おおよそだいたい、合唱のこと。

ようこそお越し頂きました。
主に、管理人が参りました、合唱団の演奏会のロングレビューを掲載しております。
また、時折、気分に応じて、合唱如何関係なく、トピックスを記事にしています。
合唱ブログのつもりではないのに、気付いたら合唱ブログみたいなことになってきました。
やたら細かいレビューからノリツッコミまで、現状、合唱好きな方の暇つぶしには最適です。
ゆっくりしていってね!!!

2017年1月22日日曜日

【名古屋大学医学部混声合唱団第60回記念定期演奏会】

2017年1月22日(日)於 三井住友海上しらかわホール

あけましておめでとうございます!
今年もどうぞ弊ブログをよろしくお願いします。
去年の年始のブログを参考にこの書き出しを(演奏会前にw)著しているのですが、去年、年始から忙しいと書きたてておきながら、蓋開けてみたら、結局、年末までとてつもない多忙ぶりだったんだよなぁ……笑 思い返せば、年始なんて、ジャブでしたよ、ジャブ。なんたって、去年一発目にレビューした団体が潰れるくらいですからね(ァ
今年も、レビューこそ1発目なものの、スタッフ→ステマネ(照明)→レビュー対象外(グレーゾーン)と、3週連続ホールには通い詰め。本番こそ2月末までないですが、それも結局予定自体はダブルブッキング。結局、今年も忙しくなりそうです……笑

さて、新年1発目は、岐阜でMIW◯……とみせかけて、名古屋大学医学部混声合唱団、通称・医混へ。読んで字の如く、例の国立大学で医学・看護学を学ぶ学生たちを中心に構成された学生団です。私見ですが、日本で一番偏差値が高い合唱団だと信じてやみません笑 嘗て、千原英喜先生の傑作『良寛相聞』を初演したことでも知られるこの合唱団、ながく当間修一先生を招聘し、指導をうけて来ましたが、一昨年から、向井正雄先生を呼んで、指導を受けるようになりました。しかも、今年からはその布陣に、永ひろ子先生も加わり、記念演奏会で、遂にOB合同を披露。思えば、東海地方では、昨日は新進アンサンブルグループが演奏会を開いたり、今日はもう一本OV合同をやる団があったり、全国的に有名なあの先生が新しい活動をはじめられたり、関西では全国的に有名なあの団が「最後の」演奏会を開いたり……時代は少しずつ動いていくものです。そんな、時代の結節点の象徴たる演奏会として、今回は、この演奏会をチョイス。

そうそう、もうひとつあるんですよ、医混の理由。弊団宛に届いた招待状の鏡文を読むと、もう、僕が行くしかないじゃないっていうことが書いてあったんですよね。
「(前略)ご多忙中誠に恐縮ではございますが、ぜひご来聴の上、ご批評を賜りますよう謹んでお願い申し上げます。」……
言ったね?(ニヤリ

・ホールについて
このホール、全然書いてなかったときから一転、ガンガン書くようになって、一気にネタがなくなってきましたね……笑
ところで、しらかわホールといずみホール、その共通点に、「近くに上島珈琲が出店している」というのがあります。もしかしたら、良質なホールの共通点は、上島珈琲にあったりして? って、サラマンカの近くにあるのは、星乃珈琲でしたね……笑
あとひとつ挙げるとするなら、このホール、ちゃんと団旗用のバトンがあったりします。同じ音楽向けホールで人気どころでも、熱田文小にはバトンがない。そういえば、今度から改修工事に入る芸文コンサートホールには、果たして、バトンあったかしら……
……イカンな、本格的に書くことなくなってきているぞ……ww

入場はそろそろと。今度のひな壇、消音仕様なんだから、もっとサッサと歩いちゃった方が気分がいいですって絶対笑

団長挨拶ののち、開演。学生団ですが団歌は持ち合わせていません。尤も、挨拶も、このタイミングの方がいいかもしれませんよね。泣かなくて済むw

第1ステージ
千原英喜・混声合唱組曲『アポロンの竪琴』(宮沢賢治/みなづきみのり)より
「竪琴弾きの歌」
「アポロンの竪琴」
「やがて音楽が」
「ふたたびの竪琴弾きの歌」
指揮:岩田恵輔
ピアノ:加藤千春

まず最初は、現代の流行りどころから。STABという、割合珍しいオーダー。一周回って、なんだかんだ、普通のSATBとかのほうが良かったかもしれないなとは、若干←
とはいえねぇ、僕はビックリしましたよ。以前の医混に明白な記憶があるわけではない。でも。医混って、こんなにうまかったかしら。しっかり鳴らすっていう音作りは何処へやら、それはそれでいいとして、アンサンブルが本当によくハマっていく。ピッチを正確に、着実に和声を構築していく。流行りの音作りを流行りで終わらせずに、それを昇華して、ちゃんと自分たちの中で反芻できている。
男声を中心に、強さが欲しいところもありました。男声が鳴らすことでハマる、倍音の魅力や、和音の深みといったものは、もっと表現できたような気がします。あるいは、もっと表現をガツガツつけることも出来たような気がします。それでも、歌詩だってよく聞こえてくるし、それにも増して、その和声構築と理知的な音楽の作り方に、心底惚れました。上の課題はともかくとして、フレーズ処理さえしっかり出来るようになったら、この団、普通に上位クラスまで化けちゃいますよ。最後は、もっと盛り上げた方がハマったかもしれない。でもねぇ、終わる前から、「歌いたい!」って思わせたこのアンサンブル、そう思わせた段階で、もう、及第点ですよ。

インタミ15分。長い、と思ったら、今日はウィング2間。そんなこともあってか、ピアノを一旦しまってから第2ステージなのでした。だからかな、長かったのは笑

第2ステージ・Moses Hogan ア・ラ・カルトステージ
“Ride the Chariot”
“Down by the Riverside”
“Do Lord, Remember Me”
“Hear My Prayer”
“My Soul’s Been Anchored in the Lord”
指揮:吉川麻里奈

そして、このステージ。ホーガンといえば、独特のリズムから生み出される、バーバーショップのように愉快でカッコいいグルーヴが魅力です。そして、それを表現するために、音程だったり言葉だったりリズムだったりといった細かい課題を色々クリアする必要があります。聞いているとめっちゃ楽しいんだけど、結構繊細な音楽なんです。
ただ、この演奏を、やはり今年の医混は、完璧に演りきってしまった。このグルーヴを、しっかり再現できるのは、お見事、その一言。スピリチュアルズのエッセンスを十分に理解して歌っているサマは、もう、学生団というより、ひとつのアンサンブルグループとして聞いていることが出来ました。すっごく楽しかった!
特に今回スゴいなと思ったのが、4曲目。こういうステージにあってバラードって間延びしてしまうことがよくあるかと思いますけど、それすら、ちゃんとクリアして見せた。否魅せた。その華々しさをも、慎ましくしかし伸びのある高音がしっかりと支えて、曲全体を締める。これが出来る団は、それこそ本当に、滅多ない。
正に、お世辞抜きに、聴く価値のある演奏でした。シリーズ化してどんどん続けてほしいくらいです。

またしてもインタミ15分。でも、否、これくらいあってよかったのかもしれない。演奏が良いだけに、しっかりと休んで、次のステージに切り替えないと、正常な判断は出来ますまい……

第3ステージ・OBOG 合同ステージ
荻久保和明・混声合唱曲『季節へのまなざし』(伊藤海彦)
指揮:向井正雄(客演)
ピアノ:中村文保(客演)

って、アカンて、これ。
こんな上手い「きせまな」、聞いたことないで、ワレ。
やぁ、そういえば、ESTじゃない団を振る向井先生を客席から見ること、もしかして初めてじゃないかしらとか、そんな悠長なこと考えとる場合じゃなかった。さっき、上位クラスまで云々書いちゃいましたけど、OB合同とはいえ、ここまでの演奏できたら、全国行けちゃうんとちゃいますか。
現役だけの医混に足りなかったものがあるとするのなら。例えば、音圧であったり、リズムや子音に付随する音の鋭さであったり、前のめりになってしまう大胆な表現だったり――。
周りの、あるいは眼前の先輩たちに引っ張られてか、あるいは、「生」という、自らの人生にすら直結しうるテーマだったからか。心の底からの表現、音楽としての咆哮、あるいは感動が、ないまぜにして私たちに届けられる。音が届かなかったところだって、高音がコケたところだって、あるにはある。でも、それ以上に、フレージングすら難しいこの曲の、意図せんとするところを、確実に音楽に変えていった。
何度か聞いたことありましたが、「きせまな」って、音がハマると、こんなにも美しい曲なんですね。そのこと自体、私にとっては新鮮な驚きでした。生きることのエネルギーが、培った技術に支えられて、合同ステージにして傑作が誕生しました。

向井先生、ご挨拶。「OBの皆さんとは、初めてながらもこれまでにお付き合いがあったかのような、優しい雰囲気の中で練習を始めさせてもらい、然し、外れたことをせず、確実に音楽をものにしながら今日まで来た。「季節へのまなざし」は、「生きるとは」というのがテーマ。ともすると、生きることを問い続ける立場の人々と、このテーマに取り組みたいと思った。アンコールには、逆に、「死ぬ」ことをテーマに…(中略)…三善晃さんの作曲で…(中略)…生きることと死ぬことは鏡写しとの旨三善先生も書いてみえて……(後略)」
徐々に感じる、「良い意味での」嫌な予感w

・アンコール
三善晃・ピアノのための無窮連濤による「生きる」(谷川俊太郎)

向井先生……いまの医混ならこの曲をアンコールにしてもこなせるよね、って、思っちゃったんですね……笑
否、文句なしに、名作であり、演奏会に載せられるべき名曲です。敢えて言うなら、アンコールでこれを演る団は割合珍しいかなって感じでw 先生、やりたいこと詰め込みすぎです、なんてw
音色もあって、もともと暗い曲とはいえ、そこまで深刻になることなく聞かせてくれたのが印象的でした。そして、医混、やっぱり、この曲も、しっかり決めちゃうんですよね。今回の医混は、だからスゴい。やるよっていって、そうそう簡単に済ませられるようなものでもないですよ、この曲は。

なにがって、アンコールこれだけなんですよ!w この雰囲気で演奏会終わるんですかい! って、正直な感想w
なにか、学生に、新実徳英「なまずのふろや」でも演っておいて欲しかったなって感じ←

・ロビーコール
北川昇「ここからはじまる」
「Ride the Chariot」
相澤直人「宿題」

らいちゃりは、今度は、皆よく知ってるあっちのバージョンで。もっと張れると良かったな! これだけは。
とはいえ、どの曲も、キレイに決まっていて、最後まで素晴らしい演奏でした。その、素晴らしいロビーの残響にも支えられて笑

・まとめ
本当に、驚きました。医混が、こんなにうまい合唱団に育っていただなんて。もともと、悪かったわけじゃないんです。なにせ、初演歴も豊かで、当間先生を呼んでいて、ルネサンスポリフォニーをやっている当時としては珍しい合唱団で。もともと、優秀な合唱団だったはずなんです。でも、向井先生を呼ぶようになって、もしかしたら、この団は、すごくいい方向に向かおうとしているのかもしれません。
合唱に限らず、様々な場所で、世代交代というものがあります。実施していた人の高齢によるものもあれば、種々の事情により仕方なく行われる世代交代もある。そのどれもが成功するとは限りません。それがまさに怖いところ。伝統と呼ばれていた職人技が、その場で潰える瞬間というのは、あっという間でもあります。
その成功のための秘訣なんて、多分ないのだと思います。でも、たぶん、それまでのものをコピーするだけでは、世代交代の成功なんてありえないんじゃないかと思います。もともと成功したものを写すだけでは、それは、二番煎じにしかならない。じゃあ、その、成功していたものとは違うアプローチでも、新しいものを、自分たちの信じるものを突き詰めること。そうした先に、新しい伝統が生まれてくるのではないかと思います。
少なくとも、医混は、これまでのものから、新しいベクトルへと歩みはじめました。その挑戦が、成功へとつながっていくことを、私は信じてやみません。