題はありますが、それを差し引くに、非常にいい音が鳴っていたように思います。何より、こういう場で、タダタケを聞けるというのが、これまた、よい笑
「今年」は、本日唯一のピアノ曲となりました。「短い旅に出るだろう」の下3声は決めるのが難しいのだろうかとか(もっとも、明グリも、ここではハーモニーが崩れていた気がします)、「自分を超えて大きなものを」では、自分どころかピアノに音量が負けてしまっているだとか、あるいは、再現部手前の「今年は」の絶叫で内声のテンポが遅れてしまったこと、そして、接続すべき音が途中で途切れてしまったりしたことなど、所々惜しい部分がありました。しかし、最後、ピアノの音とものすごくきれいな倍音を聞かせてくれていたのは、そして、その残響を楽しむような指揮に、心の底から音楽を感じることが出来ました。

8. 同志社コール・フリューゲル
指揮:増田花穂
Swider, Josef「Cantus glorioses」(Zwei Stüger より)
-「Laudate pueri Dominum」
課題曲の着想で一番好感が持てた演奏です。特に、指摘した「ちりぬるを」ユニゾンの跳躍の処理、「ゑひもせす」、そしてその前のテンポ設計が光りました。その他、指揮者が曲作りに時間を掛けたということの意味がよく分かる好演でした。全体としても、やや大人数らしいフワフワした演奏が気になりましたが、それでも、自由曲は自律性の高い良いアンサンブルを聴くことが出来ました。弱音分の表現、緊張と弛緩のタイミング、そして、発音、和声、発声など、自分たちの役割を十分に理解したアンサンブルが光ったように思います。その成果は、「Cantus」のリズムパートによく現れています。上三声のリズムパートでここまで聞かせるのはお見事。上手い団の基準ともいえるユニゾンも、よく揃っていました。気になった点としては、「Laudate」のオブリガードに緩みが見られたこと、「Cantus」のテナーの高音部が苦しそう(に聞こえた)点、そして、「Cantus」最後のアレルヤの、その前の子音がいまいち立ちきらなかったことを特記しておきます。しかし、それにしても、最後のアレルヤはもっとボリュームたっぷりに歌ってもよかったし、その資格はあったはず!いい演奏でした。ちなみに、お兄さんは先代のフリューゲルの指揮者だそう。なんてこった笑

このまま、コンペティションは終了。カレーパーティーの前に、審査発表が行われたそうです。執筆当時、結果は殆ど聞いておりません。が、リンク作るときにちょっと結果見ました。まぁ、諸々、出来るだけ気にしないことにしておきます笑 何にせよ、受賞は大変素晴らしいことです、各賞受賞された、本日参加のすべての団体に、心から拍手を送らせていただきます。大変面白いコンクールでした。ありがとうございました!

結果・報道はこちらへ↓
<大学合唱団>初代グランプリに近畿大(毎日新聞社)〈リンク切れ〉
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141018-00000084-mai-soci
(2014年10月19日追記)
JCDA関西による結果レポート
(2015年1月12日追記)

・感想
とてもおもしろい企画だなぁとは感じました。特に、学指揮をコンクールの必須条件にするというのは、なかなか無い試みで、その意味でも、育成を大事にしているJCDA関西らしさが光ります。実際試みとしても、色んな演奏・指揮を見ることができて、とても面白かった!プログラムも自由度の高い、色々な選曲が試みられていて印象的でした。
運営面での課題はお任せするとして、それにしても、今後、どんどんと成長していくべきイベントだと思いました。組織として内にこもることなく(それは、合唱界全体の問題だとも思ってしまいます笑)、今後共、日本、世界へと開かれた合唱イベントへと成長させていけるよう、関係各位益々の御活躍に期待しております。

ちょうど、このブログが上る頃には、懇親会が始まるところでしょうか?現地で御覧の皆様には、いい話の種になれば幸いです……まぁ、厳しい一言は、適当に水に流してやってくださいな笑

・メシーコール
朝カレー
久々のメシーコールだからっていって、特になんてことないんですが、一言お詫び申し上げておかなければなりますまい。
すみません、ニチレイのレストラン用ビーフカレー(5袋セット)でした(本日のカレーパーティーはハウス食品提供)

2014年10月15日水曜日

《新増沢方式で遊んでみる》その2:『ハーモニー』で追いかける、新増沢方式誕生の歴史

 おばんですわたべです。以前の記事からまた日が経ってしまっている気がしますが、気のせいです(たぶん)。
 さて、昨日、たまたま機会がありましたので、全日本合唱連盟の資料室に伺いました。で、そこで、ハーモニーのバックナンバーをざっくり当たってきたところ(本当は44号だけでもよかったんですが)、想像以上に面白いことが一杯わかったので、せっかくなので、ここに、全日本合唱コンクール審査の系譜を書き留めておこうと思います。

***

 増沢方式は、元全日本合唱連盟名誉顧問である音楽評論家・増沢健美によって考案された投票ルールです。増沢方式は、音楽コンクール(現・日本音楽コンクール、通称・毎コン、音コン)で利用するために考案された制度(清水(1960), No.151)で、その後、全日本合唱コンクールで利用され、大きく発展しました。ちなみに、現在の音コンでは、増沢式採点法は使われておらず、最高点と最低点を足切りして合算する得点方式が利用されています。ちょうど、昔のフィギュアスケートの得点方式や、現在のスノーボード・スキー種目の採点方式と似ています。ちなみに、かつては、TBSレコード大賞に増沢方式が使われていた時代もあるそうです(佐伯(1980))。増沢健美、偉大です。
 対して新増沢方式は、増沢健美本人によって増沢方式が改良されていったもの(No.6)の完成形として扱われています。探してみても、現在、利用実績があるのは、全日本合唱コンクールくらいであるようです。ルールは以前書いた通りですが、シンプルながら非常に複雑な制度をとるように作られていますが、何かと、「基本は多数決」という言葉が繰り返されて説明されています(No.44, No.151)。おそらくこれは、旧増沢方式が本当に決選投票のある過半数多数決方式で決められているに過ぎなかった(清水(1960))ことに由来するものと考えられます。

・いちばんはじめは
 増沢健美がどうもこの関係での著書を残していないらしく、調べた限り、一番初めにまとまった形で増沢方式について言及している文献は、清水(1960)ということになるようです。この本の中で、清水脩は、所謂「旧」増沢方式について解説を行い、「この方法が最上と思っている」とまで述べます。本書では、所謂順位得点方式(ボルダ・ルール)との比較を行い、このルールを「愚策である」とまで表現し、ボルダ・ルールでは得点の操作が容易に行われてしまうこと、さらに、それが以前の音コンではしょっちゅう行われていた(例えば弟子筋問題だとか、審査員の主義主張の大幅なズレとか)ことが指摘されています。これに対して、増沢方式ではそういった操作が行いづらいということです。
 また同時に、この執筆時期から、増沢方式が結構昔から全日本合唱コンクールで利用されていたことが推定されます。が、『ハーモニー』が創刊されたのは、第24回コンクール以降のシーズンであり、現在調べた文献だけでは、増沢方式がいつから全日本合唱コンクールで利用されていたかははっきりとはわかりません。

・増沢方式の名残り
 さて、『ハーモニー』が創刊された次の号、No.2 で早速全日本合唱コンクールの特集号となります。早速この号の時点で審査表が掲載されているあたり、ある種 JCA の意地のようなものを感じます。この第2号のコンクール特集の中に、「審査方法について」という形で、小さく、審査方法が特集されています。ルールの詳細については解説がなされていないものの、この時点では、どうも、「旧」増沢方式を採用していたようです。理由として、
(i)たんに「増沢方式」と記載されていること
(ii)審査表を元に計算してみると、新増沢方式では計算のあわないところがあること
の2点が挙げられます。
 しかし、それにしても、この時の審査方式、どうも様子がおかしいのです。金銀銅賞が順位決定後に投票で決められるというのはいいとして、問題なのは、4つの手順で説明されているところの2番目にあります。
「増沢審査員長を除く十四名の審査員による順位について順位法(増沢式)により結果を出す。(同順位が生じた場合は審査委員長の決するところによる)」
 よくお勉強いただいている方だと、この時点で、現在の想定とは大幅に違うことがわかるかと思います。現在の新増沢方式では、そもそも奇数人の審査員が前提となっており、審査委員長を含めた全員が投票し審査表を作り、もし同順位が発生した場合は得点方式での解決を試み、その上でも同点になってしまった場合、最後の手段として審査委員長の順位に従うことになっています。偶数であるということは、順位が拮抗する場合、同数票の生じる可能性が格段に高くなってしまうため、審査委員長決裁が多くなってしまいます。増沢審査員長は投票していないもののたしかに現場にいて審査をしているため、そもそも非効率です。実際の現場でも、おそらく増沢審査員長は独自の審査表を持っていないことには決裁もできないでしょうから、あまり意味がないことではあります。
 実際、この年は、推定では、高校の部の1位決定で審査委員長決裁での決定となっており**1、早速制度の問題点が露呈しています。しかも、審査表にその事実は記載されていないので、やや不自由が生じています。おそらく、「審査と表彰の主体は金・銀・銅賞を決めた投票にある」という審査全体に対する姿勢が紙面編集にも反映されているものだと思われます。とはいえ、さすがに問題意識がなかったわけではなかったのか、次のコンクールから大幅改定が加えられます。

・新増沢方式の完成
 第25回コンクール特集号では、朝日新聞企画部の中野昭による記事(No.6)で、増沢方式についての詳細な解説が行われています。しかも、前年までのルールから改訂がなされており、
・審査委員数は必ず奇数でなければならないこと
・決選投票が3者に渡る場合についての解説が(不完全ながら)行われていること
が明記されています。記事のタイトルは「増沢(方)式」となっているものの、この時点で、現在の新増沢方式と限りなく近い制度について解説されていることから、この、新しくなった制度は新増沢方式とみてよいのではないかと考えています*1。そこで、この項では、暫定的に、第25回コンクールを、新増沢方式が初めて全日本合唱コンクールで利用された事例として捉えておくことにします。コンクール審査員に増沢健美がいることから成せた業といえるかもしれません。ちなみに、この記事は、第26回コンクール特集号=No.10 でも、同一内容で掲載されています。

・新増沢方式の放棄
 ところが、こうして生まれた「新」増沢方式、わずか4回利用されただけで、全国コンクールでは利用が止められてしまいました。第29回コンクール(高松大会!)特集号の No.22、その審査表が掲載されたページで、「審査の方法が変わりました」という形で、わずか10行にまとめられた形でルール変更がアナウンスされています。それによると、審査員は9位まで順位をつけ、残りは一律で10位として取り扱い、その上で点数方式ボルダ・ルール(最小点数が勝者となるパターン)にかけて順位を決定します。なんと、せっかく新増沢方式が利用されていたのに、得点方式が使われるに至ったのです。それも、「愚策である」とまで表現してボルダ・ルールを退けた清水脩が、そして新増沢方式の考案者である増沢健美が審査員として健在の元で堂々と。その理由については特に言及されていませんが、この後暫く得点方式が継続された後、34回大会から新増沢方式に戻され(No.44)、35回のコンクール特集号(No.43)の次の号で、衝撃の事実が告白されることになります。
 ちなみに、このころから、安積女子、金沢二水、純心女子、静大、金大、住金、グリーンウッドといった、現在の全国コンクールでもおなじみの顔が出てくるようになります。とはいえ、安積女子はまだ銅賞。時代を感じます。

・復活と限界の告白
「新増沢方式を解明する」というタイトルは、現代で言うと、No.151 掲載の、Web 公開もされている記事が有名かと思いますが、もともとは、No.44 の特集で最初に使われたタイトルです。「実際にハーモニーなどで公表される審査表は全投票一覧という形をとるため、一見理解しにくい面があり、本部、支部へいろいろ問い合わせがあるようで」、本特集が組まれたというあたり、今も昔も、制度への評価は決して低くないものの、変わらず団体泣かせの制度ではあるようです。
 さて、ここで解説されているルールは、完全な新増沢方式ということができそうです*2。本記事のうち注目に値するのは、なぜ一旦得点方式へ移ったのか、得点方式から戻すほど新増沢方式には価値があるものなのかディスカッションが行われているということです。
 まず1点目、なぜ一旦得点方式に突然変わったのか。結論としては、本文の言葉を借りれば「音を上げた」から。要は、もともと計算を手計算でやっていたところ、特に順位が拮抗する部門で多大な時間がかかるようになってきて、成績発表までの時間が大幅に延びてしまってきて、結果を早く出すことを優先して得点方式に変更したとのことでした。新増沢方式が復活したのは、コンピューターの導入による成果。関西支部ではすでにコンピューターに寄る新増沢方式の採点が行われていたそうで、それを学ぶ形で34回コンクールから新増沢方式の復活が実現したのでした。しかし、それでも、10団体×11名審査員の審査表を計算するのに、当時は数十秒もかかっている点、目覚ましい技術の進歩です。今や、ご家庭のパソコンでも簡単に計算できる時代だというものを……(菅原(1999,2000))。
 2点目、なぜ得点方式がダメなのかについて。ここでは、点数方式として2種類提示されています。一つが、100点満点の採点方式、そしてもう一つが、ボルダ・ルールです。前者だけでなく後者も、清水(1960)の指摘通り、拮抗する両者のうち片方を極端に低い順位につけることで、贔屓の順位を上げるという操作が比較的簡単に行われるため、妥当ではないとされています*3。そんなわけで、新増沢方式の復活が待たれていたということです。

・現代は
 ご存知のように、様々な制度が過去、そして現在も試みられています。Nコンは、新増沢方式に近いものの少し異なる制度を用いていると言われていますし、さらに、全日本合唱コンクール周りで特に現在顕著なのは、所謂福島方式かと思います。これは、今も福島県合唱コンクール、並びに全日本合唱コンクール東北支部大会で利用されています。このルールでは、ボルダ・ルールとは逆に、得点を順位に換算し*4、それをコープランド・ルールにかけることで順位が決定されています。ちょうど、サッカーのグループリーグと同じような順位決定方式で、感覚的にわかりやすいことからも、昨今支持が高まっている方式です。しかし、コープランド・ルールにも決して欠点がないわけではなく(実際、結果の操作は割と簡単に可能)、今後、他のルールも含めさらなる議論と実用が期待されます。

脚註
*1 この解説においては、例えば審査員9名の場合において、3票、2票、2票、2票のような形で、2段階に分かれた3人以上の決選投票の形態について解説されていないため、この時点で完全な新増沢方式が完成されていたかは不明です。実際の審査表を計算してみたらわかることがあるのかもしれませんが、ひとまず、ご勘弁戴ければ……

*2 もっとも、ここで選択されている事例が非常に単純な事例で、旧増沢方式の範疇で解決出来てしまうもののため、ルールの説明としてはかならずしも厳密にはなされていません。

*3 得点方式、特に単純な採点方式については多く改良が試みられています。実際、先述した最高点、最低点の足切り方式はその一例ですし、もっと極端に、上から並べて真ん中の点数をつけている人のものをそのまま評価点にする方法も用いられています。後者は、median nomination などと呼ばれ、バイアスが非常に少ない制度として知られています。

*4 この操作が必要なのは、割と事務的な事情によるものと思われます。2014年現在、福島県合唱コンクールの中学校の部の出場団体数が70団体に迫っており、同声と混声を合同で評価するプログラム形式も相まって、中学校の部だけで2日間かかっています(!)。そのため、相対的な順位を審査員に求めてしまうと、逆に順位付けが曖昧になってしまうことから、得点を提出してもらい、それを順位に落とすという方式をとっているものと思われます。ですから、現在の全日本合唱コンクールの審査表を用いて福島方式(コープランド・ルール)の再現をすることは可能です。

**1 この部分、当初は審査委員長の裁定で決定していたものと思われましたが、改めてボルダ・ルールで計算しなおした所、1位が審査表通りに決定したため、審査委員長の裁定の前に点数方式での得票数決定がなされたのではないかと推定されます。しかし、上記で議論した内容については、なおも問題が健在しているものと考えます。実際、奇数人の投票を組み合わせる現在の審査表では、タイブレークの得点方式が用いられることは殆どありません。(2014年10月16日追記)

参考文献
・雑誌
「審査方法について」『ハーモニー』No.2, p.9
中野昭「順位法「増沢式」について」『ハーモニー』No.6, p.11
全日本合唱連盟「新増沢方式を解明する」『ハーモニー』 No.44, p.38-40
田辺正行「新増沢方式を解明する」『ハーモニー』No.151, p.100-103 http://www.jcanet.or.jp/event/concour/shinmasuzawa-kaisetu201001.htm
(他、No.2, No.6, No.22 に掲載の審査表を利用。文中では(No.**)の形で表記)

・書籍
清水脩「採点法」『合唱の素顔』カワイ楽譜, 1960
佐伯胖『「きめ方」の論理―社会的決定理論への招待』, 東京大学出版会, 1980

・Web(URL元はすべて投稿時確認)
福島県合唱連盟「審査方法について」 http://www.geocities.jp/fcl_fukushima/sinsahouhou.htm
斎藤善之「新増沢方式とは何か」, 2000, 2007, http://members.jcom.home.ne.jp/satsuren/shinmasu.pdf
菅原満「コーラス・ガウス君」1999, 2003, 
http://members3.jcom.home.ne.jp/math_community/gauss/gauss.html
渡部翔太「《新増沢方式で遊んでみる》その1:ルールについて」 http://shotawatabe.blogspot.jp/2014/09/blog-post.html

2014年9月29日月曜日

《新増沢方式で遊んでみる》その1:ルールについて

どうもこんばんは。わたべです。

例の「はじめに」から凄まじい日にちが経ってしまいました。実は、記事のバッファをつくろうとしたのですが、まぁ、お察しです。
気付いたらそろそろブロック大会が終わろうとしてしまっているので、備忘兼ねてアップしておきます。
ひとまずこの記事で、新増沢とはなんぞや、みたいな話は終わってます。間違い等が多分にあるかもしれませんので、そこら辺はお察しください。なお、途中から具体例の説明がありますが、わたべは関係諸団体の関係者ではありませんので、あしからずご了承ください。

【本日の内容】
・新増沢方式とはなにか
・新増沢方式の決定の仕方について

・新増沢方式とはなにか
 まず、そもそも、合唱や合唱コンクールと関わりない人にも分かるように、新増沢方式ってなんだよ、という問題について。合唱人に占めるコンクール人口の割合だけとっても、必ずしも多いわけではないですからね。
 「新増沢方式=新増沢式採点法」とは、「全日本合唱コンクール」で利用されている審査方式です。調べた限りでは、新増沢方式は、「全日本合唱コンクール」と一部を除く支部大会・県大会、また、それを模した制度が「NHK全国学校音楽コンクール」で利用されている程度です。もっとも、意外と多くの大会が審査方式を非公表にしているので、情報そのものが乏しい分野です。他分野の審査について情報お持ちの方いたらご一報ください。
 もともと、「音楽コンクール(音コン、毎コン、現・日本音楽コンクール)」で利用されていた「増沢方式」が改良されたものとして、全日本合唱コンクールに輸入されたことがきっかけです。ルールに不公平な部分が見られるということで、増沢方式を改良する形で、新増沢方式が考案され、全日本合唱コンクールでは利用され続けてきました。ちなみに、現在毎コンでは、嘗てのフィギュアスケートのように、審査員の最高得点と最低得点を足切りする形での得点方式を採用しています。
 増沢方式が、事実上「決選投票付き多数決方式」の繰り返しに過ぎないのに対し、新増沢方式は、意見が割れた場合、より慎重なアルゴリズムで決定を行う制度に設計されています。ここで、説明の都合上、2つ、投票制度を紹介しましょう。

*決選投票付き多数決方式(Plurality with runoff rule)
 新増沢方式のベースになる制度です。割と耳馴染みのある制度かと思います。具体的には、まず多数決で全体の票をあつめ、集まった票の上位で、もう一度多数決をして、最終的な勝者を決定する方式です。ふつう、決選投票に残れる対象は2つになることが殆どですが、新増沢方式では、この、決選投票に残れる対象が「全体の過半数を占めるグループ」になるのがミソです。

*コープランド・ルール(Copeland rule)
 簡単にいえば、所謂、リーグ戦方式です。ボルダ・ルール(Borda rule)と並んで、この分野の研究が進んでいる制度の一つで、こんな仰々しい名前がついています(多分、その一端を追々紹介することになります)。順位を元に、全団体を総当りで対決させて、取得した勝ち点の最も多い団体が勝ちます。周知の通り、サッカーのグループリーグが似たような制度を活用しています。但し、ここで、勝ち点は普通、勝ち=1点、負け=0点、引き分け(ある場合は)=0.5点、で計算されることが多いようです。負けを-1点、引き分けを0点とすることもあります。引き分けがある場合、引き分けの点数の割合次第で結果が変わることもありえます。ここでは、最初に書いた、勝ち=1点、負け=0点、で考えて頂いて構いません。

 この2つの制度を使って、新増沢方式を「分解」してみます。

  1. まず、審査表が作られます。審査表とは、審査員がそれぞれの団体の評価を順位にして提出したものを、一覧にしてまとめたものです。実務の都合上、ほとんどの場合、物理的に一覧にまとめられます。
  2. まず、審査表の第1位を見て、得票数がまとめられます。ここで、過半数を超える得票を得る団体が現れた場合、その団体がそのまま全体の第1位となります。
  3. もし、2.で決まらない場合、得票数の多い団体が、合計で過半数を占める団体の数だけ選ばれます。例えば、審査員が9人だとして(全国大会ですね!)もし団体Aが3票、団体Bが1票、団体Cが2票、団体Dが2票、団体Eが1票、他の団体が0票となった場合、団体A、団体C、団体Dが選ばれることになります《例1》。また、もし団体A〜団体Eが1票、団体Fが4票を、他の団体が0票となった場合、団体A〜Fは、この段階ではすべて選ばれます《例2》。
  4. 《例1》のように、3団体選ばれたうち、下位2団体(団体C,団体D)の得票が同一の場合、この2つの団体で多数決が行われます。審査表から、団体C,団体Dの順位をとってきて、それぞれの審査員がそれぞれどの団体が高い順位を付けているかを集計し、その結果で多数決をします。ここで勝った団体が、今度は最多得票の団体Aと、同様に決選投票を行います。
  5. 《例2》のように、選ばれた団体のうち、下位団体が複数にわる場合、この団体でコープランドを使い、勝者を決定します。4.と同様に、選ばれている団体の順位を審査表からとってきて、その順位を使い、コープランドルールを使って勝者を決定します。ここで勝った団体が、上位の団体と決選投票を行います。
  6. もし、審査員の数がもっと多く、より多くの団体が3.で述べた決選投票のグループに割り振られる場合、下位の団体から順番に、4.と5.のプロセスを繰り返して、勝ちあがり戦を繰り返し、順位を決定していきます。なお、上位得票団体が複数に渡る場合は、コープランドルールで勝者を決定することも、勿論ありえます。
  7. 以上で決まった第1位を抜いた順位表を元に、今度は同様のプロセスで第2位を決定していきます。このように、決まった団体を順位表からどんどん抜いていき、最後に、すべての団体の順位が確定するまで続きます。第2位以降の決定の中で、それまでに決まった上位団体の順位が動くことはありません。
 ……ややこしいですね!笑 新増沢方式って何?というと、こういう長い説明をすることになります(これでも、卒論よりは説明うまくなってるんですよ……?笑)。わかりづらいので、「新増沢方式を解明する」という全日本合唱連盟(JCA)のサイトでも、例を使いながら説明することが殆どです。JCAの説明における例はそちらを見ていただくとして、今回はせっかくなので、別の例を見てみたいと思います。わたべが勝手に「金城学院の悲劇」と呼んでいる、2012年度全国コンクール中学同声部門で実際にあった審査表です。


 ちょいと見づらいかもしれません。順位表は、『ハーモニー』のほか、合唱倉庫さんでもチェックできます。さて、上の順序にあわせて、この審査表を計算してみましょう。

  1. 審査表は、ご覧のとおり。史上稀な珍審査表だと思っています≒計算が鬼……。全国など、大きめの大会ではパソコンを使って計算するようですが、手計算組は、ここで、長い道のりになることを覚悟します。焦って計算ミスすると、間違ったとこからやり直し。おーこわ。
  2. 全体の第1位を決めましょう。まず、各審査員の第1位に注目します。それぞれの審査員の得票を集計すると、陵北1票、栄東2票、武庫川女子2票、金城学院1票、陽南2票、清泉女学院1票です。したがって、多数決では決めることが出来ませんでした。
  3. 上位グループを抜き出します。ここでは、2票を取った団体が3団体で合計6票、これで、9人の審査員の過半数を取れるので、栄東、武庫川女子、陽南がそれぞれ選ばれます。
  4. 下位団体が存在しませんし、上位団体も2団体より多いので、多数決では解決できません。残念。
  5. 3団体が同じ得票を持っているので、この3団体がコープランドルールで争うことにより、全体の第1位が決定します。まず、東栄vs武庫川女子。6対3で、東栄に勝ち点1。次に、東栄vs陽南。6対3で、東栄に勝ち点1。武庫川女子vs陽南。4対5で、陽南に勝ち点1。そんなわけで、勝者は、東栄です。
  6. これで、全体の第1位は、東栄に決定です。
  7. これを、延々繰り返していきます。筆者は2年前くらいに手で全部確認しました。なれてないと、発狂しそうになります←
 さて、あえて新例として挙げたこの審査表、とても不思議な結果が出ている表です。武庫川女子が第1位に2人も選んでいるのに第10位というのも十分不遇な感じありますが(他の審査員の順位が低いとこの傾向があります)、ここで注目したいのは金城学院。金城学院に色付けした審査表を見てみましょう。
 寺嶋陸也先生が第1位をつけている一方、藤井宏樹先生は最下位をつけています。その他の審査員の方の評価はいまいち振るわなかったものの、7人全員最下位はつけていない。この中ではもっとも「審査の割れた」団体といえそうです。で、総合結果を見てみる。なんと、最下位になってしまっています。第1位をつける審査員がいて、最下位を付けた審査員が1人しかいなかったのに、総合では最下位になってしまうのです。
 念のため言っておきたいのは、「誰も悪気があってこんなことやっているわけじゃない」ということです。自分の意思どおりに審査をして、それをルールどおりに並べてみたら、こうなっちゃった、ということです。実際自分も、演奏を聞いたわけではないので、この年の金城学院がどうだったのかとか、あるいは、桜山、仲井真、安田女子など、最下位を2票得ている団体と比べて演奏がどうだったとか、そういったことは言えません。しかし、あくまで、順位表には、こういう結果で出てしまっている。このルールのもとでは、中々結果を操作することが難しいことが一般的に言えるので(「少なくとも増沢方式よりは」)、その意味で、別に利益供与があったとは考えづらいでしょう(もっとも、最下位に仕立てる結果操作というのは普通に考えても余りありえないですが)。
 そんなわけで、審査表だけ見ると、これは十分「悲劇」といえると考えているのでした。何度も申し上げておきますが、この審査表に出てきたすべての方に、この審査表の限りにおいて、わたべが個人的な感情を持っているわけではありませんので、その点あしからずご了承ください。

 そんなわけで、新増沢方式の採点方法について、ご納得いただけたでしょうか? あくまで、このブログですべて分かるような簡単な制度ではないので、ぜひ、このブログをきっかけにして、県コンクールやブロックコンクールなど、気になる審査表をご自身で計算してみてください。正直、実務的な問題としては、それが一番、新増沢方式に慣れるための手っ取り早い方法です。「コーラス・ガウス君」などは、計算に慣れた玄人が使うためのツールです(すっとぼけ)
 次回は、世の中に存在するいろいろな投票ルールについて紹介してみたいと思います。といっても、世の中にごまんと存在する決定様式、紹介できても一部です。せっかくなので、色んな投票方式で、「金城学院の悲劇」を順位づけたらどうなるか、でもやってみましょうか(卒論でやっていない内容=死亡フラグ)。
 では。

(よろしければ、ご意見ください)

2014年9月18日木曜日

【東京混声合唱団いずみホール定期演奏会No.19】

2014年9月17日(水) 於 いずみホール

お久しぶりです。
なんだかんだ、愛知県コンクール以来、暫く、合唱から遠ざかった生活を送っていました。といっても、別に何を狙ったわけでもないのですが笑
そういえば、某連載が序文だけ書いて止まってたりしますね。気にしたらダメです←
さて、そんな中、久々の合唱活動は東混の大阪定期でした(お前パナムジカの倉庫いたよな、とかいうのも気にしたらダメです←)
またしても今年も、招待状を頂いてしまいました。委嘱会員になることを、強いられているんだ!

・Pick up:信長貴富
 合唱界隈ではお馴染みの、そして、非合唱クラスタの皆様にとっては「信長?織田?」な、そして、東混にとっては実は意外と馴染みのない、作曲家・信長貴富。自身の上智大学での学生団の活動を端緒に、朝日賞受賞などを通し作曲家の道を進みます。ピティナ課題曲などの器楽曲の他、自身の経歴も相まって合唱曲を特に多く手がけています。『新しい歌』『旅のかなたに』『初心のうた』『くちびるに歌を』など、耳馴染みよく聞ける初期作品、『食卓一期一会』『廃墟から』「銀河鉄道の夜」「Fragments〜特攻隊員戦死者の手記による〜」など、深淵に迫る近作のほか、「こころようたえ」「群青」など、心に迫る音楽を多く作られています。アマチュア出身なこともあるためか、東混では取り上げられる機会が少なく、既存作の再演も、過去一回にとどまっていました。そんな中、「東混 八月のまつり35」で委嘱され、東混初の信長委嘱となりました。ある意味で、待望された、ある意味で挑戦的な、「東混ルネッサンス」のマイルストーンとなるような、とてもセンセーショナルな出来事です。

・ホールについて
……もう3回目ですし、いい、ですよね?w
収録はビデオが下手側に2台、マイクが合唱団に3本、ピアノに2本1セット、吊りマイクという構成でした。リリース用か、記録かは不明。だいぶスッキリとしているもののリリースにも対応できる録音体制に感心した次第。
ちなみに、アラーム音周りで言いますと、今回は、時計のアラームが最後に鳴っていました。さすがに、電波を遮断してもなってしまう音。とはいえ、気になってしまうものでもあります。
今回はなんと、柵前の、中央列。特等席で聞かせていただきました。もちろん、最高の席で、最高の音が返ってくる席なのですが(残響が絶品!)、とてもとても、このような若輩者にとっては居心地が悪い席でした、その、負い目的な意味で笑
とはいえ、いずみホールは、出来る限りいい席で聴く、というのが、一番の聴取環境を得られるようです。身も蓋もないホールだ……笑

指揮:山田和樹
ピアノ:斎木ユリ(2,4)

4月の山田和樹音楽監督就任公演の再演が2つ、学校公演の披露が1つ、そして、大阪初演が1つ、と、とてもバランスのよいプログラム構成でした。大阪定期は、東京定期と比較して、東混の先進的なプログラムも、耳馴染みのいいプログラムも両方楽しめるのがポイントでもあります。

ヤマカズ先生、本番前に出てきてトーク。一つ目は、CDの宣伝(購入者特典付きw)、二つ目は、Facebook ではアナウンスされていた、曲順の変更。レビューのとおりになりました。最後が信長作品初演。

第1ステージ
Clausen, René(2011)『二重合唱のためのミサ曲(Mass for double choir)』

まずは、東京定期の再演から。さながら、大阪初演という向きもあります。2回目ともなると、曲の輪郭を捉えつつ聴くことの出来る感もありました。ヘテロフォニックな構成、群衆から沸き上がるような Kyrie、3部構成の典型的な、二群の応酬により構成される Gloria、壮大な絵巻としてキリストの伝説を見せる Credo、快活な、そして、Soli からこぼれ落ちる美しさが印象的な Sanctus、そして、地の底から沸き上がるような祈りの Agnus Dei、いずれも、曲週末の残響が本当に美しい、協和音に特徴的な快演でした。白眉は、Sanctus。絶品でした。音量バランスも、大きすぎず小さすぎず、ちょうどいい、いずみホールとよく合った上品なサウンドでした。指摘する点として、特に Kyrie の最初が、少しピッチが低かったか。とはいえ、終始最初のピッチを保っているのは、さすがの音感、と思わせるところがあります。さすがに長大な曲(特に Credo は8分超え!)だけあり、1回だけでは構成を把握しきれない向きもある曲ですが、他方で、何回でも聞きたくなる、全く疲れを感じさせない円熟の演奏でした。
クラウセンと、鳥獣戯画の入った、東京定期の音源が、9月26日に販売されるようです。会場で先行販売していたので、思わず購入。主目的は、演奏会後にあるミーハーイベントだなんて、言えない、言えない。
しかし、今CDで聴きながら書いているのですが、否、壮大な曲です。本当に。

第2ステージ
鷹羽弘晃(2013)「混声合唱のための『歌い継ぎたい日本の歌』」より
「みかんの花咲く丘」(加藤省吾/海沼実)
「思い出のアルバム」(増田とし/本田鉄磨)
「おもちゃのチャチャチャ」(野坂昭如(吉岡治)/越部信義)
「幸せなら手をたたこう」(木村利人/スペイン民謡)

学校公演の定番ナンバーから4曲。かねてから何かと、こういったポップスへのリクエストも多く、最近プログラムに組み込まれることが増えました。技術的にしっかりした演奏で聴くポップスというのは、アマチュア合唱団が歌うそれ以上の感動があります。以前は東混と全国の学校を周っていたこともあるヤマカズ先生、楽譜を紹介しつつ、「えっと、次何やるんだっけ」という小芝居茶目っ気も披露。こちらも、さながら少年の心持ちで聞いていました笑
まずは、クラウセンの複雑なミサ曲から開放するように、落ち着いた盤石のハーモニーをみせる「みかんの花咲く丘」、思い出の高揚感と共にじんわりと、感動的に訴える「思い出のアルバム」、一転ジャジーな構成で、声の楽器を巧みに操りおもちゃの喧騒を表現する「おもちゃのチャチャチャ」、定期演奏会でもガッツリ参加型、みんなで楽しむ「幸せなら手をたたこう」、学校公演の雰囲気そのままに、楽しむことが出来ました。特に「思い出のアルバム」の聴かせ方と「おもちゃのチャチャチャ」の対比は、作品としても十分評価されるものでした。斎木先生のピアノもノリノリ。「おもちゃのチャチャチャ」の低音パート、これからのおまつりの始まりに、ゾクゾクしちゃいます。円熟の演奏に、演出。これをタダで聞ける学生達は幸せものですなぁ……(本日のおまいう)

インタミ15分。近大人に包囲されてました←

第3ステージ
三善晃(1984)「混声合唱のための『地球へのバラード』」(谷川俊太郎)

新表紙でのオンステ。といっても、特にカワイは新表紙に変わってかなり経ちましたが……。最近音友が新表紙になりましたね。
ヤマカズ先生曰く「逝去から一年。戦後の作曲家、詩人は、多く、生死について問いかける作品を書いてきた。そのうちの一つとして。」
4月定期と比べ、より精密な演奏が聴くことの出来た印象があります(といっても、初めて聞いた人に聞くと「はっちゃけていた」印象があるようですが。いい意味でw)特に、テンポが、1曲目は少し早めに、5曲目は落ち着いたものになった一方、いずれの箇所も、わずかばかり気になっていた細かい入りや5曲目のアッチェレランドが揃ったものに修正されていたり(ただし、ちゃんとaccel.している)、楽しむことが出来つつ、骨太に聴くことの出来る演奏になっていました。名演により磨きがかかり、スキのない演奏に。快演、そして、この曲が東混の新しい愛唱歌たることをアピールするに十分なものがありました。それこそ、2ステのような曲で磨かれてゆく、細かい演技的表現も光りました。今聞いているのが、作品集所収の合唱団OMPによる件の音源ですが、ああいう、細かい表現の歌い分けは、やはり、東混、そしてヤマカズ先生ならではなのかなぁという思いがあります。そして、相変わらずヤマカズ先生は終曲で楽しく跳ねていました。そう、これは、そういう気分でやっていく曲なのです笑
もう一度聞きたい、と思いつつ、26日発売CDには収録されていません。残念。とてもとても残念。今度お財布の様子見ながら大谷盤を買おう。

4ステ前には信長先生を客席から招いてプレトーク。信長先生、毎度お得意なことに、客席にしっかり紛れていました。そんな、一般人然としていなくても……そっちの方が落ち着くのかしら←
四連(の打ち上げ)で会っていた際には打ち解けるという程の機会は得ず、震災後、NHK(2011)の委嘱作「風をください」の初演を通し、信長作品を取り扱い、今回の作品へ。「はじめて「しっかり」信長作品に向き合うことになった」とは山田和樹先生。「合唱団が同じで指揮者が違うというのは初めての経験。楽しみ」とは信長先生。それぞれの挑戦になる今回の初演でした。「東混というと複雑な曲が出来上がる事が多いが」との山田先生の問いかけに、「複雑にしようという欲もあったが、今回は、八月のまつりのプログラムに合わせてちゃんと収まる作品を書いた」と答えた信長先生でした。さて、作品や、如何に笑

第4ステージ
信長貴富(2014)「混声合唱とピアノのためのエレジー『歌と石ころの転がる先に』」(和合亮一)〈2014年委嘱作大阪初演〉
これぞ、東混で聞きたかった信長サウンド!特に後半は、信長和声の信長らしさが十分に聞ける素晴らしいものでした。「涙が泣いている」という言葉の応酬に象徴的な、苦悩の滲む前半部、そして、「涙を拭きながら……夜明けの始発を 待とう」という決意の後半部。音楽界隈だと新実徳英「つぶてソング」としてはじめ紹介された、和合亮一さんの震災後の多くの『詩の礫』から、象徴的な言葉を抜粋しつつ、詩の世界を音像の風景として描写する、最近の信長先生の得意技。ライナーノーツに「非被災者たる自分を含む「私たち」に厳しく突きつける作品を書こうと息巻いていた」とあるように、ピアノから、合唱から、時に絶唱的なモチーフから、その断片がグサグサと突き刺さってきます。しかし、「福島をふるさととする人たちを悲しませない作品にしたい」、その思いから来る、力強く立ち上がる「ふるさとは夕暮れ」のモチーフ。逡巡する思いが、立ち上がり、そしてまたもとの風景へ収束していく。作中にも出てくる、新地駅の、行き先のなくなった歪んだレールに、日本の未来を投影したというこの作品。震災直後和合さんが眺めたこの風景も、信長先生が現地に赴いた際には、レールは片付けられていたとのこと。もしかしたら、この作品の静寂への収束は、3年の時の隔絶をも包含しているのかもしれません。とても深く、美しい作品です。
さて、演奏面ですが、東混作品としては難易度は決して高くないですが、最近の信長作品の音数の多さを感じることが出来ました。これをいいことと捉えるか悪いことと捉えるかは、作曲技術論なのでここでは差し置くとして、少し、音の多さを処理しきれているか、特に中間部に疑問の残る点こそありましたが、前半のヘテロフォニーの展開の繊細さと、終盤の盛り上がりは、一度は聞いてみたかった「東混の信長」です。ヤマカズ先生もはじめて扱う作品ながら、十分曲を把握し、いつもどおり、要所を抑えたシンプルかつアツい指揮で魅せてくれました。そして何より、斎木先生のピアノでこの曲を聞けてよかった!最初の突き刺さるピアノなくして、この曲の世界に私達を惹きつけることはなかったと思わされるほど。
そんなわけで、
答:これは、確かに名曲名演だが、十分に複雑な作品だぞ……?
「アマチュアでもぜひ」と、プレトークで両氏。ぜひその程、楽譜(出版されたら……されるでしょう!)でご確認ください笑
……あ、委嘱会員になれば、楽譜を手に入れることは出来るのか……←

・アンコール
三善晃「夕焼小焼」(草川信/中村雨紅/文部省唱歌)〈『唱歌の四季』より〉
もう、定番ですね。初演だとどうしても反応しづらいお客さんでも、反応上々です。特に、中間部、バリトン・セカンドテナーの隆起からの盛り上げ方は、東混、そしてヤマカズ先生ならではです。2台ピアノ版での録音を聞いていたこともあり、是非生で聞いてみたかった作品。本当に、聞けてよかった。出だしの女声 tutti から、一本の針が通ったように、はっとさせられるハーモニーです。

・まとめ
大阪への音楽監督披露公演ということで、プログラムの被り的には、もしや、自分はお呼びではなかったかしら、などと思ったり思わなかったりしましたが、否、それぞれの曲へのアプローチの違い、そして、それ以上に、学校公演の披露演奏や、何より、信長貴富大阪初演に触れられたのが、何よりよかった!
初演作、さながら、東混が信長作品に邂逅したということが何より大きいような気がしています。もっとも、以前に1作品再演があったのですが、それにしても、アマチュアでの人気に比べ、東混にとって信長作品はとても縁遠いものだったような印象があります。そんな中、ついに、東混が信長作品を初演するという事実は、あらゆる意味でセンセーショナルな出来事でした。信長作品の評価が一定した、とも言えますし、東混が新しい音の世界に出会ったということも出来る今回の「ルネッサンス」、素晴らしい相性に迎えられているような気がします。東混としても、信長先生としても、今後の活動に展開が十分期待できる内容でした。そして、(仮に演奏が至難だとしても笑)『歌と石ころの転がる先に』は、今後多く再演され、広められていくべき作品のような気がします。
公演としては、2ステも重要。学校公演の内実が日々明らかになっていく(笑)中、東混中もっとも公演数の多い演奏ではこのような曲が演奏されているのか、ということ、そして、歌い慣れも含めたレベルの高さを触れることが出来るのは、もはやオジサンとなってしまった筆者をはじめとする聴衆(巻き込んでゴメンナサイw)にとっても、いい刺激になります。否、小学生・中学生が羨ましい。これだけの質の高い合唱を聞いて育つことが出来るというのは、日本にとって財産ですし、何より幸せなことです。これからも是非、続けていって欲しい事業だと再認識しました。如何でしょうか、全国の先生方、学校に東混を呼ぶとか、あるいは、公演で使われる曲も入ったCDとか笑

・終演後は
CD購入者限定・山田和樹サイン会!名古屋以来2回目のミーハーになってきました。先行販売のCD、盤面が白く、サインにはおあつらえ向きでした笑 何やら、とあるお知り合いの方に色々弄っていただきましたが、まぁ、なんと畏れ多いことやら……苦笑

・メシーコール
肉を食べようと思い家を出た。昼はラーメンだった。夜はなぜか……
財布の中身が軽くなった!←

あと、なぜか、こんなド早朝に更新している!w