おおよそだいたい、合唱のこと。

ようこそお越し頂きました。
主に、管理人が参りました、合唱団の演奏会のロングレビューを掲載しております。
また、時折、気分に応じて、合唱如何関係なく、トピックスを記事にしています。
合唱ブログのつもりではないのに、気付いたら合唱ブログみたいなことになってきました。
やたら細かいレビューからノリツッコミまで、現状、合唱好きな方の暇つぶしには最適です。
ゆっくりしていってね!!!

2014年10月18日土曜日

【第1回大学合唱コンペティション】

2014年10月18日(土) 於 エブノ泉の森ホール(小ホール)

さて、今日は遠路はるばる大阪・泉佐野へ。でもホント、自分は阪急沿線民なので、そこからしたら遠いんですよ、南の方って。阪急から地下鉄に乗り継ぎ、南海へ(梅田からはJRという道もありますが)。しかもそこからまた歩く。用事はこれだけだったのに、結構な長旅でした。
何をしに行ったかといいますと、「大学合唱コンペティション」というイベントへ行ってまいりました。関西合唱コンクールにはとうとう行かなかったのにね……明日? うーん……笑

イベントについて
《主催》JCDA日本合唱指揮者協会
《主管》JCDA日本合唱指揮者協会関西支部
《後援》毎日新聞社 株式会社ハンナ
関西指揮者協会発のイベント。珍しく、JCA全日本合唱連盟と朝日新聞が噛んでいないイベントです。それも、朝日新聞が噛んでいないとなると毎日新聞が食いつくあたり春夏甲子園を思い出しますね!
関西支部が非常に力を入れていて、色々と凄いことが起こっているイベントでした。メインイベントは聞いてきたコンクールですが、それ以外にも表彰式後のカレーパーティー、団ごとの個別指導、さらに研修会もついています。そして、その中身もまたすごい。
・「必ず」学生指揮者が振ること
・審査員は、伊東恵司、日下部吉彦、清水敬一、千原英喜、松下耕(五十音順)
・さらに特別審査員に小瀬昉・ハウス食品グループ本社(株)取締役相談役、宮内義彦・オリックス株式会社シニア・チェアマン
・特別審査員が決定する副賞付きの特別賞(やたら豪華だったらしい)
・さらにいってしまえばカレーパーティーはハウス食品提供
・課題曲は千原英喜書き下ろし「IROHA-UTA(以呂波うた)」
・そしてパナムジカがブースを出展
そんなわけで、色んな所に力が入っているなぁというのがよく分かる運営スタイルでした。あえて言うなら、もう少しチケットを売っても良かったのではないかなぁといったところでしょうか。チケットの入手経路が事実上、サイトからメールする以外にありませんでしたので……ちなみに、沼丸先生が事務局長で、チケットもそこからやって来てちょっとびっくりしました笑
開演前の洲脇副委員長の挨拶からみても、かなり強烈に、1週間ほどでイベントや交流を込みでコンクールを行う海外のコンクールを意識して作っているようです。審査方式は持ち点100点の点数式。100点を各団に振り分けるのか、100点満点で各団を採点するかはよくわかりませんでしたが、最高点最低点の足切りはしないようです。その点については、前回のポストでもご参照戴ければ笑
いずれにしろ、「歴史の第1回に出られたことを自慢して欲しい」とまで言い切るあたり、力の入れようが感じられます。実際、トロフィーもン万円かかったとかなんとか笑
ちなみに、小瀬氏は同志社グリー、宮内氏は関学グリー出身だそうです。宮内氏は、手元を見ると、楽譜も見て審査をしていました。合唱界、たまに凄い人出ますよね……(遠い目)

ホールについて
初めて行ったホールです。北摂からはアクセスしづらい場所にありますね……阪急はそろそろ難波まで延伸してくれませんかね笑 さらに、泉佐野から歩いて20分くらいかかる場所にありました。JRの最寄りもあるようですが、僕自身は南海経由で行きましたので詳細不明……多分あっちのほうが安かったんでしょうが、まぁ気にしない←
さて、ホールは、ちょうど愛知県で言うと文化小劇場を少し大きくしたようなホールです。内装も、豪華に見せている工夫はありましたが、まだホールが若いのもあり、全体として、まだ風格というには遠いようです。公営のホールだなぁというのを強烈に感じる、とも。ちなみに、客席は史上稀に見る絶壁ホールです。目測の感覚では、ステージの高さと同じくらいのところまで客席が迫ります。……言い過ぎ?笑 ちなみに、ベルのメロディが素敵です。
シューボックスタイプのステージではありますが、響きがステージの中だけで鳴ってしまう印象も強いため、なかなか付き合うのが難しそうなホールです。こういうホールこそ実力が試される、という意味では、コンクール向きと言ってもいいかもしれません。とはいえ、決して音を汚すような響きをするわけではないので、もっと頑張ってほしいなぁというホール。近隣の方が使うにはおあつらえ向きかもしれません。むしろ、外のホールへ入る動線をちゃんとして欲しかったですね……トイレ我慢しながら迷うのは辛かった笑

・課題曲について
千原英喜「IROHA-UTA(以呂波うた)」
シンプルな構造で以呂波うたを読み上げていく歌ですが、総合的な技術力を問う、コンクール審査員も歴任されている千原先生ならではの良曲かつ難曲です。特に最初の出だしのユニゾンの上昇音型などは、印象的ながら技術的に上がるのが難しく、ほとんどの団がその部分で音程を落としていたのが本当に勿体無かったように思います。加えて、和声部で基本的な和声を問い、「あさきゆめみし」で低声・高声のポリフォニーでボリュームを上げ、「ゑひもせす」でボリュームを潜めて縦の休符を収めつつ、かつ情緒的に歌いこなす、その後対位構造への理解を問い、さらに終止の三和音をきっちりと決めることも当たり前に求められる、と、合唱団の基礎体力を求めてくる曲です。課題曲の送付を意図的に遅くしたそうですが、おそらく、この辺の基礎力を問うための工夫なのでしょう。後者の「ゑひもせす」の収め方も、基本的に、どの団も手早く進んでいってしまった印象でした。指揮者の合唱団コントロール力もこの曲で同時に測れる。いやはや。この作曲能力に、ただただ脱帽。

・各団自由曲と寸評
会場行ってみたら、部門なんてあったんですね……2つに分かれていました。審査ではどうしたのか、よく知りません笑

A部門(6~29人)
1. 立命館大学メンネルコール
指揮:内山倫史、西川澄
千原英喜「もう一度」(星野富弘)
佐藤賢太郎「僕が歌う理由」
骨格はしっかりとした演奏だったものの、内声とのバランスで安定感を欠く演奏でした。課題曲の入りのユニゾンや決めるべき和音は良かったのですが、経過音の音の崩れが顕著だったのと、また、課題曲の最後の和音も音がずれてしまったりするなど、ともすると、音がなっているだけの演奏になってしまっていた感があります。そうすると表現にもズレが生じてしまい、平板な演奏となってしまったようにも感じます。また、横の流れを失わないためにも、ブレスのタイミングを十分気をつけたい所。カンニングブレス、とも言いませんが、もっとフレーズは長くていいと思いました。シンプルな千原和音で苦手分野が出た一方、「僕が歌う理由」の旋律部は上手く仕上がっていました。しかし、イントロが雑。特に連鎖する上昇音型をもっと大切に。ステージインタビューによると、「日本語が得意」なんだそうです。なら、もっと頑張れる。

2. 岐阜大学コーラスクラブ
指揮:森田真之
千原英喜「第一の言葉」(混声合唱のための『十字架上のキリストの最後の言葉』より)
千原英喜「V Epilogue: Ave Verum Corpus」(混声合唱のための『どちりなきりしたん』より)
コンクール実績という意味では、今日の出演団体の中でも一二を争う実力を持つ団。有志での参加です。ちなみに、関西ということで、パンフレットの紹介文にも力を入れた(指揮者と筋肉たちの会話)ところ、見事に滑ってしまったと団の中にいる人が嘆いていましたが、大丈夫、僕には受けましたからw
課題曲のユニゾンで各団共通の「上昇音型問題」がありましたが、和声部以降は安心して聞けるいいアンサンブルでした。自由曲の頭でややハスキーになった女声が、そして1曲目の最後でタイミングが崩れてしまったこと、”pater”の/p/に不足感があったこと以外は、本当に素晴らしい好演!特に、「Ave Verum Corpus」は本当に美しい演奏でした。基礎的な実力を十分備えている団だからこそできる盤石の演奏といっていたところでしょうか。愛知県にいるときにもっと聞いておくんだった。

3. 甲南大学文化会グリークラブ
指揮:秋山達哉
Forde, Jan Magne「Safari」
発声が浅いなと感じましたが、課題曲ではさほど気にならないくらいのアンサンブル能力だったように思います。ユニゾンでの揃い方に好感が持てる演奏でしたが、他方で、入りでバラけたり、オブリガードにいまいち伸びがなかったり或いは時に音程が落ちたり、惜しい部分も多かった演奏でした。逆に自由曲では、縦がよくそろったものの(中間部のリズムパートは揃うのが遅れましたが)、他方で、声の浅さが表現に響いていたように感じます。もっと飛ぶと良かった。例えば、ストンプの入る曲でしたが、その間に入る和声に力を感じきれなかったのは大いに課題と言えそうです。勢いで聞かせましたが、終止の第三音など、技術的な課題はところどころに落ちていたように思います。

4. 和歌山大学アカペラアンサンブル
指揮:山中一弘
de Victoria, Tomas Luis「Ave Maria」
Brahms, Johannes「Schaffe in mir Gott ein Herz」(『2つのモテット』Op. 29 より)
全体として弱さを感じるのに加え、音作りも粗めに聞こえてしまったか。発声というよりは、フレージングの意識の問題だとメモには書かれています。特に課題曲、そしてブラームスで、フレージングの問題が顕在化し、ところどころ内声が外れたり(内声にも強烈なメロディ性がある曲)、forte を作るときに無理があったり、微分的な、音が分離したアンサンブルになってしまったように感じます。特にベースは、時間を経るごとに喉の方に声が上がっていってしまって、なんとももったいない。対して、ビクトリアは、音量設定の部分で他2曲と同じ問題が顕在化していたものの、カノン部をはじめ、比較的美しくはまっていたように思います。

インタミ15分。主に岐阜人の方々とつるんでました。だって僕ほら、名古屋人だし←

5. 高知大学合唱団
指揮:岡本直大
相澤直人「訪れ」(みなづきみのり)(『風にのれ、僕らよ』より)
信長貴富「こころよ うたえ」(一倉宏)
本番前に団員と握手を交わしてその場の空気を和ませる学生指揮者岡本くん。いいねぇ。いい心構えだ。
課題曲では、少し大きさに欠けるかなと思われた音、それ故ダイナミクスに少し欠ける点もありましたが、残り2曲ではその心配はあまりなかったように思います。特に、「こころよ うたえ」では、その良さが十分に表れました(僕はもっと遅いほうが好きですが笑)。課題曲は、まとまってこそいましたが、小さくまとまってしまったことそのものが課題のように思います。自由曲2曲は、どの団にも言えることかもしれませんが、もっと表現に「必然性」がほしいな、と思いました。例えば、「訪れ」のゲネラルパウゼについて、突然音が消えるのではなく、そこで歌詩の意味が切れたり、強調したりするという意味での必然性、あるいは、「こころよ うたえ」に秘められた、音と歌詩の密接な連環についての必然性。後者は、メロディが単体でさらっと流れてしまい、表現上とても惜しかったように感じました。メロディに負けてしまった、ともいえます。とはいえ、特に、「訪れ」のユニゾンと和声部の対比、さらに「こころよ うたえ」の和声的な想起は良い音が鳴っていたように思います。また、1曲目「訪れ」の、テンポのユルいパートで粗さが目立ちました。なんにせよ、あと少しの所!

6. 近畿大学混声合唱団
指揮:脇坂典佳
丸尾喜久子
「1. はじまり」「2. うわうわ」(『Space for mixed voices and percussion』より)
「森の話」
「4. Space」(『Space for mixed voices and percussion』より)
近畿大学で新造された団。曲は、全曲初演だと聞いていたようなそんなような。(と思ったら、初演は「森の話」だけだったようです。いずれにしろ未出版譜。2014/10/19追記)『Space』は、いずれの曲も、抽象性の高いボカリーズとリズム、そして色々なパーカッションがきかせる、非常に面白い曲です。少し表現にマクロ的な視点が求められおり、ハメる上では難しさを感じるような気がします。また、「森の話」はボイスパーカッションによるサウンドスケープ。そういった曲をコンクールの場に持ってきたことは、純粋に評価に値します。
演奏ですが、非常に、属人性の高い演奏となりました。特に女声は、力強いいい音が返ってきていましたが、それらの音が、アンサンブルをしていたかというと、果たして疑問です。それぞれがしっかりと歌うということ以上に、それぞれの音をしっかりと聴き合い、そして、それらについて十分理解し、寄り添った音を出しあうというのが、精神論だけでない、合唱の本懐であるはずです。ともすると、今回の演奏は、各団員のカラオケ大会のようになってしまったようなきらいがあります。所々その片鱗はありましたが、果たして、個人の技倆だけでどうしようもない表現が存在するとき、その表現を機能的に鳴らすことができたのか、今一度、検討すべき課題のように思います。未だ今年設立されたばかりの団体です。これから先、まだまだやらなければならないことがたくさん残っているかと思います。今後の躍進を期待いたします。

B部門(30人~60人)
7. 横浜国立大学グリークラブ
指揮:久我礼孝
ピアノ:村田雅之
多田武彦「石家荘にて」(草野心平)(男声合唱組曲『草野心平の詩から』より)
松下耕「今年」(谷川俊太郎)(男声合唱とピアノのための『この星の上で』より)
どうやら新入団員が多く入ったようです。全体的に、パートの中での音にコンセンサスが取り切れていないように感じました。発声はともかく、パートの中での微妙なピッチの違いが、いまいち淡白な演奏になってしまいました(個人的には嫌いではないのですが)。課題曲は、最後のオブリガードとのパートバランス設計に失敗してしまっているような気もします。他方、同じアカペラでも、「石家荘にて」はお見事な演奏。勿論、声のばらつきという問題はありますが、それを差し引くに、非常にいい音が鳴っていたように思います。何より、こういう場で、タダタケを聞けるというのが、これまた、よい笑
「今年」は、本日唯一のピアノ曲となりました。「短い旅に出るだろう」の下3声は決めるのが難しいのだろうかとか(もっとも、明グリも、ここではハーモニーが崩れていた気がします)、「自分を超えて大きなものを」では、自分どころかピアノに音量が負けてしまっているだとか、あるいは、再現部手前の「今年は」の絶叫で内声のテンポが遅れてしまったこと、そして、接続すべき音が途中で途切れてしまったりしたことなど、所々惜しい部分がありました。しかし、最後、ピアノの音とものすごくきれいな倍音を聞かせてくれていたのは、そして、その残響を楽しむような指揮に、心の底から音楽を感じることが出来ました。

8. 同志社コール・フリューゲル
指揮:増田花穂
Swider, Josef「Cantus glorioses」(Zwei Stüger より)
-「Laudate pueri Dominum」
課題曲の着想で一番好感が持てた演奏です。特に、指摘した「ちりぬるを」ユニゾンの跳躍の処理、「ゑひもせす」、そしてその前のテンポ設計が光りました。その他、指揮者が曲作りに時間を掛けたということの意味がよく分かる好演でした。全体としても、やや大人数らしいフワフワした演奏が気になりましたが、それでも、自由曲は自律性の高い良いアンサンブルを聴くことが出来ました。弱音分の表現、緊張と弛緩のタイミング、そして、発音、和声、発声など、自分たちの役割を十分に理解したアンサンブルが光ったように思います。その成果は、「Cantus」のリズムパートによく現れています。上三声のリズムパートでここまで聞かせるのはお見事。上手い団の基準ともいえるユニゾンも、よく揃っていました。気になった点としては、「Laudate」のオブリガードに緩みが見られたこと、「Cantus」のテナーの高音部が苦しそう(に聞こえた)点、そして、「Cantus」最後のアレルヤの、その前の子音がいまいち立ちきらなかったことを特記しておきます。しかし、それにしても、最後のアレルヤはもっとボリュームたっぷりに歌ってもよかったし、その資格はあったはず!いい演奏でした。ちなみに、お兄さんは先代のフリューゲルの指揮者だそう。なんてこった笑

このまま、コンペティションは終了。カレーパーティーの前に、審査発表が行われたそうです。執筆当時、結果は殆ど聞いておりません。が、リンク作るときにちょっと結果見ました。まぁ、諸々、出来るだけ気にしないことにしておきます笑 何にせよ、受賞は大変素晴らしいことです、各賞受賞された、本日参加のすべての団体に、心から拍手を送らせていただきます。大変面白いコンクールでした。ありがとうございました!

結果・報道はこちらへ↓
<大学合唱団>初代グランプリに近畿大(毎日新聞社)〈リンク切れ〉
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141018-00000084-mai-soci
(2014年10月19日追記)
JCDA関西による結果レポート
(2015年1月12日追記)

・感想
とてもおもしろい企画だなぁとは感じました。特に、学指揮をコンクールの必須条件にするというのは、なかなか無い試みで、その意味でも、育成を大事にしているJCDA関西らしさが光ります。実際試みとしても、色んな演奏・指揮を見ることができて、とても面白かった!プログラムも自由度の高い、色々な選曲が試みられていて印象的でした。
運営面での課題はお任せするとして、それにしても、今後、どんどんと成長していくべきイベントだと思いました。組織として内にこもることなく(それは、合唱界全体の問題だとも思ってしまいます笑)、今後共、日本、世界へと開かれた合唱イベントへと成長させていけるよう、関係各位益々の御活躍に期待しております。

ちょうど、このブログが上る頃には、懇親会が始まるところでしょうか?現地で御覧の皆様には、いい話の種になれば幸いです……まぁ、厳しい一言は、適当に水に流してやってくださいな笑

・メシーコール
朝カレー
久々のメシーコールだからっていって、特になんてことないんですが、一言お詫び申し上げておかなければなりますまい。
すみません、ニチレイのレストラン用ビーフカレー(5袋セット)でした(本日のカレーパーティーはハウス食品提供)

2014年10月15日水曜日

《新増沢方式で遊んでみる》その2:『ハーモニー』で追いかける、新増沢方式誕生の歴史

 おばんですわたべです。以前の記事からまた日が経ってしまっている気がしますが、気のせいです(たぶん)。
 さて、昨日、たまたま機会がありましたので、全日本合唱連盟の資料室に伺いました。で、そこで、ハーモニーのバックナンバーをざっくり当たってきたところ(本当は44号だけでもよかったんですが)、想像以上に面白いことが一杯わかったので、せっかくなので、ここに、全日本合唱コンクール審査の系譜を書き留めておこうと思います。

***

 増沢方式は、元全日本合唱連盟名誉顧問である音楽評論家・増沢健美によって考案された投票ルールです。増沢方式は、音楽コンクール(現・日本音楽コンクール、通称・毎コン、音コン)で利用するために考案された制度(清水(1960), No.151)で、その後、全日本合唱コンクールで利用され、大きく発展しました。ちなみに、現在の音コンでは、増沢式採点法は使われておらず、最高点と最低点を足切りして合算する得点方式が利用されています。ちょうど、昔のフィギュアスケートの得点方式や、現在のスノーボード・スキー種目の採点方式と似ています。ちなみに、かつては、TBSレコード大賞に増沢方式が使われていた時代もあるそうです(佐伯(1980))。増沢健美、偉大です。
 対して新増沢方式は、増沢健美本人によって増沢方式が改良されていったもの(No.6)の完成形として扱われています。探してみても、現在、利用実績があるのは、全日本合唱コンクールくらいであるようです。ルールは以前書いた通りですが、シンプルながら非常に複雑な制度をとるように作られていますが、何かと、「基本は多数決」という言葉が繰り返されて説明されています(No.44, No.151)。おそらくこれは、旧増沢方式が本当に決選投票のある過半数多数決方式で決められているに過ぎなかった(清水(1960))ことに由来するものと考えられます。

・いちばんはじめは
 増沢健美がどうもこの関係での著書を残していないらしく、調べた限り、一番初めにまとまった形で増沢方式について言及している文献は、清水(1960)ということになるようです。この本の中で、清水脩は、所謂「旧」増沢方式について解説を行い、「この方法が最上と思っている」とまで述べます。本書では、所謂順位得点方式(ボルダ・ルール)との比較を行い、このルールを「愚策である」とまで表現し、ボルダ・ルールでは得点の操作が容易に行われてしまうこと、さらに、それが以前の音コンではしょっちゅう行われていた(例えば弟子筋問題だとか、審査員の主義主張の大幅なズレとか)ことが指摘されています。これに対して、増沢方式ではそういった操作が行いづらいということです。
 また同時に、この執筆時期から、増沢方式が結構昔から全日本合唱コンクールで利用されていたことが推定されます。が、『ハーモニー』が創刊されたのは、第24回コンクール以降のシーズンであり、現在調べた文献だけでは、増沢方式がいつから全日本合唱コンクールで利用されていたかははっきりとはわかりません。

・増沢方式の名残り
 さて、『ハーモニー』が創刊された次の号、No.2 で早速全日本合唱コンクールの特集号となります。早速この号の時点で審査表が掲載されているあたり、ある種 JCA の意地のようなものを感じます。この第2号のコンクール特集の中に、「審査方法について」という形で、小さく、審査方法が特集されています。ルールの詳細については解説がなされていないものの、この時点では、どうも、「旧」増沢方式を採用していたようです。理由として、
(i)たんに「増沢方式」と記載されていること
(ii)審査表を元に計算してみると、新増沢方式では計算のあわないところがあること
の2点が挙げられます。
 しかし、それにしても、この時の審査方式、どうも様子がおかしいのです。金銀銅賞が順位決定後に投票で決められるというのはいいとして、問題なのは、4つの手順で説明されているところの2番目にあります。
「増沢審査員長を除く十四名の審査員による順位について順位法(増沢式)により結果を出す。(同順位が生じた場合は審査委員長の決するところによる)」
 よくお勉強いただいている方だと、この時点で、現在の想定とは大幅に違うことがわかるかと思います。現在の新増沢方式では、そもそも奇数人の審査員が前提となっており、審査委員長を含めた全員が投票し審査表を作り、もし同順位が発生した場合は得点方式での解決を試み、その上でも同点になってしまった場合、最後の手段として審査委員長の順位に従うことになっています。偶数であるということは、順位が拮抗する場合、同数票の生じる可能性が格段に高くなってしまうため、審査委員長決裁が多くなってしまいます。増沢審査員長は投票していないもののたしかに現場にいて審査をしているため、そもそも非効率です。実際の現場でも、おそらく増沢審査員長は独自の審査表を持っていないことには決裁もできないでしょうから、あまり意味がないことではあります。
 実際、この年は、推定では、高校の部の1位決定で審査委員長決裁での決定となっており**1、早速制度の問題点が露呈しています。しかも、審査表にその事実は記載されていないので、やや不自由が生じています。おそらく、「審査と表彰の主体は金・銀・銅賞を決めた投票にある」という審査全体に対する姿勢が紙面編集にも反映されているものだと思われます。とはいえ、さすがに問題意識がなかったわけではなかったのか、次のコンクールから大幅改定が加えられます。

・新増沢方式の完成
 第25回コンクール特集号では、朝日新聞企画部の中野昭による記事(No.6)で、増沢方式についての詳細な解説が行われています。しかも、前年までのルールから改訂がなされており、
・審査委員数は必ず奇数でなければならないこと
・決選投票が3者に渡る場合についての解説が(不完全ながら)行われていること
が明記されています。記事のタイトルは「増沢(方)式」となっているものの、この時点で、現在の新増沢方式と限りなく近い制度について解説されていることから、この、新しくなった制度は新増沢方式とみてよいのではないかと考えています*1。そこで、この項では、暫定的に、第25回コンクールを、新増沢方式が初めて全日本合唱コンクールで利用された事例として捉えておくことにします。コンクール審査員に増沢健美がいることから成せた業といえるかもしれません。ちなみに、この記事は、第26回コンクール特集号=No.10 でも、同一内容で掲載されています。

・新増沢方式の放棄
 ところが、こうして生まれた「新」増沢方式、わずか4回利用されただけで、全国コンクールでは利用が止められてしまいました。第29回コンクール(高松大会!)特集号の No.22、その審査表が掲載されたページで、「審査の方法が変わりました」という形で、わずか10行にまとめられた形でルール変更がアナウンスされています。それによると、審査員は9位まで順位をつけ、残りは一律で10位として取り扱い、その上で点数方式ボルダ・ルール(最小点数が勝者となるパターン)にかけて順位を決定します。なんと、せっかく新増沢方式が利用されていたのに、得点方式が使われるに至ったのです。それも、「愚策である」とまで表現してボルダ・ルールを退けた清水脩が、そして新増沢方式の考案者である増沢健美が審査員として健在の元で堂々と。その理由については特に言及されていませんが、この後暫く得点方式が継続された後、34回大会から新増沢方式に戻され(No.44)、35回のコンクール特集号(No.43)の次の号で、衝撃の事実が告白されることになります。
 ちなみに、このころから、安積女子、金沢二水、純心女子、静大、金大、住金、グリーンウッドといった、現在の全国コンクールでもおなじみの顔が出てくるようになります。とはいえ、安積女子はまだ銅賞。時代を感じます。

・復活と限界の告白
「新増沢方式を解明する」というタイトルは、現代で言うと、No.151 掲載の、Web 公開もされている記事が有名かと思いますが、もともとは、No.44 の特集で最初に使われたタイトルです。「実際にハーモニーなどで公表される審査表は全投票一覧という形をとるため、一見理解しにくい面があり、本部、支部へいろいろ問い合わせがあるようで」、本特集が組まれたというあたり、今も昔も、制度への評価は決して低くないものの、変わらず団体泣かせの制度ではあるようです。
 さて、ここで解説されているルールは、完全な新増沢方式ということができそうです*2。本記事のうち注目に値するのは、なぜ一旦得点方式へ移ったのか、得点方式から戻すほど新増沢方式には価値があるものなのかディスカッションが行われているということです。
 まず1点目、なぜ一旦得点方式に突然変わったのか。結論としては、本文の言葉を借りれば「音を上げた」から。要は、もともと計算を手計算でやっていたところ、特に順位が拮抗する部門で多大な時間がかかるようになってきて、成績発表までの時間が大幅に延びてしまってきて、結果を早く出すことを優先して得点方式に変更したとのことでした。新増沢方式が復活したのは、コンピューターの導入による成果。関西支部ではすでにコンピューターに寄る新増沢方式の採点が行われていたそうで、それを学ぶ形で34回コンクールから新増沢方式の復活が実現したのでした。しかし、それでも、10団体×11名審査員の審査表を計算するのに、当時は数十秒もかかっている点、目覚ましい技術の進歩です。今や、ご家庭のパソコンでも簡単に計算できる時代だというものを……(菅原(1999,2000))。
 2点目、なぜ得点方式がダメなのかについて。ここでは、点数方式として2種類提示されています。一つが、100点満点の採点方式、そしてもう一つが、ボルダ・ルールです。前者だけでなく後者も、清水(1960)の指摘通り、拮抗する両者のうち片方を極端に低い順位につけることで、贔屓の順位を上げるという操作が比較的簡単に行われるため、妥当ではないとされています*3。そんなわけで、新増沢方式の復活が待たれていたということです。

・現代は
 ご存知のように、様々な制度が過去、そして現在も試みられています。Nコンは、新増沢方式に近いものの少し異なる制度を用いていると言われていますし、さらに、全日本合唱コンクール周りで特に現在顕著なのは、所謂福島方式かと思います。これは、今も福島県合唱コンクール、並びに全日本合唱コンクール東北支部大会で利用されています。このルールでは、ボルダ・ルールとは逆に、得点を順位に換算し*4、それをコープランド・ルールにかけることで順位が決定されています。ちょうど、サッカーのグループリーグと同じような順位決定方式で、感覚的にわかりやすいことからも、昨今支持が高まっている方式です。しかし、コープランド・ルールにも決して欠点がないわけではなく(実際、結果の操作は割と簡単に可能)、今後、他のルールも含めさらなる議論と実用が期待されます。

脚註
*1 この解説においては、例えば審査員9名の場合において、3票、2票、2票、2票のような形で、2段階に分かれた3人以上の決選投票の形態について解説されていないため、この時点で完全な新増沢方式が完成されていたかは不明です。実際の審査表を計算してみたらわかることがあるのかもしれませんが、ひとまず、ご勘弁戴ければ……

*2 もっとも、ここで選択されている事例が非常に単純な事例で、旧増沢方式の範疇で解決出来てしまうもののため、ルールの説明としてはかならずしも厳密にはなされていません。

*3 得点方式、特に単純な採点方式については多く改良が試みられています。実際、先述した最高点、最低点の足切り方式はその一例ですし、もっと極端に、上から並べて真ん中の点数をつけている人のものをそのまま評価点にする方法も用いられています。後者は、median nomination などと呼ばれ、バイアスが非常に少ない制度として知られています。

*4 この操作が必要なのは、割と事務的な事情によるものと思われます。2014年現在、福島県合唱コンクールの中学校の部の出場団体数が70団体に迫っており、同声と混声を合同で評価するプログラム形式も相まって、中学校の部だけで2日間かかっています(!)。そのため、相対的な順位を審査員に求めてしまうと、逆に順位付けが曖昧になってしまうことから、得点を提出してもらい、それを順位に落とすという方式をとっているものと思われます。ですから、現在の全日本合唱コンクールの審査表を用いて福島方式(コープランド・ルール)の再現をすることは可能です。

**1 この部分、当初は審査委員長の裁定で決定していたものと思われましたが、改めてボルダ・ルールで計算しなおした所、1位が審査表通りに決定したため、審査委員長の裁定の前に点数方式での得票数決定がなされたのではないかと推定されます。しかし、上記で議論した内容については、なおも問題が健在しているものと考えます。実際、奇数人の投票を組み合わせる現在の審査表では、タイブレークの得点方式が用いられることは殆どありません。(2014年10月16日追記)

参考文献
・雑誌
「審査方法について」『ハーモニー』No.2, p.9
中野昭「順位法「増沢式」について」『ハーモニー』No.6, p.11
全日本合唱連盟「新増沢方式を解明する」『ハーモニー』 No.44, p.38-40
田辺正行「新増沢方式を解明する」『ハーモニー』No.151, p.100-103 http://www.jcanet.or.jp/event/concour/shinmasuzawa-kaisetu201001.htm
(他、No.2, No.6, No.22 に掲載の審査表を利用。文中では(No.**)の形で表記)

・書籍
清水脩「採点法」『合唱の素顔』カワイ楽譜, 1960
佐伯胖『「きめ方」の論理―社会的決定理論への招待』, 東京大学出版会, 1980

・Web(URL元はすべて投稿時確認)
福島県合唱連盟「審査方法について」 http://www.geocities.jp/fcl_fukushima/sinsahouhou.htm
斎藤善之「新増沢方式とは何か」, 2000, 2007, http://members.jcom.home.ne.jp/satsuren/shinmasu.pdf
菅原満「コーラス・ガウス君」1999, 2003, 
http://members3.jcom.home.ne.jp/math_community/gauss/gauss.html
渡部翔太「《新増沢方式で遊んでみる》その1:ルールについて」 http://shotawatabe.blogspot.jp/2014/09/blog-post.html