おおよそだいたい、合唱のこと。

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ゆっくりしていってね!!!

2014年4月19日土曜日

【東京混声合唱団 第234回定期演奏会「東混ルネッサンス」】

2014年4月18日(金) 於 第一生命ホール

投稿がだいぶ遅れてしまいました。言い訳すると、当日こだまで東京まで乗り付け、就活中につき、選考一本受けてからホールへ赴いた次第。その後夜行バスで帰り、家で気付いたら昼過ぎまで仮眠していました、といった次第。今回のバスは、そこそこ眠れたはずなのになぁ……あ、東京駅のバスターミナル、めちゃめちゃ綺麗になってましたね。

さて、2ヶ月連続の東混でした。正直、金銭面からも、行くのは難しいかなぁと思っていましたが、偶然にも、上掲の某御社が就活試験をその日にやってくださるということで、行ってきました。ありがとうございます某御社。今回は、ご縁がなくとも恨みっこなしで手打ち出来そうです(単純)

さて、演奏会は、ざっくりまとめると、超名演でした。最近長いので、頑張って短くしますw

指揮:山田和樹
オルガン:浅井美紀(1)
コントラバス:幣隆太朗(3)
打楽器:池上英樹(3)/池永健二(3)

・演奏会概説
山田和樹・音楽監督就任公演でした。東混を50年以上引っ張ってきた田中信昭・桂冠指揮者の跡を継ぐ大役を任せられることになった山田和樹先生、通称、ヤマカズ。東混では、以前より「コンダクター・イン・レジデンス」「レジデンシャル・コンダクター」として積極的に活動していました。有名な仕事では、東混の委嘱活動としては異色な曲風ながら、広く人心を掴んで離さない、東混の定番レパートリーの一つになった、上田真樹作品の初演活動が挙げられます。この他、東混と多くの新規レコーディングを重ね、東混50周年の記念として、「懐かしいアメリカの歌」を皮切りに6枚連続リリースを重ねるなど、往時の東混では考えられなかったような自主企画CDのリリースを定番化しました(以上、いずれもブザンソン獲得前!)。もちろん、嘗ては東混主要事業のひとつ、学校巡回公演にも!東混とヤマカズ、切っても切れない関係です。他にも、早稲田大学グリークラブと共にしたシーズンもありましたし、ヤマカズ先生と合唱は、先生のキャリアとしても大変重要な位置を占めているようです。日経によれば、嘗てはヤマカズ先生も唄い人だったとのこと。まさに、音楽の源流が、歌にあると言えます。
(私事ですが、某企画合唱団で、ヤマカズ先生と同じステージに立てたのは、ちょっとした自慢ですw)

・ホールについて
第一生命ホール。関係無いですが、こちらにも立ったことがあります←
とんでもなくデカいビルの中に入っている、ビル内ホール。東京駅からスマートなアクセスをするのが難しい場所にあります(最寄が都営)。ゆったりとした客席と、高い天井が特徴的な、贅沢なホールです。ホールの広さからして、潤沢な響きを提供してくれます。それでいて、響きすぎることがない点、非常に優秀なホールと言えます。少しばかり、ホワイエが狭いのが難点か。しかし、ステージの広さとしても、客席のボリュームとしても、シューボックスタイプのホールとして、クセのない、使いやすいホールではないかと思います。ちなみに、当日満席を予定してたとか。確かに、東混としてはお客さん入った方ですが、満席ではなかったような……?

心なしか、普段合唱をあまり聞かれないお客さんもいらっしゃったように思います。ヤマカズ効果ってやつでしょうか。

・第1ステージ
J.S. Bach "Komm, Jesu, komm"(「来たれ、イエスよ、来たれ」)BWV 229(1732)

東混各団員の個人の技倆が十分に発揮されるステージだったように思います。非常に、声楽的な、また、時代を踏襲した、ある意味器楽的な仕上がりになっていたように思います。この時代の構成美からして、同一の旋律を何個も重ねていくことによって音楽全体を進行させるというのがひとつ特徴的な点だと認識していますが、そこらへんの詳しいことは、何より団員の皆さんなら一般常識に過ぎないのですね(笑)いい意味でリハーサルから自由な、それでいて、ああ、いかにもバッハ、という、バロックの音色を余すことなく表現していたように思います。さらっとやっているけど、実際やろうと思うと、難しいんだろうなぁ……と思いながら聞いていました。若干、1曲目対位法の部位でバラける部分があったか。しかし、あくまで整頓するような合わせ方ではなく、「息遣い」で合わせているように思いました。お客様は相変わらず数奇なものが好きな方が多いようで(笑)、あまり反応がよくなかったですが、隠れた名演、というにふさわしいかと思います。

・第2ステージ
R. Clausen "Mass for double choir"(「二重合唱のためのミサ曲」)(2011)

本当に素晴らしい出来。技術的には、難しいことがさもさらっと表現される辺り、何か錯覚を覚えますが、突然テンポが緩んだり、和声がゴッチャゴチャしてたり、それでいて一本の筋を曲としては持っていたり、と非常にむっずかしいことばっかりやっていました。アメリカの現代音楽と東混は相性が悪いのかな?と思っていた時期が密かにあったのですが、そんなことは最早払拭されたように思います。ヤマカズ音楽の真骨頂として、こういった和声の構成美があるのですね。特に主要な和声においては、その機能的分析に合わせて、残響を含めて徹底的にコントロールする。おそらく、リハーサルでもっとも時間を割いているのは、その部分なのではないかと思います。合唱団員としても、徹底的に考えることが要求され、その中で自然に生まれてくる音楽すら吸収していくという、とても有機的な作り方。それが、この曲の作り方としてとても適合していたように思います。曲はとても写実的。ミサを一つの絵巻のように捉え、めくるめく展開していくことで、全体としてミサの風景を描写していました。特に、Credo は、その典型。とても複雑な構成を、一つの物語のように、しっかりと描写しました。Gloria、Sanctus の輝かしさも白眉。

インタミ20分。珍しく?客席でおとなしく待ってました。
そういえば、全体を通して、アナウンスの音量が非常に小さかったように思います。どうしたんだろう。

・第3ステージ
間宮芳生『合唱のためのコンポジション第5番「鳥獣戯画」』(1966)

現代の東混、ここに極まれり!あえて、こう書かせていただきます。Tokyo Cantat で再び陽の目を見ることになるまで、東混の録音(14,000円する豪華パッケージのひとつ)以外には完全に秘曲扱いされていた、怪曲中の怪曲。(実は執筆直後からずっと、もっとも怪曲扱いされていたのは九番「変幻」ではなかったかと思い直していましたが、ずっと放置していました……笑 なんにせよ、演奏本数が少ないのは間違いでもないのですが。2014/10/19追記)『鳥獣戯画巻』という、中世に描かれた絵巻をテーマにした映像作品の音楽として提供されたものが基底にある作品。ステージ初演は東混です。絶叫や爆笑、あるいは慄き、そういった、様々なモチーフを構成的に展開しながら、中には、ジャズやロックの要素を混ぜつつ、一種狂乱的に進行していきます。これまで数多くの怪曲を演奏してきた東混において、これくらい、お手の物とでも言うべきなのか、さもさらっとやってのけます。学校巡回公演という、メセナのようにしか見えない事業は、こういうところで芸術としても生きてきます。ここまで来ると、音を離れて最早演技的な要素が非常に強いのですが、その所、巡回公演では、かっちりとした基礎をベースに、そういった tips を混ぜることで、「楽しませる」公演とするのが基本となっているようです。つまり、本格的な音楽という本質は残しつつ、余力的なところで、そういった仕掛けをドンドンと織り交ぜていく。まさに、その活動の繰り返しが、余力の幅を広げていっているのではないでしょうか。余力だったものを全力で求められる「鳥獣戯画」において、その実力がいかんなく発揮された印象です。ノリノリのヤマカズ先生、そして、コントラバスと打楽器のお三方も素晴らしかった。特に幣先生のジャジーなベース、癖になります。時折起こる、我慢できなくなったような笑い声も心地よい、拍手喝采、大盛況の演奏でした。
[2014/4/20追記]『鳥獣戯画』のディスク、上掲以外にも録音があったというご指摘を戴きました。情報提供ありがとうございます。とはいえ、録音はやはり東混の様子。さすがの大曲、といったところです。
間宮芳生 作品集-現代日本の作曲家シリーズ10 

・第4ステージ
三善晃『混声合唱のための「地球へのバラード」』(谷川俊太郎・詩)(1984)

意外にも東混は、最近になるまでこの作品の録音を残していなかったようです。嘗ては、三善晃先生と谷川俊太郎先生のコンビによる作品の個展を開催したり、大作『レクイエム』を再演したり、非常に精力的に三善晃作品を取り上げてきたヤマカズ先生にとって、就任披露公演のメインがこの作品になるというのは、ある種必定だったともいえるかもしれません。この時代の三善作品というと、東混が集中的に取り上げていた時代とは少し毛色の違う、アマチュア委嘱によるポップス的な作品の多い時代ですね。ちょうど、桐朋学園大学学長を務められていた、先生もっとも忙しい時代。東混と三善作品というゴールデンコンビで、この時代の作品が少ないというのは、そこら辺も理由のひとつではないかと推察します。演奏の方は、1曲目のメロディが聞こえてきた段階で、ああ、成功だと確信させる、文句のつけがたい名演でした。どうしても、細かい音符が多くて、ポップな曲なのに重くなりがちですが(特に2曲目や4曲目)、逆にそういったところをさらっと流すというのは、プロならではの演奏ではないかと思います。また、5曲目は、ヤマカズ先生フルスロットル!特に後半からは、ここって accel. か!?というところでグングン加速してき、まさに「ピクニック」の雰囲気そのものでした。あえていうなら、そこで少しテンポ的にはガタついた気がするのですが、多分、ヤマカズ先生はわざとやってますので……リハーサルでも、特に何も言われていなかったのではないかと邪推しています(笑)。この程度なら簡単にやってしまうわい、それ以外のこと考えよう、という、東混ならではの身軽さが、この音楽を引き立てていたように思います。そう、この時代の三善音楽の特徴は、その身軽さにあるのですから。演奏直後に響き渡る、観客からのブラボーの大合唱が、ヤマカズ音楽監督の就任を歓迎する、ファンの心情そのものです。

・アンコール
木下牧子「夢みたものは」(立原道造・詩)(2004)

ヤマカズ先生の、アンコール前の就任ご挨拶。なかでも、アンコール曲紹介のあとにぽつりと言われた一言が、とても印象的でした。
「東混とは、まだまだ、あれをやりたいとか、これをやりたいとか、様々な夢を持っています。」
今後の東混の方向性は、また田中時代とは全く違ったものになるのだと思います。でも、そんな東混の将来も、この音楽監督ならばまず間違いないだろう、という、心地良い信頼があります。その象徴としての、この、心象風景としての、「夢みたものは」。最初から最後まで、期待に満ちた、よい演奏でした。

・まとめ
新しい東混にして、この音楽監督あり。まさに、「東混ルネッサンス」そのものでした。Twitter でもちらほら、「これまでの東混のなかで一番よかった」という声が聞こえてくるほど、近頃の東混の中でも充実した演奏会でした。技術的には、東混の出来ることをリストアップするかのようなバランスの取れたプログラム構成を、どれも余すことなく、十分表現しきったように思います。特にこの中でいうと、ヤマカズ先生本人のコメント にあるとおり、バッハが一番の挑戦とも喩えられるほど、今回のプログラムは多岐にわたって素晴らしかったように思います。まさに、東混としてできる事、これからの東混が目指す多様性を再構築していたプログラム。そのプログラムに、東混全体として、とてもよく応えていたように思います。これまで培ってきたものに加えて、これから目指すべき音楽を十分に理解しきった名演を披露してくださいました。
そして、ヤマカズ先生が音楽監督に就任されたというのは、政治的な意味合いでもとても有意義なことのように思います。今回もちらほら、ヤマカズ先生目当てという方がいらっしゃっていたように思います。このように、指揮者目当てで演奏会を聞いて(僕もオケではよくやりますので……笑)、そのまま合唱に興味を持つ層が出てくれたり、或は、合唱をクラシックの1ジャンルとして認識する層が出てきたり、そういった、学校音楽の範疇にとどまらない、多様な合唱理解のあり方がなされうることは、とても素晴らしいことのように思います。特に今回、そういった演奏会の端緒として「鳥獣戯画」や「地球へのバラード」が紹介されたのは、とても大きいことのように思います。創作、そして普及の面においても、東混が、新しい日本の音楽をこれからも作り続けることを願ってやみません。そして、新時代の東混が、それを実現してくれることを、信じています。

……結局、長くなっちゃいましたねw