おおよそだいたい、合唱のこと。

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主に、管理人が参りました、合唱団の演奏会のロングレビューを掲載しております。
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ゆっくりしていってね!!!

2014年2月22日土曜日

【混声合唱団名古屋大学コール・グランツェ第36回定期演奏会】

2014年2月21日(金)
於 刈谷市総合文化センター大ホール

新年初のレビューは、地元名古屋の演奏会です。

え、名古屋じゃなくて刈谷?しらん←

伊東先生の都合で、平日開催に変更になったと聞いています。とはいえ、お客さんは大入りでした。さすがグランツェ。

・ホールについて
通称「アイリスホール」。愛知県民にとっては、愛知県合唱コンクールの会場として開館当時から有名です。客席に座って落ち着いて演奏会聴くのは初めてです笑
見た目はなにより素晴らしいです。ステージがよく開けていて、開放的な環境でステージ全体を見わたせます。客席は縦に高く、どこから見てもステージが見えないということはなさそうです。
響きは、不思議なものがあります。ステージ奥がすぼまっている割には、天井の高さが非常に高い。2階席でも天井の圧迫感を感じないだろうと思います。その天井の高さが、非常に響きを散らす。後述のグランツェの音色の問題もあるかと疑いますが、どうやらそれだけでもない模様。非常に澄んだ音が返ってきますが、音圧を求めるのが非常に難しい音響です。散っている、というわけでもなく、恐らく、どこかにベストな集音点があるのだと思いますが。なお、少し前よりの位置で聞きました。ちなみにスタインウェイにしては、ピアノの調律が硬めという印象を受けました。ホールの影響でしょうか。

前評判通り、とても重厚なプログラムです。若干辛口かもしれません。

・第0ステージ(エール)
小林秀雄「グランツェ それは愛」(峯陽)

名古屋の大学合唱人なら知らない人はいない、グランツェ名物の団歌です。落ち着いた主題と再現、そして中間部の躍動するリズムがあまりにも特徴的で、名古屋の合唱人なら「グラーンツェーグラーンツェーグラーンツェー♪」と、主旋律なら余裕で追える曲です。製作陣も豪華。
入場が、少しもったりしていました。6列あるので時間掛かるかと思います、もう少しささっと歩いたほうが良かったかもしれません。もっとも、ここらへんは流行りみたいなものもありますが……。
男声が非常に多いのが特徴的ですが、だからといってうるささを感じることのない、よい音量バランスを保っていました。さすがグランツェ。オープニングらしい、さわやかな音響でした。「グランツェ」をマルカートで演奏しているパターンはあまり聞いたことがありませんでしたが、よく効いていたように思います。

・第1ステージ
松下耕「混声合唱とピアノのための『信じる』」(谷川俊太郎)
指揮:今泉渉(学生)
ピアノ:安田有沙

キレイにまとまっていました。という言葉で普段は満足しそうになるのですが、グランツェだからこそ、是非気にして欲しいコト。本当にキレイだけでいいのか、という命題に、是非今後チャレンジしてみて欲しいです。音が綺麗ということは必要条件ではありますが、十分条件ではないというのが、私自身の考えでもあります。逆に、キレイであるがために阻まれる表現というものが、世の中にはたくさん存在します。例えば、今回で言ったら3曲目「泣けばいい」のブルースが特徴的だと思いますが、あの曲でどこまで遊べるか。あの曲で、意識的に――否、無意識かもしれない――響きの低い母音をフレーズ頭に含むと「コブシ」になります。そうすることで得られる表現を、どこまで選択できるか。4曲目、主題の回帰に対して篭められた思いは何だったのか。キレイであることだけが、あの曲の「救済」だったのか。
念のため申し上げておきます。とても上手でした。ああ、グランツェだ、素晴らしい音だ、と思いました。でも、そんなグランツェだからこそ、もう一歩上に行くために、この曲の完成のためにできることは、まだまだたくさんあるのではないか、という、そういう意見です。その意味で不十分でしたし、でも、十分な演奏でもありました。何より、指揮者の振り方はカッコ良かったです。3曲目とか。

・第2ステージ
相澤直人「混声合唱アルバム『小さな愛、4色』」(みなづきみのり)〈委嘱初演〉
指揮:伊東恵司

プレトーク、あるいは前日のFBで先生本人がおっしゃっていました「学生だけで取り組めるライトな曲を」というみなづき先生と伊東先生(合計1名)のリクエストに伴い、重厚なプログラムに対してライトな曲を書こう、と。そして、ラブソングを書きたい、色にまつわる4曲だ、という3つの意味を込めて、このタイトルだそうです。ところで先生の元カノは(以下自主規制)
曲について。非常にさわやかな曲調で、とても親しみやすい曲だと思いました。特に4曲目「夕焼け空」は非常に美しい曲でした。僕は単純にリフレインに弱い、という説もありますが……w大学生だけでも歌えるか、という観点で言うと、確かに出来なくはないかもしれませんが、グランツェくらいの実力がない多くの団(笑)だと、2曲目「雪うさぎ」3曲目「チョコレート」はシンコペーションリズムが多用されるので、その処理が難しいかもしれません。三善歌い慣れてる団なら、(難易度的に)なんとでもなる程度の曲かと思います。ちなみに1曲目「林檎のかたち」は三善晃逝去に接し書かれた曲とのこと。
演奏。曲によくハマったいい演奏でした。グランツェの音質は、こういう曲に対して最高に相性がいいんですね。ただ、ホールとの相性という意味では、こういう鳴らし方を拾いづらいホール、というのはどうやら間違いなかったようです(よくも悪くも)。ただ、取りこぼすところのない、よい演奏でした。一瞬荒れそうかな?と思ったところは、第4ステージへの伊東先生の布石だと再解釈しています。
2曲目でケータイ鳴ってました。ちゃんと電源切っておかないとですね。ちょっとこのステージは目立って雑音が多かったです。初演なのに。

インタミ10分。このプログラム構成にして、鬼である。

・第3ステージ
木下牧子「混声合唱組曲『方舟』」(大岡信)
指揮:木村美幸(学生)
ピアノ:安田有沙

昨今のグランツェの選曲傾向をがらっと変える方向へと持って行っている正指揮者、一世一代の大舞台。2年前は、グランツェがこの曲をやるとは思えませんでした。考えてみれば、今年は全曲日本語曲。時代は変わるものですね。……って、そういえば、カエル語があった。
さて。最初の3曲は、piano や「間」の織りなす表現について不足が目立ったように感じます。記譜されている事項はいずれもできているのだろうとは思います(譜面を見たことないです、すんません)。しかし、あくまで機能的に付けられているにすぎない表現に落ち着いてしまっていたように思います。言い方を変えると、まだまだアオい。もちろん、あの人数のピアノを活き活きしたものにするのはとんでもなく至難だと思いますが、それにしても、もう少しがんばって効かせると、曲の魅力が一気に伝わるようになったのではないかと思います。息を多めに混ぜてみるとか、子音のたて方変えてみるとか。
4曲目は素晴らしかったです。段々と歌に芯が入ってきた、いい感じで終わることが出来ました。特に出だし、よい音圧でした。言葉も、段々と浮き立ってきたような感じです。

・第4ステージ
高嶋みどり「混声合唱組曲『青いメッセージ』」(草野心平)
指揮:伊東恵司
ピアノ:平林知子

いつものグランツェでも、いつもの伊東混声の音の作り方でもありませんでした。悪い言い方をすれば、凄く粗かった。でも、びっくりするくらいに、うまい演奏だったなぁ、と思います。
伊東先生が、同志社グリーの出身です。この『青いメッセージ』も、男声合唱のレパートリーとして不朽の名作と語り継がれており、今も数多くの名演が残されています。初演は関西学生混声合唱連盟によるものですが、初演時も伊東先生が指揮を振っているとのこと。恐らく、この混声版に対する思い入れを誰よりも持っているのではないかと思います。
こういったリダクション曲というのは、大変に演奏が難しいのではないかと思います。特に、このように人口に膾炙した名曲だと、少なからぬ人が「原曲」のイメージを以て再演に臨むため、しばしば原曲の名演を聞いていることが多く、そのイメージを払拭することや、あるいは、曲の新しい価値を再構築することがとてもむずかしい。同じような作業を、グランツェとしては、松本望『天使のいる構図』の混声版初演の際に経験していますが、その際は、初演のあまりの良さに若干物足りない印象を覚えたのも事実です。
今回の再演で、グランツェは、先般書いたような「きれいな演奏」を少なからず捨てていたように思います。ものすごく荒々しく、まるで関学グリーの攻めこむような、いかにも男声合唱という音作りを積極的にしてきました。本来だったら、崩壊してしまいそうなぎりぎりのラインで、荒々しくも堂々と、『青いメッセージ』の世界を表現しようとしていました。これが成立したのも、グランツェの元の音があったからだろうとは思います。だからこそ、しかし、「秋の夜の会話」から続く、「サリム自伝」や「ごびらっふの独白」の表現の仕方に、心から拍手を贈りたいと思います。ギリギリの均衡に立った演奏、必ずしも満足しきれない部分も多いですが、とてもよい演奏でした。
……しかし、「月蝕と花火」「青イ花」があんなに難しくなっているとは思わなかった……笑
遊びの注文としては、やはり、「婆さん蛙ミミミの挨拶」はもっと変声したいですね笑

・アンコール
伊東・平林:相澤直人「うた〜結ばれるとき」(混声合唱アルバム『私の窓から』)(みなづきみのり)
木村・安田:木下牧子「そのひとがうたうとき」(谷川俊太郎)

いずれも、いかにもグランツェという音をしっかりと鳴らせる、十八番的プログラム。よく決まっていました。どちらも、うたをメインに据えた楽曲。この、泣かせるプログラムの中で、多くの4年生が骨太に歌い上げるあたり、さすがグランツェです笑

・ロビーコール
信長貴富「しあわせよカタツムリにのって」(混声合唱曲集『旅のかなたに』)(やなせたかし)
信長貴富「線路は続くよどこまでも」(無伴奏混声合唱による日本名歌集『ノスタルジア』)
小林秀雄「グランツェ それは愛」(峯陽)

ここにきて突然の信長祭り。これは来年に対するフラグなのでしょうか笑
そして最後は団歌。これもまたおなじみです。
あ、あと、やたら胴上げが多かったです。愛されてるんだなぁ、どの団員も笑

・まとめ
グランツェのような団だと、次のステージの模索というのがとても難しくなってきます。毎年破竹の勢いで増える(今回は合計123名!)団員たち。音を揃える以前に合唱初心者をも多く迎えるのはコンクール上位大学団でも同じこと。恐らく普通以上の期待を背負った上でそれなりの結果を出しながら、自身の音を更に高めていくために努力しなければならない。恐らく、僕が想像できる以上に大変な立場にいるのだと思います。その中で作り上げられる演奏会。個人的には、第4ステージに今後のヒントが隠されているように思えて仕方ありません。逆に言えば、それだけ期待できる演奏でしたし、グランツェレベルで伸び代がはっきり見えるというのは、チャンスとも言えるような気がします。今後共、切磋琢磨できる大切なライバルとなれるように、僕らも努力しなきゃなぁと思わされる演奏でした。これからも期待しています。

そういえば、超本気モードの伊東先生だった割に、雨降りませんでしたね笑