おおよそだいたい、合唱のこと。

ようこそお越し頂きました。
主に、管理人が参りました、合唱団の演奏会のロングレビューを掲載しております。
また、時折、気分に応じて、合唱如何関係なく、トピックスを記事にしています。
合唱ブログのつもりではないのに、気付いたら合唱ブログみたいなことになってきました。
やたら細かいレビューからノリツッコミまで、現状、合唱好きな方の暇つぶしには最適です。
ゆっくりしていってね!!!

2017年5月14日日曜日

【あい混声合唱団第8回定期演奏会】

〈終わりのない歌・世界の現在を歌う〉
2017年5月14日(日)於 紀尾井ホール

実はですね、
はじめてなんです。
このブログで、東京のアマチュア団の単独演奏会レビュー書くの笑
あい混声合唱団、もう、説明するでもないでしょう。全国大会にも出演したことのある、相澤直人先生の主宰合唱団です。この団、特に相澤直人の音楽にこだわりをもつこともないようで笑、過去に相澤直人作品の演奏経験もさほど多いわけではなく、特に相澤個展はともかくとして、定期演奏会では滅多相澤作品を触らないようです。実は、ブログをブログにする前、アルティの記事で、「珍しく」相澤作品を演奏したステージをレビューしたこともあるのですが、このブログ←
そんな実力溢れる噂をばかり耳にするあい混が、上田真樹『終わりのない歌』を初演すると聞いて、これは聞きに行かねば、と、脇目も振らずに(本当に!笑)馳せ参じたところ。詳細は後述。とはいえ、昨日は予定外に痛飲し、ガチモンの二日酔いの中で乗る行きの新幹線は……寝る時間がたっぷり取れるこだま号でよかった←

ホールについて
四ツ谷駅から歩いてすぐ……というには、ちょっと遠かったか笑 上智大学の脇を越えていった先に見えてくる同ホールは、名前のメジャーさからすると、ちょっとこじんまりとした佇まいを備えています。でも、向かいにはホテルニューオータニ。そういえば、大阪の某ホールもニューオータニの向かいにありますね笑
ダークブラウンの木質に彩られたシューボックスタイプのホールは、800席にしては奥行き狭めの印象。その分相対的に天井も高く感じ、1階にもバルコニー席を配した複雑な客席構造は、それだけでホールの雰囲気を高めます。ホールのドアは木製1枚ドアで大きくて威厳たっぷり、パイプオルガンがないのにホール正反もなぜかスッキリと馴染んでいる。そして、二日酔いの身には、バーコーナーのオレンジジュースがオイシイの……笑
で、響きですが、これはもう、文句なしですね。包み込んでくれるような音響が2階バルコニー席にも届いてきます。もしかしたら、若干ステージに篭ってしまいがちなのかもしれないな、とも思うのですが、でも、それは単にホールに色々求め過ぎなだけなのかも。響きに雑味という雑味が一切なく、飛んでいった音は残響を残しながらしっかりと聴衆の耳へと届いていく。奥行き狭めなのも味方して、どの席にいても充実した響きで音楽を楽しむことの出来る、ハデなことはしないけれども、必要なことをしっかりこなしてくれる、音楽ホールとしては非常に優れたホールです。

客席には今に輝くビッグネームの面々。各所でお会いしたことのある面々が、客席はおろか、メンバーにも(なんでいるの!?となった人々も数多く……笑)。いやぁ、実力ある団とはいえ、この光景、東京ならではですよ。正直。
予ベルはなく、アナウンスの注意と、開演直前アナウンスのまま、開演。ベル鳴らすとイヤな緊張感に包まれますからね、それも最大5分間も。そう考えると、これはこれで、いいんじゃないかな、と割と思います。

指揮:相澤直人
ピアノ:上田真樹*

入場は意外ともっさり。靴音を気にしなくていいからさささっと歩くべき、としょっちゅう主張しとります当方。むしろ、さっさと歩いても音の鳴らない歩き方を極めるべき。結果、摺足気味になるんですけどね、経験上笑

第1ステージ
Antognini, Ivo “Canticum Novum”
Milliken, Sandora “Missa Piccola”
Aizawa, Naoto “Missa minima”
Balsamo, Jude Edgard C. “Agnus Dei”
White, Nicholas “O magnum mysterium”
Ralph, Manuel “Alleluia”

まず何より、音が綺麗で、整っていて、和声構築に伴う表現を豊かに再現していて、でも、紀尾井の響きに負けてしまっているのか、ちょっと音圧が足りないような……などと、所謂「よくある」印象を持ったのもつかの間。この音、怖い。最初のうち、なぜかよくわからないんだけど、どんどん引き込まれていく。引き込まれていって、でもしつこくなくて、結局、本当に美しい。実は音圧が足りないとか言ってみるのも、こっちのほうがしつこくていいんじゃないかっていう風に、逆に思わされる。
そう、この団、否、相澤直人の手にかかれば、というだけではありますまい、フレーズの「出だし」がメチャメチャうまいんです。技巧的、とか、そういう感じの話ではない。フレーズにどう入っていって、どういう風にフレーズを歌いきるか、というのを、予め見通した上で音にしている。詰将棋みたいに、最初の一手を動かした時点で、もう勝負は付いているんです。こういう表現、勿論、みんなそういうつもりでやっているんだけれども、中々出来ない。自分たちがどこまでいくのかわからないまま音を出していることって、結構、場合によっては上手なところでも(特に演奏会だと)陥りかねないジレンマです。だからこそ、考えてアンサンブルしているこの団は、強い。否、考えていないのかも。それこそ、相澤先生の指揮は、そのフレーズの行き先を「教えてくれる」んです。どう歌いたいか、どう歌わせたいかを共有しながら、然し自分たちがしっかり歌っている。否、アンサンブルの極致哉。
敢えて挙げるとするならば、「Canticum Novum」や「Alleluia」といた、音が早くなる曲で、言葉の発音が雑になりがち。あとは、弱音にもっと集中力が欲しかったか。――でも、こんなもんじゃないかなぁ?

第2ステージ
Gjeilo, Ola “Ubi caritas”
 - “Prelude”
 - “Nothern Lights”
演奏:女声合唱団ゆめの缶詰

2ステは、相澤先生が女の子たちを侍らせて展開する女声合唱団が賛助しての演奏。イェイロの定番どころを歌っていきます。最近ホントに流行ってますねぇ、ここらへん。
と、それが問題っちゃ問題なわけで、まず、否、最初から最後まで、最初の1音目。“Ubi”の鳴らし始めが本当に残念でした。否、旨いんです。ちゃんと揃ってるんです。でも、ほんの僅かにほころんだ。それが、前のあい混のステージの丁寧さもあってか、あるいは、それだけいい空気で入れたからかもしれない、とにかく、目立ってしまった。それも、最近流行りの、よく演奏会を聴きに行くような人だったら、一聴してただちに思い出す有名な旋律で、わずかにほころんでしまったこと。本当に惜しい。
全体として淡白な感じを否定は出来ません。穏やかに進んでいったという意味ではいいのですが、最初の音が引きずったか、あるいは、あい混には見られた自律性にも、今ひとつ、まだこれからかしら、と思わせるものが。
でも、この団、やっぱりしっかりと鍛えられている。“Nothern”の最後に鳴らした音は、本当に音楽に満ち溢れていた。これが、お世辞でもなんでもないんだな。一音に泣き、一音に輝く。こうして、合唱団は育っていく。それで、いいじゃないの。

インタミ15分。オレンジジュース最高(大事なこと)

第3ステージ
小林秀雄・混声合唱曲集『優しき歌』(立原道造)

日本語の歌詞だからってわけでもないんだとは思うんですが、否、これはむしろ、各パートの旋律が非常に確固たるものだからでしょう。パートのくせが割に目立つ演奏になりました。
否、雰囲気はすごかったんです。むしろ、紀尾井の響きでどうしても歌詩が飛びにくい分、この曲の持つ繊細さを非常によく表現していました。1ステ同様、和声構築だけでこの団は聴かせる力があるんですね。それに加えて、特にフォルテ域にデュナーミクの幅が大きめだったものだから、余計に、ある種力技で決めてしまえる点があった。ソロだって基本チート級だし(ソリストの一人に面識があるけど、褒め言葉だからな、これ!←)。
ただ、その、パワープレイが、一種、やはり、演奏の「緊張感」について物足りないものを産んでしまった。基本的にきれいに鳴っているんだけれども、否、きれいに鳴っているからこそ、ゆめ缶同様、外れてしまうと大損こいてしまう。例えば、持続音で鳴らしているときに響きが胸に落ちてしまったり、かすれたり、あるいは、高音が微妙に当たらなかったり。うまいからこそ、なんです。音響に対する、もうあとわずかの配慮が欲しい! あえて言いたい、相澤直人の指揮に引き込まれてしまって、それがそのまま音になるくらいの、静謐さ、集中力が欲しかった。
――念のため言いますが、この演奏、ど一級モノでしたからね?笑

インタミ15分。余談っちゃ余談、このパンフレット、大好きです。ボリューム感たっぷりの字数に、かなり詳細な解説を加えています。そのどれも、曲についてよく研究されていて、なにより曲に対する思いに溢れている。随所に差し込まれた写真の雰囲気も幻想的で、本当に見事なパンフレットです。

第4ステージ*
上田真樹・混声合唱組曲『終わりのない歌』(銀色夏生)《混声版初演》

個人的な話を披瀝すると、この曲の男声版初演に立ち会っていました。もちろん聴衆として。
2011年秋、早稲田大学グリークラブによる演奏。ちょうどその前年、『夢の意味』に取り組んでいたこともあり、上田真樹と聴くと居ても立ってもいられないくらいだった時期でした。相澤先生がその前のステージで振る一方、同曲初演は高谷光信先生により演奏されました(余談ですが、この際相澤先生の演奏した湯山昭「ゆうやけの歌」は、過去の名演の中においてもキラリと光る傑作)。えらく感動し、ブラボーの声を挙げ、その場でCDを予約して買い、(良くも悪くも!?)世間を知らなかった自分は、そのCDを、特に『終わりのない歌』(に「ゆうやけの歌」を含めた後半2ステージ←)を、データが擦り切れそうになるくらいに聴きまくっていました。
私にとって、待望の混声初演でした。もう、待ちくたびれたくらいに、待ちわびていました。だから、この曲の初演ときいた途端に、絶対に行かないといけないと、心に決めたのでした。今日の演奏。上田先生の穏やかで優美な旋律が奏でられて、合唱団が最初の音を鳴らしたその瞬間、もう、それだけで、拍手したくて仕方なかった。演奏としては、特に3曲目の早い場所などで、あと少しで演奏が崩れてしまいかねない状況にもなっていたし、音だってもっと揃ったかもしれないし、強弱ももっと一体感を持つことが出来たはず。間違いなく、もっとうまく演奏する団が出てくるし、もっと美しい演奏が今後生まれてくる。でも、この曲が、この曲の混声版が、音になって鳴っている。演奏家たちも、新しい上田作品を歌えることへの喜びだけで、まっすぐに歌い尽くしている。そのことに、ただただ、感動し、感謝すらしたい、そんな気持ちで聞いていました。
青臭い詩です。果ては上田先生がパンフで認めるほどの青臭くてちょっと「アブナイ」青春を描いた詩です。でも、その青春を、正面切って歌うから、この曲は刹那的な美しさを具備している。そして、その美しさを正面から受け取るとき、溢れんばかりの思いが心のなかで渦になる。
誰がなんといおうと、この曲は名曲なんです。

上田先生、ステージ上「なんでもどうぞ!」と相澤先生からトークを振られて開口一番「……緊張しましたァっ!」笑
あまりのキュートさに会場メロメロでした(当社比……ってか古くない?この表現←9

・アンコール
上田真樹「あなたのことを」(銀色夏生)《初演》
 - 「酒頌」(W.B.Yeats/林望・訳詩)

1曲目は、正真正銘の新曲初演。上田先生曰く、「メインステージの曲の歌詩にモヤモヤしていた人も、きっと晴れやかに帰ってもらえるかも……」とのこと。こちらもまた、心の底からまっすぐな青春モノ。君のことを思っていると力が湧いてくる、そんな内容――そりゃ、上田先生に書かせたら壮大かつ感動的になるに決まっているでしょうが! ざっと聴く限り、少なくともとっつきやすくはありそう。是非、いろんな団、いろんなイベントで愛唱されることを願ってやみません。
そして2曲目はうって変わって男臭い笑 否、もとが男声版ですからね、その意味では『終わりのない歌』と変わらない笑 この曲に理屈はいらないんです。穏やかだけれども、盃を交わす喜びに満ちている。そして、テンションありあまって、1曲終わって拍手喝采の折にサビをもう1本繰り返す笑 もう、先生飲んでたんと違いますかね

こうして終演。ああ、酒の席はさぞや楽しかったことでしょう……笑

・まとめ
名古屋からはるばる聴きに来た甲斐はありました。非常に精緻なアンサンブルで、寧ろ何かを指摘するということが難しいくらいでしたが、でも、成熟したアンサンブルだからこそ破らなければならない殻は存在する。その課題を僅かに覗かせながら、でも、この団は、音楽に満ちあふれている。それだけで、将来性は約束されているのではないでしょうか。
でも、こういうと失礼かしら、今回の演奏会では、間違いなくひとつに、歌を聴きに来ました。この、『終わりのない歌』を。学生時代に惚れ込んだこの曲の、続きのストーリーを聴けるという、そのことが何より楽しみでした。同曲の混声版初演の物語は、まさに、初めてこの曲を聴いた(当たり前か笑)早稲グリの演奏会から始まっていたというのは、もう、6年後のこの演奏会は、男声版初演の段階で運命づけられていたのかもしれない。
「いろんなところへ行ってきて/いろんな夢をみておいで/そして最後に/君のそばで会おう」(銀色夏生「君のそばで会おう」同組曲終曲)
この6年の間に色々なことがありました。合唱にしろ、そうでないにしろ。その中にあって、あのときの鮮烈な印象は、今も私の中での原体験のひとつです。本当に、この曲に、この作曲家の曲に、惚れ込んでよかった、そんな片想いを今でも続けながら、各所の演奏を聞き続けている。「最後に」なんて言ってみたとしても、この曲をめぐる物語は、多分、この曲に触れたことのある様々な人の中で、これからも生き続ける。そして、「終わりのない歌」は、これからも鳴り続けるのだと思います。
最後に私事ながら。もしこのまま混声初演がされないというのなら、いつか、自分が結婚式やるときにでも委嘱してやろうかなどと妄想していた同曲。いざ、もうすぐ結婚するという折になって、嘗て同じく初演に立ち会った伴侶共々(僭越ながら)、良い記念とすることが出来ました。これからも鳴り続ける「終わりのない歌」に思いを馳せて。本当にありがとうございました。