おおよそだいたい、合唱のこと。

ようこそお越し頂きました。
主に、管理人が参りました、合唱団の演奏会のロングレビューを掲載しております。
また、時折、気分に応じて、合唱如何関係なく、トピックスを記事にしています。
合唱ブログのつもりではないのに、気付いたら合唱ブログみたいなことになってきました。
やたら細かいレビューからノリツッコミまで、現状、合唱好きな方の暇つぶしには最適です。
ゆっくりしていってね!!!

2015年8月5日水曜日

【第82回(平成27年度)NHK全国学校音楽コンクール・愛知県コンクール・全県予選】

2015年8月5日(木)於 瀬戸市文化センター大ホール

今度はちゃんと合唱の記事だよ!!!
いや、アレも頑張ったんだけど、今度はちゃんと合唱の記事書いていくよ!笑
というわけで、Nコンが愛知で始まると聞きつけて、のこのこ行ってきました。初めての名鉄瀬戸線全線乗り通し。普段は守山生涯学習センターに行くために守山自衛隊前駅を使用する程度でして……ちなみに、途中、水野駅には「駅からダッシュで14秒」の歯医者さんがあるようです……と、車内アナウンス広告で聞きました笑 御用ある方は是非笑
実は初のNコン。大学合唱からこの世界に入った自分としては、何かと新鮮な世界でもありました。

・Nコンについて
っていうことについては、公式サイトさんとかNコンブログさんとか今日出会ったNコンマニアさんとか、詳しいところが色々あるんですが、そこから色々ちょっぱってかいつまんで笑
中学や高校での学生合唱では、主に2つのコンクールに出る機会があります。ひとつが、朝日新聞社と全日本合唱連盟が主催する「全日本合唱コンクール」、そしてもうひとつが、このNHK全国学校音楽コンクール、通称・Nコン。小中高の合唱コンクールの中で広く支持されているNコンは、全日本と並んで、日本の合唱界における2大コンクールのひとつです。一方で、Nコンヲタというわけでもない、合唱好きにとってのNコンの魅力といえば、テレビで放映されるという点。県コンクール以上はテレビ放映され、なかでも全国大会は、体育の日を含む三連休の週に、各大会の生中継が、多くの人に親しまれています。
しかし、県大会「以上」と書いたのは、それ「未満」があるから。実は、参加校の多い県では、県大会前に予選が行われます。特に小学校、中学校は参加校が膨らみやすく、各地で参加校数を調整するために地区予選が開かれることが多いのですが、一部の県では、高校ブロックでも県大会を予選と本選に分けて、参加校数を絞ることがあります。その「一部の県」に含まれるうちの一角が、愛知県コンクール。予選で18校16団参加しているところを、5団に絞り、本選である県大会への最初の関門となっています。華々しい全国の舞台の裏にある、一番最初の、全国大会との契機――そんな、ひとりひとりの晴れ舞台の様子を、少し覗いてきました。とはいえ、予選をやる理由は実は人数だけでもないような向きがありますが笑

・課題曲
この曲についてはまぁ、以前のブログ記事を非常に多くの方にお読みいただいているので、その点、いまさら何をか語らんといったところなのですが、解釈という点は差し置いて。今日ずっと聞いてて思ったんですけど、この曲、課題曲としてとても出来のいい曲だなぁと思いました。最初は小さな音の各パートの追いかけからはじまって、ポルタメントを含む和声構築、「ホットケーキにメイプルシロップ」のユニゾンとそこからの和声展開、「透明な銃を光らせろ」から「周りではばたばた人が倒れてる」、その後レガートへ向けたアーティキュレーションの構築力、そして、「恋人は眠っている」とオブリガードとともに感動的に歌い上げる力と、その後同じテキストをアカペラでひっそりと歌い上げる力、テンポを揺らしながら「暗黒の宇宙の彼方で星が燃えている」と歌う部分。そして最後には小さく「子猫の名前を思いついたよ」。ホント、「IROHA-UTA(以呂波うた)」と同じくらい。いやそれ以上といってもいいかも。それぞれの要素をしっかりと試しながら、それが有機的に繋がって、確かに一つの曲としての形をなしている。コンクールのためにありながら、コンクールを超えた範囲で、演奏曲としても十分聞かせてくれ、そして、圧倒的なインパクトと感動を以て私たちの心に残る曲。近年名曲が続くNコン課題曲の中でも、一二を争うレベルの名曲です。

・審査員
浅田邦穂・音楽教育推進審議会顧問
江端智哉・名古屋芸術大学非常勤講師
国藤真理子・愛知文教女子短期大学准教授
谷村真一・岐阜県合唱連盟会長
中川洋子・愛知教育大学名誉教授
講評を担当したのは谷村真一先生でした。講評を要約。
「Nコンと全日本、両方のコンクールの練習で忙しい中、一生懸命やってきたことに敬意を表する。金賞団体は順位をつけるのに本当に苦労した。課題曲、発表された時に感動しながら見たのを覚えている。なかでも「メイプルシロップ」は、とても勉強になった曲だった。ここにおられない人もこの曲を知られると、より人生が豊かになるのでは。「透明な銃」という言葉と世の中の激動――。表現では、高校生らしい、中身のあるフレーズ作りを。一人ひとりの解釈が演奏にどうあるか、そこを私はみた。音楽をしていて、主体的に作品に向き合っている――その点で見ると、皆本当に素晴らしい。他、審査員から「楽譜の読み取りをより深く」「参考音源のコピーのようにならない」「勉強と部活の両立が素晴らしい」「表現、特に、弱音について、ロングトーンなどでどういう音色、エネルギーで歌うか」という点言及があったことを付言」

・ホールについて
瀬戸市文化センター大ホール。はじめてきました。Nコンではなにかとお馴染みのホールのようです。ちなみに本選は稲沢です。「意外と」1,500人くらい入るキャパの広さが特徴的です。1階と2階の広さが大体同じくらいなんですね。だから、ホールの奥行きはそこまで広くありません。一説に、天井が高いホール、と。言われてみればそうかも。
内装レンガ張りで埋められたシックな雰囲気。しかしホールの中は明るく、フカフカした席、そしてとても素晴らしい冷房笑 市民が芸術や講演を楽しむという意味では申し分ない印象。雛壇はなんとキャリー運搬式の三段。なにあれ便利そう。ちなみにベルは、「ごーん……ごーん……」という、どこかにでも教会があるのかといわんばかりの、非常に荘厳な音響笑
ただまぁ、このホール、ステージにたまる響き方をします。キレイに響いて雑味はないものの、飛び目の合唱団でないとホールをうまく鳴らせないのがなんとも演者泣かせなところです。聞かせるのは難しい一方で、ホールのどこで聞いても鳴りが一緒なのは面白いホール。この感じ、ちょっと良く鳴るアゼリアホールって感じでしょうか。しかし、以前もどこかでいったのですが、何、鳴らせればなんということはない笑
あとなにより、あまり夏に行きたくないホールかも。いやね、道中暑い……コンビニもない……行き掛け上り坂……み、水……(大袈裟

まだ県予選の段階では、コンクールのタイトルが書かれたバナー看板もなく、コンクールという感じがどうもしないような、静かな中で戦いが始まります。しかし、アナウンサーは抜群にうまいあたり、Nコンですね……笑
金賞5つ、銀賞2つ、銅賞3つ。金賞団体が、県本選へと進みます。ステージに上ってから4小節だけ練習が可能とのこと。入れ替えは15人まで、ちなみに、緊急地震速報が出たらステージ上で「その場でしゃがむ」とのことですので、皆様是非覚えておきましょう!(?)

・午前の部
1. 愛知産業大学三河高等学校/愛知県立豊田高等学校(混声)
自由曲:木下牧子・混声合唱組曲『ティオの夜の旅』から「祝福」(池澤夏樹)
指揮:原勝祐(教職員)
ピアノ:長坂由紀(学外)
今年のびわこ総文でも合同での歌声を響かせてきたという合唱団が朝イチのトップバッター。課題曲は、着実に音が当てられていて、かつ強弱に対する意識も感じられます。アルトは特に好感。しかし、一発目でそう思わせても、まだ淡白と思わされる点がこの曲の難しいところ。テンポの遅いところをより繊細に表現できるとよかったか。また、フレーズの終端が雑になってしまったのも惜しいところ。自由曲は、エ母音が全体的に響きが落ち込んでしまいました。加え、旋律部でアンサンブルの縦のラインが崩れたトコロがあり、そこも惜しいところ。最後の和音はしかし、素晴らしい。キレイな音を鳴らすポテンシャルがある団です。ルネサンス音楽とか聞いてみたいかも。

2. 愛知教育大学附属高等学校(混声)【銅賞】
自由曲:arr. 信長貴富・無伴奏混声合唱による『コルシカ島の2つの歌』から「O Barbara furtuna(ああ、なんと酷な運命か)」
指揮:伊奈福久代(教職員)
ピアノ:横尾萌(学生)
子音がよく出ていたのが好感が持てます。一方で、特に無声子音の後で、母音が乗り切らないまま次の音に行ってしまう、という現象が頻発してしまいました。しかし一方で、表現については非常に面白い。前半部の表現を引き継いだまま、地続きかつ上品に「ホットケーキにメイプルシロップ」と表現する繋ぎ、個人的にはとてもよかったように思います。「でも銃声が……」という部分の「でも」もgood。しかし、上にある分、2回目の「ホットケーキに……」はもっとガッツリ歌ってもよかったかもしれません。自由曲は、最初のクレッシェンドでもっとじんわりと音量が上がっていくように出来るとよかったか。しかし、多彩な音色を持っているという印象を演奏からは抱きます。それなら、その多彩な音色をより活かせるようにそれぞれの要素の表現を磨けるとよかったか。あと、鳴った時、この団は強い。そのときの感覚を忘れないようにしたいものです。

3. 名古屋市立桜台高等学校(混声)
自由曲:信長貴富・寺山修司の詩による6つのうた『思い出すために』から「てがみ」「思い出すために」(寺山修司)
指揮:中川実徳(教職員)
ピアノ:村田麻衣(学外)
男声が少し上に当たらず、逆に女声は少し幼い発声となっていたでしょうか。女声は、オブリガード部で音程が落ちてしまった点があって残念なところも。また、ディナーミクという意味では良かったものの、細かい表現についてはもっとできたのではないかというような印象があります。もっとじっくり一音一音確認するという作業をしても良かったかもしれません。しかし、「でも銃声が……」のところにはコダワリを感じました。意欲は十分! 自由曲は、フレーズの扱い方に好感。特に「思い出すために」は、男声の旋律から、シンコペーション進行のリズミカルな表現もよく歌い上げられていて、かっこよく、丁寧かつ意欲にあふれた演奏でした。特に主題部の歌い上げの高揚感は見事でした。コンクールという意味では、要素要素指摘する点が多い演奏でこそあったものの、かなり好きな部類の演奏です。今後共その情熱で歌いあげて欲しいところ!
そして、何より言わなければならないこと。男声、よくぞ3人でここまでキチンと鳴らしたものだ! テナー2名、ベース1名の快演でした。

4. 岡崎学園高等学校(混声)
自由曲:信長貴富・混声合唱曲集『かなしみはあたらしい』から「未来へ」(谷川俊太郎)
指揮:山本千穂(教職員)
ピアノ:板倉晴香(学生)
のびのびと歌えているのがなにより良かったです。一方で、細かい点で指摘すべきところも。例えばヴォカリーズ、アルトの/a/が生声に開きすぎた一方で「ル」はよかった。後者に音を近づけるイメージが欲しい。また、今度は「でも銃声が……」はもっと切り込まなければならなかったか。とはいえ、最終的な目標は、上も含めて、のびのび歌った中へ表現の各要素をどのように位置づけていくかという問題ではないかと思います。音楽を大局的な流れの中で解釈したいところです。自由曲は、その点、十分歌いあげられる曲で、選曲がとても良いチョイスだったように思います。言葉が特に主題部でまっすぐ届けられているというのが印象的です。「未来だから」という表現は、だからこそ、もっと大切に歌いたかったか。ポイントだと考えるのは、低い音のところでどう歌い込むか、というところ。最後の伸ばした音に、この団の未来を感じたい。

5. 愛知県立西春高等学校(混声)【銀賞】
自由曲:面川倫一・無伴奏混声合唱のための組曲『ささやかな歌』から「もっと向こうへと」(谷川俊太郎)
指揮:水野麻美(嘱託員)
ピアノ:早川陽子(学外)
ひとまず、紹介文がとてもいいなぁと思いました。めっちゃ好き! でもこれ生徒が書いたものだったとしたら、多分将来枕を顔に押し付けてうわあああってなるやつかも……
表現がよく練られていて、飽きずに聴くことができたのが印象的。ディナーミクもしっかりしています。ただ一方で、音量が大きくなる前の箇所が捨てられる傾向にあったのが惜しいところ。例えば、「目覚めたいのに目覚めない」というときの「のに」など。大事な言葉が何処にあるかを十分見極めた表現としたいところ。ボリュームが十分だった一方、一歩上がるためには、その中の繊細さについて思いを馳せたい。自由曲、「あなたの……」など女声の支持音はよく聞こえてくるが、その裏の男声の対旋律が消えてしまったり。やはり、課題は課題曲と同一。最後のシンコペーションなど、繊細な部分をどう表現するかが肝要か。音の鳴りは申し分なく、ここまでで一番ホールを鳴らすことが出来ました。だからこそ、「その先」をどうしても期待してしまう演奏。音に乗った気合が、より技術に反映されるその時を信じて。

6. 愛知県立武豊高等学校(女声)
自由曲:R.シューマン「流浪の民」(E.ガイベル、石倉小三郎・訳詩)
指揮:磯貝綾子(教職員)
ピアノ:(課)安田みか(学生)、(自)竹内枝里(教職員)
なんと創部以来はじめてのステージ演奏だとか。しかし、最初の4小節練習でもしっかりと音を鳴らせている。最初から興味津々でした。
この団のポイントとしては、フレーズを最後まで伸ばすこと。フレーズに明確な意思をもたせた演奏ができるようにこれから改善していくべき。しかし逆に言えば、この団は、それをまずやるだけであっという間に化けていくと思います。それこそ、初出場と思えないくらいに、よく整ったアンサンブルをみせてくれました。加えるならば、もっと発声を鍛えられるとよいか。アルトの声量とソプラノの丁寧さをミックスさせたい。しかしまぁ、この課題曲を、創部まもなくでよく歌いきったものです笑 自由曲は、その点、今後もっと凝った選曲を期待したいところ。否、この曲大好きですし、そうそう簡単とも言えませんが、変な話、もっとこなれた選曲でもついていけるような気がします。その点で、しかし、この曲の表現としては、中間部の緩急についてもっとじっくり表現してもよいような気がしました。ただ単にリズムが緩くなってしまったような印象を受けてしまう。なぜテンポが緩むのか、それを考えるのが、この曲においての最大の表現なような気がします。

7. 名古屋市立向陽高等学校(混声)【銀賞】
自由曲:松下耕・混声合唱のための『あい』から「あい」(谷川俊太郎)
指揮:友森美文(教職員)
ピアノ:坪井佐保(学外)
友森体制2年目。Nコン単独出場は今年がはじめてとなりました。友森先生、譜面台の調整をしていたら、途中でネジが緩んだのか、ズドンと一気に下へ。そうか、思えばこれがフラグだったのか……(後述参考)
演奏。ハミングが少し暗いのが気になります。また、テナーに対してアルトが小さめに聞こえました。アーティキュレーションに配慮しているえんそうなのは伝わって来ましたが、それ以外の部分を捨てすぎてしまったようにも思いました。例えば、助詞が全然音にならなかった。また、「その血を吸った」のは一体何だったのか。また、ソプラノが「目覚めたいのに」と歌うオブリガードをどうアンサンブルに落としこむか、逆に言えば、少し浮いてしまったか。男声の熱さに対する女声の冷静さ。しかし、最後のハミングから「子猫の名前」の件は、上位校へと向かうこの団の風格を示していました。そして、この自由曲。この「あい」。大会の録音に残らないのが本当に残念で仕方がない! 音程、音量バランス、旋律の歌い方、この段階で既に完成度が非常に高いものでした。音楽の概形がここまで示されたアンサンブルを見せられたのは、この団に風格が出てきた証拠です。一音一音を大切に刻みながら、一方流れに豊かで単調でない。大人な曲をここまで表現し切る実力たるや。あえて課題があるとするなら「いつまでも生きていて欲しいと思うこと」の転調部。しかし――今回、銀賞に「留まってしまった」原因は、ひとえに課題曲にあるのかも。しかし、あの「あい」は本当に素晴らしかった……。

8. 愛知県立千種高等学校/愛知県立名古屋西高等学校(女声)【銅賞】
自由曲:木下牧子「にじ色の魚」(村野四郎)
指揮:伊木和男(教職員)
ピアノ:扶瀬絵梨奈(教職員)
総勢7人。しかし、この人数でこのボリュームが鳴らせているというのが何より素晴らしい。数年前の、同じく少人数で東北ブロック大会まで出た秋田北を彷彿とさせる演奏でした。ひとりひとりの音がよく飛んできていて、それで十分に音楽をしている。最大ボリュームが想像を上回る大きさを出せているので、逆に、もっとダイナミックレンジを広くすることができたかもしれません。そして、団の紹介文にもあったように、ユニゾンにはよく配慮ができている。この難しい課題曲を、よくぞここまで聴かせられるアンサンブルを仕上げてきたものです。自由曲になると、少しクセが見えてきたか。高声と低声の声質の違いが、フォルテになると目立ってしまいました。しかし、音色とよく似合った得手とする選曲。よどみのない少人数アンサンブルが木下音楽の協和音を鳴らすこと。表現、和声、アンサンブル、旋律など、各要素のよく光るいい演奏。納得の入賞です。

・午後の部
9. 愛知県立明和高等学校(混声)【銅賞】
自由曲:信長貴富・無伴奏混声合唱小品集『雲は雲のままに流れ』から「逝く夏の歌」(中原中也)
指揮:(課)一色南穂(学生)、(自)湯浅範子(学生)
ピアノ:戸谷誠子(教職員)
生徒主体で意見を出し合って音楽を作るという言葉の通り、表現がよく練られた演奏。音楽としての表現が本当に素晴らしく。フレーズのひとつひとつが磨かれていたように思います。特に「恋人は……」のアカペラは白眉。一方で、言葉が少々なおざりになってしまったか。また、結果として銅賞を受賞できたことからもわかるように、「このレベルまで」くると、男声の喉声発声やパート内の発声・ピッチの統一をちゃんと考えてみるとよりよいアンサンブルが出来るのかも。特に閉母音で音色がブレました。それこそ「恋人は夢を見ている」とか。自由曲は、全体の表現はよく考えられているが、内声に少し甘さが見られたか。音程というわけではなく、副旋律的に鳴る各音が膨らみに欠けるところでした。そのことも含め、中間のハミングがブレてしまったり、あるいは女声のぶつかりの妙をもっと聴きたいところでした。よく攻めたアンサンブルでした。しかし、まだ攻められる。まだまだねちっこく、十分表現することが出来る。今後の成長にも期待。

10. 愛知県立刈谷高等学校(混声)
自由曲:木下牧子・混声合唱組曲『ティオの夜の旅』から「ティオの夜の旅」(池澤夏樹)
指揮:福代まり奈(教職員)
ピアノ:(課)酒井あむる(学生)、(自)林菜々子(学生)
4小節練習ではよくボリュームが出ていたようには思いますが、一方、そのボリュームを使い切れていない印象も。弱音をもう少し芯のある声で、大きい部分はもっと大々的に歌いあげてもよかったように思います。雰囲気という意味ではよかったものの、ピアニストがしっかりと鳴らしていた分だけ、音量が足りないと思わされてしまう状態でした。また、フレーズの最後を切って整えているような印象を受けましたが、それよりは、細かく聞こえてしまうことの方が気掛かり。「ホットケーキにメイプルシロップ」における発声とボリュームを基準とするとよいかも。自由曲は、打って変わって非常に上手い。細かい音をよく喋れていてかつクレッシェンドが上手いのにも好感が持てる。その点、18人とは思えないくらいの大胆な表現で聞かせてくれました。後半はもっと言葉が聞こえるとよかったでしょうか。意欲的な表現はしかし、なにより評価したいところ。
ところで先生の譜面は旧表紙。最近頓と見なくなってきました。

11. 光ヶ丘女子高等学校(女声)【金賞
自由曲:信長貴富・無伴奏女声合唱のための『風のこだま・歌のゆくえ』から「月色の羽音―歌のゆくえ―」(大手拓次)
指揮:(課)内田若那(学生)、(自)白鳥清子(教職員)
ピアノ:白鳥清子(教職員)
部員数112人。この春にはブタペストのコンペで最優秀賞。なんてこった。練習で4小節歌っただけで信じられないくらい鳴る。ホールが変わったのかこれは。
表現の幅そのものは申し分ないのだが、一方、最初の出だしはネチっこすぎたかも。同じようなところで、「透明な銃……」のところは、もっと上品なエッジの効かせ方をしたかった。今のところ、野性がむき出しな感じになってしまっています笑 一方、「食べたいな」とか、「子猫の名前を……でも銃声が……」とかの表現は光が丘のためにあるといっても過言ではないのかも。特に後半は震えた。うますぎる。全体としては、メゾの表現と、それをどう外声が支えられるかという点が問題になってくるか。しかし、「目覚めない」とか含め、こんなにも鳴らせるというのか。自由曲は、コード進行が明白に見えるアンサンブル構築と揃いきったユニゾンが印象的。ただ、少し言葉が飛んできづらいのが気になったところ。いやそれにしても、中間部の声部分かれながら「小鳥よ……」と歌っていく応酬はもう完成レベルにすら達している。そこが完璧だからこそ、内声が喋りながら縦に揃うところで、もっと落差的にボリュームが欲しかったところ。過大な要求かも知れないが、否、まだ出るはず。また、最後のディミヌエンドは今一度検討が必要。
しかしまぁ、白鳥先生の振る時譜面台のネジがゆるかったか、ズドンと落ちたにもかかわらず、それにも負けず気丈に(?)歌い切るところ、この団は全国クラスの団なのだ、やはり笑

12. 金城学院高等学校(女声)【金賞】
自由曲:鈴木輝昭・無伴奏女声合唱のための『星翠譜』から「南天の蝎よもしなれ…」「双子座のあわきひかりは…」
指揮:小原恒久(教職員)
ピアノ:森貴美子(学外)
ポーランドでホームステイしたりジョイコンしてきたりしてきたそう。4小節をさらっとはじめてさらっときる小原先生かっこ良すぎですわ……笑
生声側に近い発声でしたが、ピッチの高さは目を瞠るところ。とはいえ、このレベルになると、ユニゾンが揃いきらないというのは一つ課題になるだろうか。ボリューム的にディナーミクの幅があまり広くないところも気掛かり。しかし、言葉はよく聞こえてくる。一方、この声質だといまいち深刻さが伝わってこないのが辛いか。もっと表現に多彩さがあると、課題曲はよかったか。突き詰めると、結局そこなのかも。最後の「子猫……」のあとの残響は気持ちよかったです。そして自由曲。金城と輝昭音楽がここまで合うとは正直思ってなかったです。逆にこちらは、取りこぼし少なくよくまとめられていました。ディナーミクも、ユニゾンも、こちらはしっかりと克服されている。2曲目も、コード進行がよく表現されているのが、輝昭音楽を聴く上で十分な指針となり、非常に好印象。メゾが針に糸を通すような非常に良い仕事をしていたように思います。表現の細かさはしかし、より頑張ることができるのでは。

13. 愛知県立岡崎高等学校(混声)【金賞】
自由曲:信長貴富・混声合唱のための『Anthology』から「序」(不詳)「星のない夜」(及川均)〈初演〉
指揮:近藤惠子(教職員)
ピアノ:前田菜織(学生)
Twitterで議論する限り、自由曲はどうも初演らしい、ということで、信長(貴富)の野望に早くも加わっています。この曲の詳細についても今後の進展がまたれるところ。楽曲については私のツイートでもご覧いただくとして笑
最初は少し音色が重いかな、と思ったら、そんなことはない。思った以上に前へ進むアンサンブル。表現については範になりうるディナーミクを見せた一方で、最初からなにかと深刻に過ぎた面も。また、ソプラノのオブリガードが相対的に音量不足だったのが気掛かり。しかし、「銃声が激しくってよく聞こえないんだ」の後のヴォカリーズは絶品。他方気掛かりなのは、ボリュームの割にホールが鳴りきってないように思われる点。また、アカペラ部はこの団、もっと聞かせられるはず! 自由曲、演奏面では、擬態語を中心にモチーフの繰り返しがよく出てくるが、そこでどうしても中だるみが出てくるので、その点、十分音量を保って演奏したいところ。また、全体として強音が目立つ楽曲だけに、弱音の表現が課題となってきます。もっと弱音の集中力を高める練習をしたいところ。その意味では、「メイプルシロップ」と結局課題は同じなのかも。しかしまぁ、この団で鳴らしたい曲を書いたのでしょう信長先生、音響効果を考えると名曲の予感がプンプンしてきます。

14. 愛知県立岡崎北高等学校(混声)
自由曲:松本望・混声合唱組曲『あなたへ』から「やわらかいいのち」(谷川俊太郎)
指揮:大谷和正(教職員)
ピアノ:内田悠里(学生)
合唱以外にもバンドとかなんだとか色々やっているそうで。バンド……? 3年生抜きで、それでも40数人いるというなかなかな大所帯。
「食べたいな」でもっと刺さる表現を聞きたかったという点からしても、今ひとつ、音圧に欠ける点があったか。どこかフワフワしている。しかし、岡高の後というのを差し置いても、よく鳴らせていたように思います。ホールを使うのが上手。そして後半からは本当によくもちかえしました。この曲をどう表現したいかという意図がよく顕れた快演。改善するなら、フレーズの頭をより明白に出すということを徹底したいところ。例えば、これはあらゆる団にあてはまりますが、「ホットケーキ」の「ホット」に苦戦していました。そして自由曲。以前G4になったことがありますね。この曲は、頭出した途端にすべてが決まる鬼畜曲。もっとなにより、ふくらませにいかないといけません。「メイプルシロップ」で明白だった表現に対する欲が欠落してしまった感。この曲に振り回されているような表現となってしまいました。全体としてフレーズが短いというのもその象徴かも知れません。淡白なまま流れた演奏。そこに「何か」を残したかった。

15. 桜花学園高等学校(女声)【金賞】
自由曲:信長貴富・女声合唱とピアノのための『不可思議のポルトレ―与謝野晶子の四つの詩―』から「I. 歌はどうして作る」(与謝野晶子)
指揮:奥山祐司(教職員)
ピアノ:下山麻衣子(教職員)
ディフェンディングチャンピオンみたいなものですね。課題曲は、最初の音が食いつきすぎて少々空回りしたのを除けば、とても明快な演奏。ただ一方で、表現の意図は明白なものの、もう少し「落差」をつけてもよいと思われる部分も。たとえば、「逃げ出しちゃった」のあたりなどがそれにあたります。しかしその分、テンポのゆらぎをどの団よりも恣意的に、かつ効果的につけることができました。中間部は特に見事! 各パートがそれぞれちゃんと出てくるのも素晴らしいところ。あとは、それをよく活かすことの出来るような演奏がしたいところ。自由曲では、ユニゾンがよく通る団だけに、こういったしっかりと歌う曲はまさに得手とするところ。特に、鳴らすべきところが良くなるというのが印象的。それでいて、強音の中にもダイナミックレンジがしっかりしている! 序盤や中間部の音色の使い分け、言葉も見事。特に最後の「真実はある」という言葉は本当によく聞こえてきました。シンプルな曲にこそ、その実力が見える。この時点でこの出来は見事です。

16. 名古屋市立北高等学校(混声)【金賞】
自由曲:三善晃・混声合唱曲集『木とともに 人とともに』から「生きる〜ピアノのための無窮連祷による〜」
指揮:三沢満里子(教職員)
ピアノ:戸谷誠子(学外)
全体として、ユニゾン、パート内の音色のブレというのがどうしても気になってしまうところか。伸ばす音がベタッとなってしまうのも惜しいところ。一方、ディナーミクについては、これを待っていたという、細かく正確なものをみせてくれました。音もよく鳴っている点、やはり問題点は最初にあげた細かい音の鳴らし方か。だって、この課題曲の表現、多分今日の演奏団体の中では一番の出来でしたから! 他団と比べれば若干淡白でもあるのですが、しかし、それが逆に効果的に響いていたように思います。自由曲は、全体としての音楽の構築力が見事です。フレーズの短いように聞こえるのを、フレーズのボリュームをコントロールすることで、全体として横の繋がりを生み出し、かつ縦もよくはまるという相乗効果を生み出していました。ただ、「いのち」の「ち」で母音が遅れがちだったのは気になるか。いやしかし、ナニ、この団、未だ健在ナリ。表現というポテンシャルが、なにより素晴らしいところ。

・まとめ
とあるNコンマニアな方と帰りがけ話していたんですが、Nコンって、テレビに出ている以上のドラマがあるコンクールなんですよね。例えばある団にとっては、このコンクールが3年生引退演奏ってこともあれば、ある団にとっては、目指せテレビ出演! と目標を掲げることもあるだろうし、更に言うなら、自分は西春が銀賞で「ああ、惜しかったなぁ」と思っていた一方で、当の本人たちは声を上げて喜んでいたりして。もちろん、当たり前に全国を目指していく団も、そしてその中には人数制限の都合で熾烈な出演者争いをしている団員もいるのでしょう、それらを含めて、それぞれの形の青春をぶつけていくのがNコンです。私のように大学から合唱をはじめて、Nコンと無縁な中で育ってきた人間からしたら、どうしても気になるのは結果、どこの演奏が聴ける、聴けない、という感じで聴きがちなんですけれども、その裏には、本当に、人間一人ひとりが持つドラマが潜んでいる。今日の演奏は、テレビに映らないどころか、実は「Nコン on the Web」にも音源すら上がりません。その中でそれぞれの青春を輝かせる合唱人たちに思いを馳せると、本当に、合唱という音楽は裾野の広い音楽だし、その裾野の広さに思いを馳せていくことで、より深くより広い世界を見ることが出来るのだなぁと思い知らされるものがありました。合唱祭とも違う、それでいて全日本ともまた違う――今日来て、演奏聞いて、本当によかったなぁと思いました。全部ひっくるめて、「今日まで」Nコンに参加された皆さん、お疲れ様でした! そして、全国でこれからNコンに挑んでいく皆さん、どうぞ全力を尽くせるよう、頑張ってください。
あと、Nコン沼ってジャンルはとてつもなく深いんだなって心から思い知りました()