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2014年9月29日月曜日

《新増沢方式で遊んでみる》その1:ルールについて

どうもこんばんは。わたべです。

例の「はじめに」から凄まじい日にちが経ってしまいました。実は、記事のバッファをつくろうとしたのですが、まぁ、お察しです。
気付いたらそろそろブロック大会が終わろうとしてしまっているので、備忘兼ねてアップしておきます。
ひとまずこの記事で、新増沢とはなんぞや、みたいな話は終わってます。間違い等が多分にあるかもしれませんので、そこら辺はお察しください。なお、途中から具体例の説明がありますが、わたべは関係諸団体の関係者ではありませんので、あしからずご了承ください。

【本日の内容】
・新増沢方式とはなにか
・新増沢方式の決定の仕方について

・新増沢方式とはなにか
 まず、そもそも、合唱や合唱コンクールと関わりない人にも分かるように、新増沢方式ってなんだよ、という問題について。合唱人に占めるコンクール人口の割合だけとっても、必ずしも多いわけではないですからね。
 「新増沢方式=新増沢式採点法」とは、「全日本合唱コンクール」で利用されている審査方式です。調べた限りでは、新増沢方式は、「全日本合唱コンクール」と一部を除く支部大会・県大会、また、それを模した制度が「NHK全国学校音楽コンクール」で利用されている程度です。もっとも、意外と多くの大会が審査方式を非公表にしているので、情報そのものが乏しい分野です。他分野の審査について情報お持ちの方いたらご一報ください。
 もともと、「音楽コンクール(音コン、毎コン、現・日本音楽コンクール)」で利用されていた「増沢方式」が改良されたものとして、全日本合唱コンクールに輸入されたことがきっかけです。ルールに不公平な部分が見られるということで、増沢方式を改良する形で、新増沢方式が考案され、全日本合唱コンクールでは利用され続けてきました。ちなみに、現在毎コンでは、嘗てのフィギュアスケートのように、審査員の最高得点と最低得点を足切りする形での得点方式を採用しています。
 増沢方式が、事実上「決選投票付き多数決方式」の繰り返しに過ぎないのに対し、新増沢方式は、意見が割れた場合、より慎重なアルゴリズムで決定を行う制度に設計されています。ここで、説明の都合上、2つ、投票制度を紹介しましょう。

*決選投票付き多数決方式(Plurality with runoff rule)
 新増沢方式のベースになる制度です。割と耳馴染みのある制度かと思います。具体的には、まず多数決で全体の票をあつめ、集まった票の上位で、もう一度多数決をして、最終的な勝者を決定する方式です。ふつう、決選投票に残れる対象は2つになることが殆どですが、新増沢方式では、この、決選投票に残れる対象が「全体の過半数を占めるグループ」になるのがミソです。

*コープランド・ルール(Copeland rule)
 簡単にいえば、所謂、リーグ戦方式です。ボルダ・ルール(Borda rule)と並んで、この分野の研究が進んでいる制度の一つで、こんな仰々しい名前がついています(多分、その一端を追々紹介することになります)。順位を元に、全団体を総当りで対決させて、取得した勝ち点の最も多い団体が勝ちます。周知の通り、サッカーのグループリーグが似たような制度を活用しています。但し、ここで、勝ち点は普通、勝ち=1点、負け=0点、引き分け(ある場合は)=0.5点、で計算されることが多いようです。負けを-1点、引き分けを0点とすることもあります。引き分けがある場合、引き分けの点数の割合次第で結果が変わることもありえます。ここでは、最初に書いた、勝ち=1点、負け=0点、で考えて頂いて構いません。

 この2つの制度を使って、新増沢方式を「分解」してみます。

  1. まず、審査表が作られます。審査表とは、審査員がそれぞれの団体の評価を順位にして提出したものを、一覧にしてまとめたものです。実務の都合上、ほとんどの場合、物理的に一覧にまとめられます。
  2. まず、審査表の第1位を見て、得票数がまとめられます。ここで、過半数を超える得票を得る団体が現れた場合、その団体がそのまま全体の第1位となります。
  3. もし、2.で決まらない場合、得票数の多い団体が、合計で過半数を占める団体の数だけ選ばれます。例えば、審査員が9人だとして(全国大会ですね!)もし団体Aが3票、団体Bが1票、団体Cが2票、団体Dが2票、団体Eが1票、他の団体が0票となった場合、団体A、団体C、団体Dが選ばれることになります《例1》。また、もし団体A〜団体Eが1票、団体Fが4票を、他の団体が0票となった場合、団体A〜Fは、この段階ではすべて選ばれます《例2》。
  4. 《例1》のように、3団体選ばれたうち、下位2団体(団体C,団体D)の得票が同一の場合、この2つの団体で多数決が行われます。審査表から、団体C,団体Dの順位をとってきて、それぞれの審査員がそれぞれどの団体が高い順位を付けているかを集計し、その結果で多数決をします。ここで勝った団体が、今度は最多得票の団体Aと、同様に決選投票を行います。
  5. 《例2》のように、選ばれた団体のうち、下位団体が複数にわる場合、この団体でコープランドを使い、勝者を決定します。4.と同様に、選ばれている団体の順位を審査表からとってきて、その順位を使い、コープランドルールを使って勝者を決定します。ここで勝った団体が、上位の団体と決選投票を行います。
  6. もし、審査員の数がもっと多く、より多くの団体が3.で述べた決選投票のグループに割り振られる場合、下位の団体から順番に、4.と5.のプロセスを繰り返して、勝ちあがり戦を繰り返し、順位を決定していきます。なお、上位得票団体が複数に渡る場合は、コープランドルールで勝者を決定することも、勿論ありえます。
  7. 以上で決まった第1位を抜いた順位表を元に、今度は同様のプロセスで第2位を決定していきます。このように、決まった団体を順位表からどんどん抜いていき、最後に、すべての団体の順位が確定するまで続きます。第2位以降の決定の中で、それまでに決まった上位団体の順位が動くことはありません。
 ……ややこしいですね!笑 新増沢方式って何?というと、こういう長い説明をすることになります(これでも、卒論よりは説明うまくなってるんですよ……?笑)。わかりづらいので、「新増沢方式を解明する」という全日本合唱連盟(JCA)のサイトでも、例を使いながら説明することが殆どです。JCAの説明における例はそちらを見ていただくとして、今回はせっかくなので、別の例を見てみたいと思います。わたべが勝手に「金城学院の悲劇」と呼んでいる、2012年度全国コンクール中学同声部門で実際にあった審査表です。


 ちょいと見づらいかもしれません。順位表は、『ハーモニー』のほか、合唱倉庫さんでもチェックできます。さて、上の順序にあわせて、この審査表を計算してみましょう。

  1. 審査表は、ご覧のとおり。史上稀な珍審査表だと思っています≒計算が鬼……。全国など、大きめの大会ではパソコンを使って計算するようですが、手計算組は、ここで、長い道のりになることを覚悟します。焦って計算ミスすると、間違ったとこからやり直し。おーこわ。
  2. 全体の第1位を決めましょう。まず、各審査員の第1位に注目します。それぞれの審査員の得票を集計すると、陵北1票、栄東2票、武庫川女子2票、金城学院1票、陽南2票、清泉女学院1票です。したがって、多数決では決めることが出来ませんでした。
  3. 上位グループを抜き出します。ここでは、2票を取った団体が3団体で合計6票、これで、9人の審査員の過半数を取れるので、栄東、武庫川女子、陽南がそれぞれ選ばれます。
  4. 下位団体が存在しませんし、上位団体も2団体より多いので、多数決では解決できません。残念。
  5. 3団体が同じ得票を持っているので、この3団体がコープランドルールで争うことにより、全体の第1位が決定します。まず、東栄vs武庫川女子。6対3で、東栄に勝ち点1。次に、東栄vs陽南。6対3で、東栄に勝ち点1。武庫川女子vs陽南。4対5で、陽南に勝ち点1。そんなわけで、勝者は、東栄です。
  6. これで、全体の第1位は、東栄に決定です。
  7. これを、延々繰り返していきます。筆者は2年前くらいに手で全部確認しました。なれてないと、発狂しそうになります←
 さて、あえて新例として挙げたこの審査表、とても不思議な結果が出ている表です。武庫川女子が第1位に2人も選んでいるのに第10位というのも十分不遇な感じありますが(他の審査員の順位が低いとこの傾向があります)、ここで注目したいのは金城学院。金城学院に色付けした審査表を見てみましょう。
 寺嶋陸也先生が第1位をつけている一方、藤井宏樹先生は最下位をつけています。その他の審査員の方の評価はいまいち振るわなかったものの、7人全員最下位はつけていない。この中ではもっとも「審査の割れた」団体といえそうです。で、総合結果を見てみる。なんと、最下位になってしまっています。第1位をつける審査員がいて、最下位を付けた審査員が1人しかいなかったのに、総合では最下位になってしまうのです。
 念のため言っておきたいのは、「誰も悪気があってこんなことやっているわけじゃない」ということです。自分の意思どおりに審査をして、それをルールどおりに並べてみたら、こうなっちゃった、ということです。実際自分も、演奏を聞いたわけではないので、この年の金城学院がどうだったのかとか、あるいは、桜山、仲井真、安田女子など、最下位を2票得ている団体と比べて演奏がどうだったとか、そういったことは言えません。しかし、あくまで、順位表には、こういう結果で出てしまっている。このルールのもとでは、中々結果を操作することが難しいことが一般的に言えるので(「少なくとも増沢方式よりは」)、その意味で、別に利益供与があったとは考えづらいでしょう(もっとも、最下位に仕立てる結果操作というのは普通に考えても余りありえないですが)。
 そんなわけで、審査表だけ見ると、これは十分「悲劇」といえると考えているのでした。何度も申し上げておきますが、この審査表に出てきたすべての方に、この審査表の限りにおいて、わたべが個人的な感情を持っているわけではありませんので、その点あしからずご了承ください。

 そんなわけで、新増沢方式の採点方法について、ご納得いただけたでしょうか? あくまで、このブログですべて分かるような簡単な制度ではないので、ぜひ、このブログをきっかけにして、県コンクールやブロックコンクールなど、気になる審査表をご自身で計算してみてください。正直、実務的な問題としては、それが一番、新増沢方式に慣れるための手っ取り早い方法です。「コーラス・ガウス君」などは、計算に慣れた玄人が使うためのツールです(すっとぼけ)
 次回は、世の中に存在するいろいろな投票ルールについて紹介してみたいと思います。といっても、世の中にごまんと存在する決定様式、紹介できても一部です。せっかくなので、色んな投票方式で、「金城学院の悲劇」を順位づけたらどうなるか、でもやってみましょうか(卒論でやっていない内容=死亡フラグ)。
 では。

(よろしければ、ご意見ください)

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