おおよそだいたい、合唱のこと。

ようこそお越し頂きました。
主に、管理人が参りました、合唱団の演奏会のロングレビューを掲載しております。
また、時折、気分に応じて、合唱如何関係なく、トピックスを記事にしています。
合唱ブログのつもりではないのに、気付いたら合唱ブログみたいなことになってきました。
やたら細かいレビューからノリツッコミまで、現状、合唱好きな方の暇つぶしには最適です。
ゆっくりしていってね!!!

2015年12月6日日曜日

【第19回名古屋混声合唱団演奏会】

2015年12月6日(日)於 三井住友海上しらかわホール

「名混」といえば。
――否、若手世代的には文句なしで「名古屋大学混声合唱団」なのですが(マテ
今日は、「もうひとつの名混」(←)、名古屋混声合唱団の演奏会を聴いてきました。実は今日は電文では、名古屋ビクトリア合唱団の演奏会があったりもしたのですが、ハシゴはせずに、ひとつの演奏会に集中する形で。実はハシゴも出来るという時間、ハシゴした人もいっぱいいたんだろうなぁ……。
第1回演奏会にペンデレツキ・芥川也寸志・武満徹・三善晃を一堂に据えてしまうあたり、創団当初から、ぶっ飛んだプログラムを単独でやってしまう「実に」意欲的な合唱団。今回は、いぶし銀に光る小品を取り揃えた、コンパクトながら面白いプログラムで聞かせてくれました。

・ホールについて
皆様、本当に長らくお待たせしました!!!!
なんとこのホール、当ブログ始まって以来、初めての登場です! これまで幾度と、名古屋の演奏会もさらって来たのに、気がつけば、なんとこのホールで書く機会というのを逸しておりました……なんということだ。これまで散々機会があっただろうに。
名古屋人にとっては言わずと知れた、合唱をはじめとする室内クラシックの殿堂のようなホールです。特に合唱人の間では、「ホールといえばしらかわだよね」と言わんばかりに有名な聖地。とはいえ、最近このホールは自主公演をやめてしまいました。合唱関係なく、いちクラシックファンとしては悲しい限り……いいハコだけに、もったいないことこの上ない。
かれこれ結構な年数の経ったこのホール。いずみホールやサラマンカホールと同系統のホールといって差し支え無いと思います。典型的なシューボックスタイプのホールで、結構高めの響きがホール全体を包み込むように優しく広がります。そのためか、2階席だろうと、真上に天井があろうと関係なく、どの席でも割と良好な聴取環境を得ることが出来ます。届かないことはないし、かといってうるさすぎるなんてこともない。いろんなホールをこの3年で廻ってきましたが、否、やはりこのホールの響きは、完璧とこそ言えずとも、聞いていて本当に落ち着くものです。家に帰ってきたかのような。そして開演ベルのこの音! まる2年半はしらかわに行っていなかったことになるだけに、もう懐かしさすら感じてしまう、この鐘の音声(おんじょう)――って、違うわコレ←
ちなみに、クロークとラウンジも完備です。ラウンジって今でも営業出来るのかな? 基本的に10分〜15分とインタミの短い名古屋の合唱ではあまり使われませんが。あと、椅子が、座面がまるごと跳ね上がるわけではなく、座面真ん中あたりで折れ曲がる、特徴的な形をしています。ちょっとハンドバッグを置いておくのに大変使いやすい構造。名古屋市各区にある文化小劇場と、中電・電文、ウィルあいち、市民中、宗次、そしてしらかわ。名古屋の小・中規模の文化は、こんな恵まれた環境で育まれています。

指揮:大橋多美子(1, 3, 4)、小泉孝(2)
ピアノ:森恵美子(1, 4)
ヴィオラ:吉田浩司(3)

第1ステージ
萩京子「五つの混声合唱曲『飛行機よ』」(寺山修司)

萩京子の代表作。意外と演奏される機会が少ないような気もします。作曲家にして言わしめるように、全体として爽やかながら、寺山修司の繊細な心情を描き分けた佳作でもあります。しかしながら、萩京子の作品にひとつ特徴的なのは、その独特の空気感。ただ歌い流しただけでは流れ去ってしまうようなシンプルかつ静謐なメロディの中に、心に迫るいくつもの感情が去来する作品です。
ともすると、この心情表現、とてもさり気なく歌われていくため、それぞれの感情に「くさび」を打つかが結構重要な課題なように思います。メロディをメロディとして流すのもまた一興、しかし、例えばその子音に重きを置いて、歌詩の一言一言を飛ばすような表現ということもまた考えられます。今回は割と一貫して、すんなりと流していく演奏だったように思います。例えばそれは、1曲目や3曲目ではハマりますが(しかし前者はノンビブラートで聞きたかったし、後者は他方、今日は響きが暗かった。残念。)、2曲目の熱情的な少女への感情や、4曲目の祖国という言葉のねじれを表現するのには少々不十分だったようにも聞こえてしまいます。また、曲調としてはよく合うはずの5曲目でも、テキストが長い分だけあって、言葉でしっかりと押して行かないと漫然としてしまう、というのは、個人的な印象。手厳しい言い方でこそあれ、確かに1ステとしてはよかったけれども、あまりにも1ステ然と歌いすぎてしまったか。もっと歌い込んでもよかったし、もっと歌いこんだモノを聞きたかったというのもある。
しかし、いい曲ですね、この曲は。高校時代からちょろっと触っていた合唱を大学のサークルで本格的に初めて、一番最初にステージに上がった時の曲が、この組曲3曲目の「ぼくが小鳥に」でした。

インタミ10分。4ステ構成。なのになんでこのタイミングでインタミかって?……当座のピアノをしまうためです笑

第2ステージ
三善晃「混声合唱曲『小さな目』子どもの詩による13の歌」(作詩情報省略)より
「先生のネックレス」
「せんせい」
「いもおい」
「みそしる」
「ひろちゃん」
「やけど」
「あさ ないたこと」
「けんか」
「ピアノ」

当時の小学生たちによる詩に三善晃が付曲した小品集。日唱の立ち上げの際に委嘱された作品とのこと。それも、三善としてもかなり初期の作品。『五つの童画』とほぼ同時期。ということは、難易度についてはもちろん……笑 同じく、こと此度の三善晃再演の流れの中でもなかなか取り上げられなかった曲。とはいえ、かなり古いものでこそあれ音源化はされている、割とよく知られた曲でもあります。その意味、長らく現代音楽と馴染みの深い名古屋混声ならではの非常に優れた選曲眼が光ります。
子どもたちの独特な感性を写実するかのように活き活きと描かれた音の世界。三善独特のヴォカリーズが和声をめくるめく変えていく中に、音楽として見いだされる感情は、聞いていてとても楽しくさせます。実際、周りにいた、団員のお知り合いと思しきオバサマ方の笑いを誘う程、でもって、それが特に嫌になるということでも無いくらい、諧謔に満ちた、可愛らしい楽曲たち。
なにかといえば、この団は、それを表現するだけのポテンシャルを持っているということです。むしろこの団は、現代音楽寄りの楽曲の方が豊かに表現できるんじゃないかしら笑 何がスゴいって、言葉と楽曲の収め方が、唸るくらいに上手なんです。経過音をしっかりとはめながら、その和声が自然と詩の表現に繋がっていき、最後のトニックを可愛らしく、時におどろおどろしく、時にしんみりと決めていく。その一つ一つにおける楽曲への理解、いうなればさり気なさのようなものが、聞く人を自然に惹きつけ、そして、心の底から共感できる原体験への結びつけていっているように思います。何より、仕上げ方が、三善と思えないくらいに軽いんだ――。
ところで、「けんか」聞いてて思ったんですが、三善センセってホント、喧嘩周りの曲に名作多いですよね、ほら、「格闘の場面」(『クレーの絵本第1集』)とか、組曲『決闘』とか……なんて笑

第3ステージ
一柳慧「混声合唱とヴィオラのための『ふるさとの星』」(谷川俊太郎)

珍しくビオラが編成に入る曲。否単純に、ビオラが単独の弦で入るのって珍しくないですか?……スミマセンね、ビオラ弾きの皆さん……笑
うって変わってガチガチの現代を覚悟していたら、アレ、意外と1曲目は馴染み深そうな曲……ヤ、待てヨ、ビオラはなんか妙なメロディを鳴らしているゾ……あれ2曲目は、何だこの妙なメロディラインは……などなど、特に中間楽章でその化けの皮を剥がし(?)、4曲目は再びさわやかな空気の中に去っていく曲。3曲目の「ほほえみ」などは、むしろその雰囲気の中によくハマる、うまくやれればとてもおもしろい曲のように思います。
そう、「うまくやれれば」。この曲、傍目に見ているだけでも難しいんです。例えば「ふるさとの星」なんて、その言葉のアクセントと逆行して上行音型だし、2曲目なんて長7度跳躍がどしょっぱから出てくるし、3曲目は音高いし、4曲目こそ割と歌いあげられるものの、そこに至るまでがひたすらに難儀なんです。そうなると、たとい現代音楽をよくやってきてたとしても、振り回されるものは振り回されるもの。なかなか曲が全体としてまとまりきらない。長7度にかぎらず跳躍がおおい曲。音量というわけでもない。ただただ、この跳躍に耐えうる、力を。
しかし、この曲もまた、和声がめくるめく変わる曲。その点、音が取れている、というだけの次元にとどまらず、和声を柔軟に鳴らせているというのは、相変わらず、この団の強みなのだなぁと思いました。4曲目のビオラとの絡みとか、結構好きです。軽い響きを当てられると、単純に、もっとよく聞こえるような気がしました。しかし、そのために必要なのは、力……力こそパワー……笑

インタミ10分。ピアノが戻ってきました。両インタミとも、アナウンスはなし。まぁ、それも一興……?笑
ちなみに、インタミといえば、このホール、かなりちゃんとしたアーティストラウンジが舞台下手側にある(もちろん団体のセルフサービス)んですが、あのアーティストラウンジをアーティストラウンジとして使っているアマチュアの団体を、自分が関わってきた中ではみたことがありません笑 自分が演者たる時には、舞台裏アーティストラウンジ近接のエレベーターホールにあるドトールのカップ自販機が大好きだったりします……笑 スープおいしい……笑
さらに演奏関係で言えば、リハーサル室のほか、ひとつだけ、グランドピアノが設置されている楽屋があるので、ピアニストの皆さんも、身体が冷えることなく本番に備えることが出来て、大変充実した環境です……ですよね?笑
なんでこんなに詳しいかって? 散々いろんな団で使ってるからですよ! 毎度お世話様です!w

第4ステージ
Chilcott, Bob “Jazz Folk Songs” for Choirs より
‘Scarborough Fair’
‘Hush, little baby’
’Tell my ma’
‘The House of the Rising Sun’
‘Waltzing Matilda’

このステージまでは男声礼服、女声がスカイブルーのサテン系ロングワンピース。このステージだけはお召替えで、男女ともに、所謂「黒・黒」。ジャズですからね、ロングワンピースでジャズは……それはそれでいいのかも(何
チルコットお得意のポップアレンジで、最終ステージは華々しく彩られます。そうです、この団、こんなこともできるんです、と言わんばかり笑 私事ながら、以前この団にお伺いしたのは……そうですね、単独で権代敦彦『ダイイング・プロジェクト』を演奏された時でして……笑
縦を揃え、それを横に流すのが上手い団だからこそですね、このグルーヴ感は! シンコペーションも軽く、それでいてとても十分に、鮮やかに鳴らします。課題として、子音を鳴らすのが遅くてついていけないように聴こえる部分が時折あったものの、しかし一方で、鳴らす意欲は十分なので、英語なのに言葉がしっかり聴こえてくる。ステキ。
ジャズのグルーヴって、呼吸が創りだすものだと思うんです。言ってみれば、それぞれの奏者の息遣いがそのままフレージングとなり、和声となり、リズムとなり、音楽となる。だからこそ、お互いの息が合うこと、更に言うなら、ちゃんと息を出して声を出していることが、良い演奏への条件となる。その点、この団は、しっかりと声を出している。それが、思うがまま出して、例えば1ステ1曲目のように、ビブラートが浮きすぎてしまったりして、雰囲気が壊れかねない状況にあるのかもしれない。しかしながら、それが十分に活きる場面というのは様々な機会に訪れて、そして、実際、それを元にして表現を組むなんていうことも出来る。ちゃんと声を出しているこの団、そして、この演奏。響くホールだからこそ、響く声を出せていることは、何より、強みでもある。力強いジャズに寄せて、ポツリ、そんなことを思うのでした。

・アンコール
arr. Bob Chilcott “O Danny Boy”(with Viola ad lib.)
arr. 三善晃「夕焼小焼」(『唱歌の四季』)

1曲目はビオラも加えて。独自のアレンジだそうで、団員曰く、前日までどういう風になるか全くわからなかったとか。むしろ自然だったから、ついてっきり、最初からあるものかと……笑 最初の主題独奏もキレイでした。2曲目はド定番。何より、単独の団でこの曲をやって、これだけのボリュームを以て、ついでに拍手喝采持っていくのだから、この団は強いっていうものです。でもネ、途中の男声内声部は、もっとガンガン鳴らしてもいいのよ?笑

・まとめ
常々、とても意欲的なこの団、その中でも、「割と」こぢんまりとまとまった今回の演奏会。しかしながら、とても密度の高い、ハイレベルなプログラム配置だったようには思います。全体として、ピュアな感情を如何に表現するかを考えさせられる、スッキリとした構成。意外とバラバラなように見えても、実は意外とすんなりとひとつにまとまったプログラム。見れば見るほど不思議、しかし、それもまた良い、そんな感じ。
もともと、レベルの高い団です。だからこそ見える技量、というのもいいのですが、上手い団と呼ばれるところは、往々にして、当たり前と思われていることを当たり前に出来る団です。その中で、この団は、当たり前に出来ることをちゃんと当たり前にしていきました。なにより、それは評価したいところ。実際、当たり前に出来ると思われていることが実はこぼれているというのはよくあることなのです(耳が痛い……)。
しかし、場所によっては、より多彩な音が欲しい、と思わされる場面もある。それは『小さな目』では十分なものの『飛行機よ』では不十分、というような相対的なものです。あえて一つにまとめるならば、この団に致命的に、しかし唯一足りないものは、音色の使い分けといえるのかもしれません。もっと明るい響きで『飛行機よ』を飾ればもっと違ったかもしれないし、もっと力強い響きで『ふるさとの星』を演奏すれば、また違った世界が見えたかもしれない。そういうった意味で、すごく惜しい演奏というものが何曲かあったように思います。「音の広がり」を元に今日の演奏を語った方をTwitterでみました。それもまた一興。然し、私は、そのポテンシャルを、チルコットにおけるグルーヴに見たい。
ナニ、この団は、来年も聴かせてくれるでしょう。それは、日常に対する希求であり、同時に、将来に対する期待でもあるのだと思います。また聴きに行こうと思います。

・メシーコール
「スガキヤ ニュー栄B2店」
飯食ってもこのコーナー立てないこともあるんですが、ひとことだけ。
店内掲示の味噌ラーメン、めっちゃ楽しみです!!!!!!!!
コーン!コーン!山盛りもろこし!

2015年11月4日水曜日

【Vocal Ensemble《EST》第23回コンサート】

[イタリアからの贈り物、そして、新曲の誕生]
2015年11月3日(火・祝)於 三重県文化会館大ホール

もっと早く行っときゃよかった……
あのホール、昔は周りに何もありませんでしたよね。今日すっごい久々に行ってみたら、前はなかったはずの博物館あるじゃないですか。で、そこでやっていた展覧会が何かと思ったら、10月の鈴鹿サーキットに合わせて、なんとF1展。まさに今年復活を遂げたマクラーレン・ホンダ関連の展示だったそうで、看板にデデンと載ったのはあのマルボロ色のマシン(MP4/5B)も。そんなに詳しくはないんですけれど、最近好きなんですよ、モータースポーツ。こんなことなら、午前中から行っておくんだったなぁ……笑 あと10日あまりみたいです。
しかし、それにしても、行きがけに名駅でラーメンを食べ、連れと落ち合うところで電車を逃し、急遽特急に乗りつつも車内に藤田屋大あんまきを持ち込んでプチ観光気分になっていたので、まぁ、それはそれでヨシ、ですかね笑
そんなわけで、ESTの演奏会でした。中部地方、いや、日本を代表する合唱団のひとつですね。今年の全日本では惜しくも全国大会を逃しましたが、それでもしっかり金賞を取ってくる、安定感抜群の合唱団。一方で今年はイタリアのアレッツォで行われたコンクールに参加。さらに当地での教会での演奏など、また一つ、充実した活動を重ねてきました。アツい向井先生の指揮と、それと対峙する合唱団。生み出される音楽の繊細さは日本随一のものがあります。毎年、本拠地である三重で行われる演奏会。その影響力は、津市長から祝電も届くほど。まさに、合唱の枠を超えて、三重の文化を牽引しています。

……ちなみに、「もっと早く」繋がりで言えば、今回はしばおうさんが僕より一歩早く更新されています。速報を売りとするうちのブログとしては……ぐぬぬ←意味のない張り合いw

ホールについて
門構えが豪勢なホールです笑 津駅から25分(Google情報)歩かされるホール。タクシーを捕まえようにも、四日市よりも都市規模が小さいと言われる県庁所在地(!)の裏口のロータリーから歩かなければならないだけあって、意外とそれも難しい。バスも出てるらしいんですけれども、個人的にはあまりアテにしていません←
そうして着いた大ホール。オペラ用のオケピットも出来るであろう大きな舞台に、客席もバルコニーを兼ね備えた三層方式。そして何より、天井がすごく高い!ステージから客席奥まで、天井の高さも均一で、残響時間はすごく長く、贅沢な響きです。あと、座席の座り心地も抜群で、長尺の演奏会でも十分ゆったりと楽しめます。
ただ、このホール、音圧となると、なかなか合唱団泣かせ。簡単にいえば、飛んでこないのです。ESTも、そんなに鳴らせない団ではないはずなのに、音圧が足りない!と思わされる場面が何度も。否これは、合唱団の実力なのか(失礼)、それともホールのせいなのか……おそらく、後者なのかな、と思っています。よくありますよね、しかし、響きを取るか、音圧を取るか、みたいな問題。
なお、行ったら行ったで、ホールに喫茶店があるくらいで、食べ物には結構難儀します。お昼はホールで食べるのもありですが、安く済ませるなら、ホールに行く前に、駅前の逆側の出口から出て、何か食べていくなりコンビニに行ったほうがいいかもしれません。いや、これ、disってるわけじゃなくて割とマジな話なんです……苦笑

指揮:向井正雄

背景には教会の出窓風の飾り付け。あら、あんな柱あったかしら……窓みたいなのは作ったのかな……しかし、この雰囲気で教会音楽というのはいいですなぁ……など、妄想が膨らむところ。
なんと今日はテレビカメラが入っていました。地元のケーブルテレビかな……なんて思っていたら、終演後ロビーで見えたカメラには「東海テレビ」の文字が。ご存知(?)、名古屋を中心にエリアを持つ、フジテレビ系列の地元局。一体どんな形で放映されるのだろうか……それはそれで、楽しみなところです。第1ステージの5曲目で、雛壇を舐めるように撮影していたのが印象的でしたw

・オープニング
de Rore, Cipriano ”L’alto signor”

美しいアンサンブルを華々しく響かせながら、演奏会が開幕です。この曲、アレッツォのコンクールでも1曲目を飾った曲だったとのこと。少人数のアンサンブル。しかし、この曲、音楽が非常によく進む。軽いのに、旋律がしっかりと跳ねて、動いている様子がよくわかる。下降音型が落ち気味だったような気がしましたが、このアンサンブルの本質はそこにはないでしょう。ポリフォニーかくあるべき、という音作りがしっかり出来ていたように思います。まさに、この演奏会の方向性を見つけることが出来た思い。

第1ステージ『イタリアの協会に響いた宗教曲選』
da Palestrina, Giovanni Pierluigi ”Super flumina Babilonis”
Bruckner, Anton ”Christus factus est”
Reger, Max ”Nachtlied”
Poulenc, Francis ”Gloria”(from Messe en Sol Majeur)
Ferrario, Pietro ”Jubilate Deo”
Whitacre, Eric ”Alleluia”

アレッツォ報告演奏。1曲目は今年のG1でもあります。この曲、どうも、音楽が滑ってしまっていたように思いました。普通に歌っていると普通にガンガン進んでいってしまってあっという間に終わってしまう曲。ただ一方で、構造が割としっかりしているだけに、テンポを揺らすのはナンセンスにしても、聴かせどころを聴かせようとする意識をつけるだけで、少し音楽が変わったような。ただ、母音が非常によく揃っている。母音をハッキリというかなり堅実なラテン語発音をしていましたが、一方で乱暴にもならない。母音に対するコンセンサスが十分出来ているのだなと思いました。2曲目は、立ち上がりの音を中心に、少し勢いにかけていたような。キレイな音は聞こえるのだけれども、それ以上の表現の要素が何か欲しかったなぁというのが正直な印象。対して3曲目は素晴らしい! 言葉の処理とアンサンブルの妙が素晴らしくマッチしました。ドイツ語は否、歌のために生まれた言語なのだろうか、としばしば思わされますが、まさに、ドイツ語の響きをよく音楽に乗せられていたように思います。まして、キツく聞こえがちなドイツ語が、こんなにも丸く優しく聞こえたのは本当に、今思い出しても、スゴいものです。4曲目になると、分散して聞こえてくる各パートが、全体としてのまとまりを作りきれなかった印象。散り散りになってしまっていたのがなんとも惜しい。5曲目は、雰囲気とクラスターの音響がとてもよくまとまっていました。6曲目は十八番の持ち歌。ウィテカーというと、縦に振り回されがちになってしまいますが、実は横の動きを作るのが上手い作曲家。クラスターはいわば、横の動機を探っている音というか。その点、和声のつなぎ方が非常に美しい。それでいて、出るべき旋律がちゃんと出る。ホールの相性とも、ウィテカーはよく会っていました。優しく膨らむ表現は、幸せになることの出来る音です。
最初の方は心配でしたが、概してあとに行くにつれ演奏はよくなっていったと感じました。思うに、音楽が自然に旋律を作らないような曲だと、推進力が少し落ちてしまう印象でした。象徴的なのは4曲目ですが、ともすると、自律的に音楽を作るという意識を持つだけで、この団は一段先に行くのではないかなと思いました。――って、釈迦に念仏ですかね、嘗て全日本で、あんなゴリゴリの鬼畜リズム曲をバッチリ仕上げてきた団体ですし……どれとは言いませんけど笑

2ステに行く前に、アレッツォをイメージしたであろう窓の飾り付けを取り外し……って、柱をイメージした布ごとバトン(=団旗・社旗・国旗等を括りつけるために舞台上部に用意された水平の棒)に括りつけていたの!? 道理で、この柱見覚えないんだよなぁとなるわけだ……笑 ってかそもそも、公演中にバトンを下ろすっていう光景を初めて見ました……笑

第2ステージ
鷹羽弘晃『解釈の試み〜鷹羽狩行の俳句に寄せて〜』
1. 少年に菫の咲ける秘密の場所
2. 摩天楼より新緑がパセリほど
3. 村々のその寺々の秋の暮
4. 一対か一対一か枯野人
5. しがらみを抜けてふたたび春の水

今年のTOKYO CANTATで初演された曲の三重初演(確か)。各曲の冒頭には、4ステの初演曲の作詩をした堤江美さんによる、2ステ曲テキストの朗読がありました。元文化放送のアナウンサーで、今も朗読活動を続けている方とのこと。言葉による風合いを明確に色づけて、その後で合唱を楽しむ。曲によっては指示があったりもしますが、割に新しい試みのような気がします。
最初の朗読で日本語を日本語として意味を堪能した後に響く合唱は、対照的に、言葉を分解して、和声を以て音像的に示す風景描写。鷹羽弘晃というと、アンジェラ・アキ「手紙」の合唱編曲(原盤)で著名になりましたが、単独で作品を書くと、「Premiere Vol.1」で発表した『立原道造の詩による四つの心象』でも顕著なように、ヴォカリーズによる繊細な和音で静謐な世界を美しく見せる独特な和声構造に特徴があります。特に今回の曲でいうと1曲目。「秘密の場所」の言葉のままに、「少年に菫の咲ける」風景を、言葉だけでなく、否むしろヴォカリーズを印象派絵画のように使いながら描き出していきました。2曲目は、林立するビル群の中の小さな緑を、そして、シュールな中に峻立する3曲目と4曲目、そして5曲目に湧き出る春の芽生えが吹き抜けるように聞こえてきます。
演奏については、いろいろ言えることはあるんです。でも、何より、この和声を磨き上げる実力をもってすれば、この曲はなんてことはないのです。まさに、手馴れている。いい意味で。――ただ一方で、課題を求めるならば、やはり徹底的にこのヴォカリーズの和声でもあります。もっと豊かに表現できたはず、というのは贅沢な要求かしら? もっとネチネチと表現しても、この曲は意外と堪えてくれるのではないかな、と思いました。でも、それはこの曲のことをよくわかっているからこそ。ともするととっ散らかってしまいそうな曲の、要諦をよく掴んだ表現が光りました。そう、この団は、どんな複雑な曲でもキチンと整理して届けてくるから素晴らしいんだ。
しかし、久々に日本語の曲で面白いと思える新曲に出会いました。否、今までの曲がアカンってわけじゃなくて、しかし一方で耳障りのいい愛唱曲的なものが多いのもまた事実。この、自分のポリシーを崩さず、表現したいことを表現したいままに音にするような曲というのは、個人的には随分久々でした。メインにはなかなか使いづらい曲ですが、今回のように、インタミ前においておくにはベストマッチだと思います。是非、様々な団で、様々なところで聞いてみたい曲です。
イヤ、こういう曲が生まれるから、カンタートはやめられませんね(?)!笑

インタミ15分。なんか、知り合いが、なんなら愛知の人がいっぱいいて、やはり、三重県って言葉はともかく文化は名古屋文化圏にいるんだなぁと実感させられました笑「缶コーヒー」が飲みたかったのですが、自販機が見当たらず、残念← もっとも、ラウンジも閉まっていたのですがw

第3ステージ『友情出演〜MoiMoiをお迎えして』
Sariola, Soila ”Nouse lauluni”
Gjeilo, Ola ”Northern lights”
Alfvén, Hugo “Och jungfrun hon går i ringen”

今年(来年春郡山全国推薦決定大会)の愛知県アンサンブルコンテスト一般混声部門で金賞を受賞した団体。数人がESTの団員だったり、向井先生も講師をつとめる名古屋ユースの中心メンバーがいるなど、様々な縁が重なり出演したとのこと。活動柄、知り合いも非常に多い団体。代打の代打っぷりだったり、代表挨拶でザワつく客席だったりなど、内輪で盛り上がれる話題はともかくとして……笑
まずなにより、ESTと比べると音が明るすぎるな、という印象がある点が、パッと聞いて思いついた点。何言ってんだお前は、という声はごもっともですが、でも、どうしても気になった。明るいに越したことはないだろうという声が世の中の大勢ですし、現に僕もピッチが明るいことを褒め称えたことはありますし、その言葉に偽りはないです。でも何か、明るすぎたような気もしてきてしまう。
ともすると、明るい音色を使いこなしきれていない、ということがことの本質かもしれません。確かに音色が明るいと、非常に耳障りがよくなります。鳴りが華々しくなりますので。その点、MoiMoiの演奏は、アンコンで金賞を取るには十分余りある演奏でした。ただ、全体として、音楽がESTと比べると推進力に欠ける。もちろん、前述のとおり音は歌えているのですが、その音が次の音へと繋がる出方をしていない。スラーに歌うとか、イントネーションとか、なんなら純正律とか、細かい要素分解はいろいろ出来るのですが、こういうとき、何だかんだ「役に立つ」のは、気の持ちようだと思っています。例えば1曲目だったら、リズムとフレージングの区別、2曲目なら、静かな曲だからこそ逆に気にしたいフォルテ系の表現の付け方即ち小さく音楽をまとめないという意識、3曲目では、牧歌的な歌詩に突然出てくる「ライフルで撃った」というテキストと、その音楽的表現における戯曲性のある表現の付け方、及びその対比など。その曲その曲の引っ掛かりを、どう想像して、どう音にするか。ともすると、精神論だとか、やれ感情的な表現は音色を暗くするだけだとか言われがちですが、逆に、それだけ歌える団だったら、僕はむしろ、音色を暗くしてでも表現を付けてやるという意識のほうが良いんじゃないかと思ってしまいます。だって、上手いんですもの。技術は持ち合わせている集団、あとは、想像力と、その想像をどうやって音にするのかという考え方。
むしろ、想像した音を実際に鳴らすことの出来るようにするために、技術をもつべきなのだと思っています。――ともすると、技術のために技術を持つ、という「コンクールで勝てる音楽」との分水嶺はそこにあるのかも、というのは、最近流行っている話の一般論笑

第4ステージ『山下 祐加の世界へ♪』
作曲・ピアノ:山下祐*加
(*「祐」正しくは「示」に「右」)

まずは、山下祐加さんをステージに呼んでトークセッション。今回のアレッツォにも帯同したとのこと。そして、このステージのオープニングに1曲。

「ありがとうの花束」(ピアノ伴奏付き二重唱)
ソプラノ:鈴木慧
メゾソプラノ:村上かなえ

ESTが昨年初演したという曲を女声二重唱版(w/ Pf.)で。この二人、昨年までESTで活躍する傍ら、通っている高校で合唱同好会を一から立ち上げた実に凄腕なふたり。三重のアンコンでは2人で出て金賞を獲得する程。なんか自分で書いていて自分を疑う。本当かいな、ってくらいに笑 ご本人による、間違っているorもっと盛ってくれ、いずれのご意見も受け付けますので、是非どうぞ(何
イヤでもね、盛るまでもなく、この二人スゴいんですよ。演奏が。ユニゾンがしっかりハマる様は、もはや全国クラスの団顔負け。鍛えられていただけはあります。二人だけでしっかり音楽が進むさまは、もう、お世辞抜きに、ESTよりも音楽をしていたかもしれないなと思わされる。そして、この歌詞がいいんですよ、これまた。「あなたがいたから/世界は美しいと思えました。」
演奏会きょう一番の拍手は、間違いなく、このステージでしたね。ほんとうに素晴らしかった。

そして、堤さんも登場して、新曲初演について。
「音と言葉の関わりを中心に研究していた時に、堤さんの書籍に出会い、非常に多くの気付きを得た」(山下)
「言葉は、目で見るのと耳で聞くのとではぜんぜん違う。今日は、色と音と風景がすごく広がる曲を聞いた。リハーサルでは、こんなにも言葉には気付かない大きさがあるのかと驚いた」(堤)
演奏前には堤さんの朗読つき。前述のとおり、朗読活動を続けられているその実力が本当に素晴らしい。こんな読み手の朗読を久々に聴きました。言葉ごとに風景が見えてきて、その言葉が心の奥底に突き刺さってくる。絶妙な間合いと、飾ることのない自然な発声が、日本語を文字として、景色として実態のものとする――プロ中のプロの読みでした。脱帽。

混声合唱とピアノのための組曲『ふるさとのように』(堤江美)《委嘱初演》
1. ワクワク
2. かわせみをみる
3. 希望
4. 雪
5. ふるさとのように

対して、曲は必ずしも、堤さんの朗読通りにいかないもの。否しかし――これは、いい意味で。独自の解釈で、爽やかに鳴る音がとても印象的な仕上がりでした。「ワクワク」の言葉を、希望と期待の中に花開かせた1曲目、怪しげな中に静謐な雰囲気を湛えた2曲目、ピアノのアルペジオが美しい、まるで終曲のように堂々と希望を歌い上げる3曲目、サウンドスケープが雪の風景を巧みに描写する4曲目、そして、最後にアカペラで、ふるさとを思う暖かな響きが印象的な5曲目。聞きやすいながらも粒だった珠玉の組曲。特に2曲目の出来はほんとうに素晴らしかったです。もう一度是非聞いてみたい曲です。
もとがとてもシンプルな曲です。シンプルな曲はどうしても、無理に、とは言わずとも、膨らませないとしぼんでしまうような気がしてしまいます。ともすると、1曲目はもっと鳴らしたほうが良かったような気がします。でも、鳴らす、という意味に置いては、3曲目や5曲目はとても良くなっていて、それこそ、終曲が2曲あったかのような壮大さがありました笑 一方で、強い曲に挟まれたやや弱勢の4曲目は、もっと強音に対する意識を強く持たないと、いくらサウンドスケープの曲とはいえ埋没しかねない状況になったように思います。そうはいっても、曲含め完成度の非常に高かった2曲目も回顧するに、とても素晴らしい最終ステージを聴くことができたな、という印象。
なにより、曲がいいですね。イヤ、演奏もいいんだけど、曲が本当に面白い曲。2ステの鷹羽先生の曲もそうなんですが、決して愛唱曲よろしく口馴染み耳馴染みの良さだけを表現しているのではなくて、テキストの持つ深い表現と、その深い表現に対する音楽的な応答のダイナミクスを十分に感じられる曲達でした。特に今回は、詩がやわらかいながらもとても深みのある、作品としてとても優秀なもの。その中に潜む表現を、持てる全てを持ちだして表現すること。それを表現した委嘱者であり初演者であるEST。これまでなかった世界を表現するという意味において、とても価値のある初演だったように思います。

・アンコール
山下祐加「ありがとうの花束」混声4部合唱

先ほどの曲を。このホールは何より、こういう響きに強いですよね……! 演奏会の最後を、名残を引くように歌っていくのが、とても気持ちよく響いていたように思います。

・Ensemble MoiMoi 合同アンコール
松下耕「湯かむり唄」

そしてダブルアンコール……否、チラシに書いてありましたね笑 アレッツォでも大人気だったとか。こういう曲を、難しそうとか思わずに軽々歌ってしまうからこの団は強いんだよなぁ……。

最後には、なんと「クイズ」。閉演アナウンスの際に出たクイズは……「オープニングのアンサンブルで歌っていた団員は何人?」……ごめんなさい、覚えていませんでした笑 ちなみに、アンケートクイズに答えた正解者から抽選で3名は、来年の演奏会ご招待とのこと。そういえば、演奏会の最後に宣伝もしていた。京都バッハとの共演でマーラー『復活』を歌うとか。――したたかな宣伝ッ!笑

・ロビーコール
木下牧子「夢見たものは…」

こちらは定番ですね。ロビーも非常によく響くんです。思わず歌ってしまう人もちらほら……ってアレ? 自分もなんか勝手に口が……笑 ロビコあるあるですね笑

・まとめ
この演奏会のチラシを見てからずっと、「この演奏会でESTが表現したいものは何なのだろう」ということをずっと考えていました。確かに、百花繚乱、いろいろな音楽が並んでいて、ゲストも、友情出演もある。海外での演奏経験を活かした演奏もあるらしい。でも、肝心の、では、この演奏会で一体何が聞けるのか、正直、チラシだけの段階では半信半疑の側面があったのも否定は出来ませんでした。
で、演奏会へ行ってみて。――なるほど、むしろ、ESTはこれを聴かせたいのだな、という考えを持ったのが、僕の正直な結論です。なるほど、この百花繚乱そのものを見せたいのだ、と。アレッツォのコンクールのルールの都合上、どうしても幅広いジャンルの曲をやらなければならないという事情もあったようですが、どうも、それだけでもないような気がしてしまいます。EST、様々なイベントが重なり組織全体が大きな転換点を迎えている合唱団です。ともすると、過去の実績をともかくとして、この合唱団が何を持っていて、これから何を表現できるのか、いろいろと試されているのではないかな、と勝手に考えています。否だって、本当に、様々な表現が楽しめて、ただでさえ多い引き出しが、さらにどんどん増えている。そうしていくうちに、合唱団として、どんなことが出来るのか、新しい曲に対峙した時に、どういう対峙の仕方が出来るのか、その反射神経だったり、経験の量だったりが、これからのESTサウンドを作っていくのではないかなと思い至っています。
今日は、ESTの過渡期を聴くことが出来ました。それは、悪い意味ではなく、いい意味で。これから先、ESTはもっと違う音楽を、様々な形で、私たちに届けてくれる。いわば、価値を発信する合唱団から、価値を創造する合唱団へと、大きくシフトしていく、その一端だったのではないかと思います。これからもやるべきことはたくさんある。しかし、その上にある世界を、この団は、様々な活動を通して、既に見据えているのではないかと思います。これからの音楽のあり方から、これからの活動スタイルまで。次はマーラー『復活』へ取り組むという、ある意味、今回の演奏会とは真逆の単一テーマ一本モノに取り組もうとしているところ。そこで見せてもらえるであろう、この団の、組織の、本当の粘り強さというものが、今から楽しみで仕方ありません。
否しかし、今日は(昨日だけど)数多くのジャンルを一度にインプットできて、とても貴重な体験でした。何より、個人的には出会った日本語の曲が大好きだったので、もうとにかく満足です笑

2015年9月20日日曜日

【混声合唱団VoxMEA第7回演奏会】

2015年9月20日(日)於 電気文化会館 ザ・コンサートホール

しまかぜ良かったわぁ……
いやね、昨日伊勢詣でに行ったんですけどね(行った、というより付いて行ったという方が正しいか←)、近鉄特急しまかぜに乗ることができまして。全面ガラスの抜群の眺望で眺める車窓と、地上波放送も楽しめるテレビモニターでゆっくりと眺める前面展望、そして掘りごたつ風の和室で戴くケーキとアイスティー……もちろんお値段張りますしなかなか予約も取れないと噂ですが、いやぁ、これは乗る価値ありました。皆様も是非。そして、伊勢は何度いっても素晴らしい神宮ですね。神宮御料酒「白鷹」も買うことができて(何故かお神酒でないのはその点、どうぞお察しいただければ←)、満足の日帰り旅でした。
というわけで、今日はVoxMEAの演奏会でした。え、伊勢と何が関係あるかって? はい、みなさまのご想像の通り、何も関係ありません←

・ホールについて
そういえばこのホールを取り上げるのもはじめてだ。名古屋を代表するコンサートホールのひとつです。念のため言いますが、ザ・シンフォニーホールのパクリとかでは断じてありません、ええ← ところで個人的には、同じ中部電力系だからか、名前に「電」と入っているからか、中電ホールとよくごっちゃになるんですけど、これは僕だけですかね……?笑
大体400から500席程度の席数で、合唱のほか、声楽やピアノでの利用が多い印象のあるホールです。予ベル、本ベルが非常に現代的な響きを持っています。その、幻想的で、浮遊感漂うようだけれども、邪魔になることもなく……キレイなんだけど(その分?)音量の小さいことがちょっとした難点か笑
個人的には、名古屋で一番バランスの良いホールはここだと思っています。しっかりと鳴ってそれでいて素直な、混じりけのない音の鳴る響きに加え、シンプルながらも幾何学的で面白い意匠、それに上手に組み込まれて明るくもくどくない照明、そしてイスの具合(大事!w)、全てがちょうどいい。客席規模も含めて、前述のような室内楽クラスの音楽をする上では最適なホールなのではないかなとは思います。しらかわと比肩、あるいはしらかわ以上というべきかも。
ただ、満席になると、残響が目立って落ちてしまうのもまた事実。いつもよりも、残響が少なかったような気がしました。つまりどういうことか、今日の公演は満席。いやはや、お見事。

指揮:藤森徹
ピアノ:榊原理恵*
打楽器:丸尾喜久子**

ところで、パンフレットには、アンケート記入用によくペグシルが刺さっています。アレです、先が鉛筆になってるクリップ状の筆記具。ゴルフなどでおなじみですね。そんなペグシル、今日利用されたもののクリップ部をよく見ると、何故か「ウッドフレンズ/森林公園ゴルフ場」の文字……いや、これはレアですよ、むしろ笑

第1ステージ 東西南北のうた
Réne Clausen”All that Hath Life & Breath Prise Ye the Lord!”
Felix Mendelssohn”Auf den See”(Johann Wolfgang von Goethe)
Zoltán Kodály”Esti dal”
Alexi Matchaveriani(arr. Clayton Parr)”Doluri”(Ioseb Noneshvili)
Ryan Cayabyab”Aba Po, Santa Mariang Reyna”
Beatriz Corona”Barcarola”(Nicolás Guillén)

1曲目のクラウセンはアメリカの歌なのに1ステージ目。なんで3ステじゃないんですか? と演奏会前の宣伝で伺ったところ「オープニングらしく響く曲だから」ということ、さて果たして――なんて思っていたら、なるほど確かに、合唱祭の再演曲というのもあり、バッチリと決まってくれました。しっかりと鳴る中に自然に和声が組み込まれているアンサンブルが印象的でした。2曲目はドイツより今年のG2。したがってこれもコンクール以来。メンデルスゾーンは音符を書き込む作曲家。ともするとこの音符についていくためにゴミゴミとした表現になりかねないのですが、この団は軽い。そう、この軽さがいいんです。3曲目コダーイは、もう少し女声がしっかり歌えるとよかったでしょうか。ボリュームというよりは、声の芯の問題。ともするとこの曲だけの問題とも言い切れないものがありますが、特にこの曲では目立ってしまいました。全体としてのアンサンブルは十分。特に最後のベースは美しかった。4曲目はグルジア改ジョージアの曲。なんと出だし音を出したら、前代未聞の「やり直し」! 一体何事だと終演後に問い合わせたら「失敗したから」笑 そうです、確かに一回目に出した音は崩れていたのでした。否しかし指揮者みてないと出来ないし、やり直しってすごいな笑 そんな感じで、音はよかったけれども、少々勢い不足が露骨に出てしまったでしょうか。あっという間に終わる曲。もっと華々しくやってもよかったと思いました。5曲目はフィリピンより。弱音の部分をより豊かに表現したいところでしょうか。/a/母音で開いた時の音が落ちたのも、タイトルにある通り、よく出てくるだけに気になりました。ゆったりとした中に「急」のモチーフが挿入されるつくり。だからこそ、「緩」のつくりをより鮮明にみせたかったところでしょうか。最後にはキューバから。ちょうど、ユーラシア周りで地球一周した感じですね笑 早いパッセージで音が滑るのが非常に惜しい曲。1曲目もその傾向はあったものの、一方でこちらはキューバの言葉。仮に言葉の意味がわからなかったとしても、言葉が滑ると拍節感にかかわるだけに、もっとしっかり聴かせたかったところです。
しかし、全体として、1ステージ目から非常に多彩な響きを聞かせてくれました。国も豊かなら、ジャンルも豊か。いやぁ、最初っからなんかお腹いっぱいって感じですね、もう、いい意味で笑

第2ステージ* 日本のうた
上田真樹・混声合唱とピアノのための組曲『夢の意味』(林望)

さて、個人的に気合入れて聞きたかった曲。オーダーは、僕が勝手に「ESTスタイル」と呼んでいるオーダー。前列のピアノにかかる部分を空けて並ぶオーダーってことです。そりゃまぁ、こう言ってしまえばなんてことはないんですけれど笑 なんか1ステよりソプラノが増えた印象。実際はどうかわからないですけれども、なんにせよ、曲としても、ソプラノが増えるとメロディがつかみやすくなるこの曲としてはよかったといったところでしょうか。一方で、増えたソプラノの特に高音が最後まで当たりきらなかったのが少し残念でもありました。なにせ、高音命な曲ですからね――w
「朝あけに」は、ボリュームが大きかったでしょうか。特に最初、静かに寝てるんだか起きてるんだか、という、まさに夢のなかにいるような部分、そして、そういうモチーフへと回帰していく前に挿入される「ひっついて めをつぶって」。一方、音のハマりの良さはさすがと言ったところ、組曲中もっとも難しいこの曲をしっかりと当てていました。特に「ゆめのような うつつのような」のテナーは見事。よく女声に溶けていた。「川沿いの道にて」は、テナーソロのフレージングや、アルトソロの音量など、全体として内声を聴かせる曲の、まさに内声の表現が課題となっていたように思います。一方、最後のソロは、特に「さめてもゆめは」が非常によく響きを持っていて美しかったです。「歩いて」は、「なみだする」の寸前に挿入されたカンマの効かせ方(確か楽譜にもあったかな?)や、ソプラノソロなど、非常に表現の素晴らしいできでした。一方で、アタマの方はもう少し早いほうがピアノの裏拍が活きたかも。「夢の意味」は、アカペラからピアノソロへ行く部分に課題。ピアノの頭拍に少し合唱の響きを残すほうが美しいかも。2度が多用される曲ですが、その2度音程、上パートが目立ってしまい、よく2度の美しさが聞こえなかったのが残念かも。中間部も、もっとじっくり聞きたかった。「夢の名残」は、特に弱音の部分で高音が当たらないのが、何よりこの曲で問題となってしまう。特に主題部の後鳴りも気になったでしょうか。ベタッと大音量を、言葉のエナジーを大事にして響かせたい……というのは、主観ですかね? ただ、何よりよかったのは、「せめてはゆめよ さめるな、ゆめ」のソプラノがよくあたっていたことと(本当に!)、その先の「いましばし」以降の音量。回帰する、という意味では、この音量の中で1曲目も聞きたかった……。
なにかこう、十分聴けるのだけれども、「耽ることのできる何か」が足りなかったかな、というのが率直な印象。しかし、あくまで僕が(特にこの曲について)厳しいこと書きたがりなだけで、非常に完成度の高い、十分聴くことの出来るアンサンブルで楽しませてくれました。特に2曲目のリズム感とか、なによりソプラノソロとか笑 いくぶん、聴く分にはなんてことなさそうに聞こえますけど、この曲、聞かせようとおもったらどえりゃあ難しいんですよ……笑

インタミ15分。男性だったアナウンサーが突然女性へ交代。しかもなんと招待席に座っているスタッフの方がいて、ああ、ローテーションの都合かなと思ったら、なんとその方が件の男性アナウンサー。なんだこれは!w
あのホール、しかし、自販機とかないんですね、お腹すいたから当分でごまかそうと思ったら、見事に何もなかった笑

第3ステージ アメリカのうた
Ralph Manuel”Alleluia”
Eric Whitacre”This Marriage”(Jalal al-Din Rumi)
黒人霊歌(arr. 福永陽一郎)”Let us break bread together”
Stephen Foster(all. John Halloran)”Nelly Bly”
George Gershwin(arr. Roderick Williams)”Summer time”(DuBose Heyward)
Frank Churchill(arr. 大田桜子)”Someday my prince will come”(Larry Morey)
Elton John(arr. Fidel Calalang Jr.)”Circle of Life”(Tim Rice)

客席の脇に団員が整列して歌い始めた1曲目。この団のピッチの良さに耽ることが出来るこの演出、一方で中間部、団員がステージに戻ってくるあたりでアルトがやや喉で鳴らしがちなのが目立ってしまった印象も。全体としても、中間部をもっと聞かせたかった。2曲目は曰く「パートナーがいない僕みたいな奴にも届くように」(藤森)笑 壇上で全団員で輪を作って演奏。完全に一つのアンサンブルを鳴らすその出来には感服しきり。ただ、アメリカの歌ステージというのもありますし、「メリッジ」となりがちだった「marriage」の発音はもっと研究したかった。3曲目は男声合唱。キレイでよかったものの、なんとなく、関西系のグリーのような、突き抜けて、神々しく輝く音を聞きたかった。特に、「Yes!」など顕著。また、単語の最後の音節にもっと気を遣うと、より歯切れよく進んでよかったのではないかと思います。4曲目は一方、言葉がよかった印象。「Nelly」の発音がよく飛んできていました。快活な部分における男声が特に好み。最後の音量はこれまた見事。この音量、多分もっと使いドコロがいろいろあるような気がします笑 5曲目は何より、もっともっとねちっこく聞かせて欲しかった! 特に、ソリストがめちゃめちゃウマかったので、そのソロにおもいっきり乗っかって、遊んだ妖しい音を鳴らして欲しかったです。いやでも、これは良かった。もう一度リクエストを聞いてもらえるというなら、この曲をチョイスするかも。6曲目は今度は女声で。アルペジオの音がどこか生声っぽく、丸裸な感じで響いたのが気になるところ。全体的にもっと3拍子を感じられるとよかったかも。7曲目ではカホンとマラカスのような音を鳴らす楽器が登場。ベースからテナーのアルペジオを美しく受け渡したあとは、とても豊かに、リズミカルでたのしい音。しかし、カホンに対して合唱が少々負けていたかも? しかし、段々と熱狂的に、最後にはポーズも決まったところで「foo-!」の声とともに、観客も気持ちよく拍手! まさに有終の美。否終わってないけど笑

そんなわけでアイスブレイクよろしく笑、4ステの前に、丸尾先生――否、先生と呼ばれるのは嫌だそうで、「マルちゃん」ご登場笑 生まれも育ちも豊中人ということだそうで、なにか運命を感じます(?)笑
この曲、名古屋のアクセントをつける作業は団(藤森さん)とのやり取りの中で出来ていったそうで、当の藤森さん曰く「作詞:藤森」笑 そんな藤森さん、名古屋弁と尾張弁の違いを力説。「終助詞「なも」を用いる上方名古屋弁は、若世代を中心になかなか触れる機会が少なくなっているが、京ことばと並んで美しい言葉とされてきていた言葉。例えば、「おみゃあさん」「ひゃあざら(灰皿)」などの表現も、尾張と名古屋では違う。「イ」母音が強調されるのが尾張弁なのに対して名古屋弁は「エ」母音で」云々。丸尾先生は使われる楽器について解説。「今日はいろいろ使うが、再演の際は何でも構わないように書かれている」とのこと、再演を先生も待たれているようで笑「スリットドラムは、木の箱に切れ目が入っていて、それにより音程をつけることのできる打楽器。ダラブッカは、エジプト発祥。中近東でよく使われてきた。もとは魚の皮で作られていたとか。ベリーダンスなどでも用いるようだ。プクは韓国の打楽器で、韓国に行った際に釜山から担いで持って帰ってきた。日本のものももちろん利用する」。そんなわけで「着替えのための場繋ぎ」(藤森)も終わり、最終ステージへと向かうのでした笑

第4ステージ なごやのうた**
丸尾喜久子・混声合唱と打楽器のための『なあし なあし なごやうた』[組曲委嘱初演]

いやぁ、なによりいい曲でした! いや、太鼓持ちってわけじゃなくてですね、そんなこといったら、以前聞いた「U-Wa-U-Wa」よりいい曲だった! ……だから、「U-Wa-U-Wa」が嫌いだとか、そういうわけじゃなくてですね(以下無限ループ)
3曲目、終曲など、わかりやすい形で出てくる名古屋要素もある一方で、この曲における名古屋らしさの主軸は「なあもなあも」「なあしなあし」といった言葉たち。それらがリズムパートの根幹をなすことによって、いってみれば一種、名古屋弁が再構成されているかのよう。なるほど、こういう表現もあるものだなぁと感心させられました。そして表現といえば、音楽的にも、様々な打楽器と、表現全体でみても、リズム、和声、ボディパーカッション、掛け合いと様々に、めくるめく絵巻のように聴衆を愉快な気分にさせてくれる曲。ヤ、見事。宴会芸から演奏会まで色んな所に使えそうです。
1曲目「でらでかいがや」は「なあもなあも」のリズムを軸に、勢い良く進んでいく音楽。2曲目「おみゃあさん」は、和声進行を軸に進んでいく曲。少々声が浅いと前半のうちから思っていましたが、その声の浅さが楽器により打ち消されたというのは障害か。しかし、非常にキレイに、そしてなにより重厚にハモっていたのが印象的でした。夕焼けこやけのように、安心感を与えるカデンツも心に残ります。3曲目「つぼさん つぼさん」は、丸尾音楽のひとつの特徴といっていいでしょう、サウンドスケープ。風の音、雨の音(ウシ?)カエルの音のモティーフがそれぞれ提示され、それらの音が複合的に提示される中に「なあしなあし」と聴こえるわらべうた。照明暗転の中、幻想的な風景が広がりました。終曲は、「最終章名古屋甚句」。名古屋甚句を、バッチリ聴かせながら、終曲らしくバッチリ決めてくれました。全体として、コンクールで部分初演していただけあって、非常に完成度の高い初演であったように思います。表現が単一的だったように聞こえたのは、仮に楽譜指示だったとしても少々考えものかも。否なんにせよ、再演に期待したくなる、名古屋人必聴の新曲が誕生しました。

・アンコール
佐藤賢太郎(Ken-P)「つながり」

まぁよくある話なのですが、アンコールが一番出来がよかったような笑 言葉がとても本当によく効いていましたし、ハモリも美しかった。なにより、何か、心にぐっとくる響きで、演奏会の終わりにじっくりと今日の演奏会を振り返ることが出来ました。

・まとめ
特に近年めだって実力を上げてきている合唱団。コンクールでも今年、3団体中2位ということもあり、注目の集まった演奏会でした。もちろん、そんなわけで、パンフレットでも強調されるように、全体として、縦の響きがとても素晴らしい演奏だったように思います。特に縦を響かせる曲では、その実力が非常によく発揮されてました。ただ一方で、『夢の意味』の稿で言及したように、いまいち、何か「耽る」ものが足りないという印象。もちろん抽象的といえばそうなのですが、曲全体として、おお、と食い入るように聞きたくなる何かが、この演奏では足りなかったようにも正直に感じました。要素要素でいえば、やれハーモニーだの歌詞だの、いろんなことが言及できるとは思うのですが、でもなんだろう、何が足りない、というと、なんとも一つに絞り切れない。もしかしたら、解釈全体をどう音楽に落としこむか、なんでしょうか。要素要素の表現、あるいはフレーズなどが、なぜこの曲のこの部分で出てくるのか、その点の研究をより精緻になされると良いのではないかと思いました。
でもしかし、なんでこんな辛辣に色々書いているみたいになっているのだろう……?笑 とてもいい演奏で楽しく聴くことができました。特に何がいいって、プログラム構築。多岐にわたる様々なプログラムを、うまくひとつにまとめ上げて、一つの演奏会を構築していたように思います。こういう風に色々な曲に満遍なく挑戦できるからこそ、この団には強さがある、そう思わされるような演奏。一方で、まだまだ詰めるところがあるからこそ、逆に、これからの成長を期待したくなる、なんていうとおこがましいですが、これからを十分に期待させる、良い演奏会でした。

2015年9月4日金曜日

【東京混声合唱団いずみホール定期演奏会No.20】

[大谷研二 東混指揮者就任25周年記念]
2015年9月4日(金)於 いずみホール

行ってきましたよ!
そしてこの記事へ帰ってきていただきましてありがとうございます!笑

さて、〈前日譚〉が想像以上の盛り上がりに支えていただけました東混いずみ定期、行ってきましたのでこちらのブログにレビューをアップです。え、前日譚はどこへ行ったって? ……やだなぁ、この記事ですよ、この記事笑

・演奏会のききどころ
 毎年、その年の東京定期や学校公演で演奏された曲から再構成する東混いずみ定期。今年は「三善晃 関西ゆかりの合唱作品」「いずみホール定期演奏会20回記念~この20年、愛された日本の合唱曲選~」と題した2本立てで開かれます。
 一つ目は、逝去直後より、東混初演曲を中心に集中的に取り上げている三善晃作品から。今回は、関西ゆかりの作品ということで、大阪朝日放送が委嘱し、日下部吉彦氏がプロデュース、東混が初演した『嫁ぐ娘に』と、もとの男声合唱版が関西大学グリークラブにより初演された『クレーの絵本第2集』が演奏されます。『嫁ぐ娘に』は、直近の豊中混声合唱団をはじめとして多くの合唱団で再演されてきている定番プログラム。なかでも東混団員からの支持は初演当初から圧倒的で、初演リハーサルでは女声が泣いて歌えなくなるだとか、今でも思わず涙が出てくるだとか、そんな伝説を色々持っている佳曲。そして『クレーの絵本第2集』は、特に混声版が音源も希少で、2014年12月に東混が再演するまで滅多に聴かれることのなかった貴重な曲。以前その模様がラジオで放送された時にもよく分かることでしたが、難易度もさながら、特に終曲「死と炎」の最後の描写が男声版と異なるなど、混声版ならではの効果的な音響を見せる名曲中の名曲。再演が(そしてなんなら録音販売が)待たれていた最たる曲の一つでもあります。
 そしてもう一つが、大田アプリコ特別演奏会で開かれた演奏会を皮切りに継続的に組まれている、合唱の名曲をたどるシリーズプログラム。8月には、その様子が収録されたCDがリリースされています。普段、近現代の大曲を取り扱うことの多い東混が、「方舟」や「聞こえる」、「信じる」、「くちびるに歌を」といった広く親しまれている名曲を、日本をリードする声楽的素養とフレーズ構築で再現するとあって、かねてから注目していた演奏会のひとつです。都合ありで聴けてなかった当方、新鮮な気持ちで、そして、日本随一の響きを持ついずみホールでこのプログラムが聴けるということで、楽しみにしていました。明日はインタビューによると、大谷先生のプライベートも交えたトークも聴けるとのこと、それもとても楽しみです。CD? その、ほら、ちょうど、会場で買おうかな、なんて←
 また、今回は、東混団員を経て合唱指揮者となった大谷研二先生が東混指揮者就任25年となる節目の年。12月の238回東京定期は、大谷先生の名前を冠にした演奏会が用意されています。20回の節目にして過去10回指揮をしてきたいずみ定期でもその流れを汲んで指揮を振ることになりました。加えて、ここ数年、山田和樹、松井慶太両先生をはじめとして若手指揮者陣が担うことの多かったいずみ定期、いまや東混を担う大御所の一角が満を持しての登場です。

・ホールについて

 いずみホール。いい加減、このホールについて書くこともなくなってきているような気がするのですが……笑 開場が18時半だったのが18時に早まりました。なんでも、ご来場いただける多くのお客様に、ホールの雰囲気をもっと楽しんでいただきたいため、とか何とか。確かに、このホールの雰囲気はいいですしね、30分じゃもったいない。しかも、今日の客入りは8〜9割と上々でした。
 大谷先生といえば、椅子。以前バイク事故で脚を悪くされ、歩かれる際は杖が手放せない身に。そんな中でも力強く指揮を続けられる大谷先生にとって、ちょうどコントラバス奏者が使うサイズの椅子は欠かせない存在。長時間の組曲を振る上では、どうしても座っていないと耐えられないということなのでしょう。でも逆に、「座っているのが耐えられない」ことがあるのが、大谷先生のアツいところ。毎回、演奏会、それも曲のピークに達したところで、すっくと立ち上がり、情熱をぶつけます。大谷先生が立った日には、演奏会も成功したというもの。さぁ、今日は果たして?笑
 他には、何か、ウィング側の雛壇の化粧板が新しくなったかな? なんていう細々とした変更点を見つけつつ、今回も贅沢に響きつつ確りと届くいずみホールの音響を楽しんでおりました。しかし、毎度毎度、申し訳なくなるほどのいい席で聴かせて頂いて……感覚が麻痺しそうだ苦笑
 あ、そうそう。いずみホールといえば、「電源をお切りください」という会場アナウンスに合わせて、客席通路をピクトグラムの看板を持った客席案内係の方が行脚されるというのがおなじみになっています(なんか以前より看板がしっかりしていたような気がします笑)。訊くところによると、今年の静岡県コンクールで、ケータイ騒動があったそう。それも、曲の弱音だかゲネラルパウゼだかの部分でけたたましくなってしまったとか。その際、Twitter を中心に「ケータイ切ってねアピールではどれが最も効果的か」ということが議論になって、その際に最も効果的とされたのが、この看板。全日本合唱コンクールでは、千葉県が主幹した時にやって効果てきめんだったとか。ところで、この看板行脚、いったいどこが発祥なのでしょうか……? 隣にいた某も、その看板を見て「そろそろ切らなきゃ」。なんにせよ、効果はてきめんのようです笑

指揮:大谷研二
ピアノ:斎木ユリ*

ちなみに、CD はちゃんとホールで買いましたよ。時間ギリギリながらサイン会にも参加。いやぁ、ミーハーの力って怖いですね……苦笑
しかしまぁ、相変わらず知り合いが多かった笑

◯三善晃 関西ゆかりの合唱作品
第1ステージ
三善晃(1962)混声合唱曲『嫁ぐ娘に』(高田敏子)

 嘗て東混が初演した曲。上述の通り、ある意味において「演奏者泣かせ」の一曲です。もっとも、難易度的な意味では、少なくともこの団にとってはたいして泣かされもしないとは言えますが……笑
 この曲、ゆったりとした部分とリズム的な交歓の部分の交叉が印象的な曲。明暗交じる様々な感情を、旋律以下の様々な和声とリズムパターンで描きます。今日の音楽作りは、総じて、しっかりと日本語の鳴る叙情性の高い作り。1曲目「嫁ぐ日は近づき」のハミングが静かに、しかし一音目から溢れ出るようにしっかりと和声を奏でる中に、そして、リズムの中に喜びを見出す場面になってなお、叙情的な言葉がしっかりと乗り、部分部分で横の流れを分解させてしまうことのなく、かつ、明確な旋律を以て、この曲の「横の流れ」を明白なものにします。そう、まさにこの曲は、「歌もの」なんです。
 言葉の作り方に加えてとても明快だったのが、曲の「頂点」について。強勢、ならびに和声について、この曲の聞き所はここですよ、と演奏が教えてくれるという構造が明白でした。例えば3曲目「戦いの日日」。最初、軽すぎるかな、と思わせる女声部が、段々と核心に近づくにつれておどろおどろしさを増していく、その、曲全体に意識が向いた立体的な曲の作りが段々と見えてくる。そして気付けば、それが全体の「やめて!」という表現を強烈に印象づけているのです。どんな部分にもその伏線たるを思わせる、そんな作り方が出来るのも、それが業に満ちていてこそのように思います。この点、もっとも素晴らしかったのは5曲目「かどで」の「やさしいひとみ」への持っていきかた。ついつい「さようなら」で盛り上げていきたいところを、まだまだ余力を残しつつ、最後の「やさしいひとみ」で十分に鳴らすことで、この曲全体の大きなメッセージが浮き立ち、そして、消え入るように終わっていく、その美しさよ――。
 加えて、先程の3曲目でいえば、男声のソロの部分に明確なように、当然のことながら、誰もがソロを取れるからこそ出来る、歌いまわしの作り! 「おれの手は」と一人ひとりが語りかける、まさにそこ自体にストーリー性を感じずにはいられません。

第2ステージ
三善晃(1980)混声合唱組曲『クレーの絵本 第2集』(谷川俊太郎)

 特に混声版は目立って再演も音源も少ない貴重な演奏です。ってかほぼないんじゃないですかね、ですから、やはりここは、早急に音源のリリースをですね笑 先程、全音旧表紙を携えたメンバーは、今度はカワイ ODP 譜に持ち替え。その意味では、アマでも演奏可能なんですけどね、その、物質的な意味で笑
 一転、牧歌的、童謡的な音楽。――5曲目までは笑「第1集」の平和的かつ諧謔と祈りに満ちた音楽を引き継ぎつつ、しかし、音楽的により洗練された形で、言葉によって観察されたクレーの絵画から、新たな「絵画」を音で現出しています。しかし、音楽的に洗練されているということは、技術的により難しいということ。――「ケトルドラム奏者」のケトルドラムのオノマトペとか「死と炎」のアルペジオとか、こんな曲、絶対にアマチュアだったら曲中のピッチの下降が問題となるのに! ズルい!笑 そりゃ納得ですよ、カーテンコールで真っ先に、功労者・ベースを賞賛するのは!笑
 割とこの曲に特徴的な部分だと思うのですが、リズムの揺らぎによる表現の深化がとても顕著です。『嫁ぐ娘に』にもあるようなリズムパートも健在ながら、一方で、このテンポ変化も襲ってきて、ヘタしたらこのリズムに振り回されたまま一曲が終わってしまいそうな感じ。しかしながら、今日の演奏は、特にこのテンポ変化へ向けた表現が見事。技術的に「あ、変化した!」と思わされることはむしろ稀で、表現として、自然に、変わってほしいように変わっている。だから、非常に心地よく、そのテンポの変化が身に沁みるのですね。さらに、和声。言葉と和声のリンクというのをひしひしと伝えるその作りは、和声による言葉の解説という観点で見てもとても明白でした。例えば、「いのちはいのちをいけにえとして」と「しあわせはふしあわせをやしないとして」の対比は、まさにそのところといえるでしょうか。
 4曲目のブルースチックな諧謔に溢れた「まじめな顔つき」。「まじめ」の3連符(ですよね?)もこれまた面白く響きます。この曲が本当によかった。しっかりと響かせながら、ピッチが合いつつ音が揺れる……わけわかんない? あるんですよ、そういうことが笑 そして、その詩の意味を引き継ぐようにして、「死と炎」。一番最初に出てくる「せめて」が少し音圧に欠けたでしょうか。それ以外は、リズムの刺さり方、明から暗へと、そして自分自身の実在へと向かっていくテーマが非常に明瞭に示されていました。この曲において、何を表現すべきか、なるほど、最後なのですよね、この曲は――よろしければ、詩集絵本で、是非笑

 インタミ20分。このゆとりがプロなのだ。違うか(何
 いやぁ、しかし、お酒飲んどけばよかったかな……いやそんなことしたら、今日こうやって電車でレビュー書いていられなかったのかも笑 しかし、このホワイエは本当に素晴らしいですよね。
 あ、ちなみに、昨日の『カンブリア宮殿』(テレビ東京系列)ではヤマハが特集されましたが、今日のピアノはスタインウェイ。しかし、このスタインウェイが、このステージで大活躍するんです……あれ?← ちなみに、ヤマハは好きですよ、ノスタルジーだけで言い切ってしまうなら、今日のステージはヤマハで演奏されるべきですしね笑

第3ステージ*
◯いずみホール定期演奏会20回記念~この20年、愛された日本の合唱曲選~
萩原英彦(1971)「ふるさと」(矢澤宰)
広瀬量平(1975)「海はなかった」(岩間芳樹)
平吉毅州(1978)「ひとつの朝」(片岡輝)
木下牧子(1980)「方舟」(大岡信)
高嶋みどり(1984)「かみさまへのてがみ」(谷川俊太郎)
荻久保和明(1990)「IN TERRA PAX―地に平和を―」(鶴見正夫)
新実徳英(1991)「聞こえる」(岩間芳樹)
鈴木輝昭(1994)「きみ」(谷川俊太郎)
松下耕(2004)「信じる」(谷川俊太郎)
信長貴富(2006)「くちびるに歌を」(ツェーザー・フライシュレン、信長貴富・訳詩)

 見よ! この圧巻のプログラムを! これほどまでにないという程に、後半に10曲見事に詰め込んで、この20年、否、高度成長爾来歩みを続けてきた合唱史を見事に纏めあげたこの珠玉の曲達よ! 上述の蒲田の演奏会からの抜粋ながら、非常に肝心なところをうまく抜粋してきたなぁといった感じ。プログラムの解説には戸ノ下達也先生。ううむ、大物の解説があるからには、当方が解説するには及ばずか、なんて←
 そりゃもう、個人的な思い出はいっぱいあるんですけれども(中学1年の時3年の先輩がやっていたインテラに憧れてた話とか、くちびる演奏した時の話とか……笑)、ここではそういう話は極力排して(もう言ってしまってるやん!w)。曰く、最初は、大谷先生にとっても想い出深い曲。病床にあって夭逝した作詩家のお母様と親しくなった話から、「病床下にあって一時帰宅した際に書いた」という「ふるさと」は、明快かつ澄み切ったふるさとの情景に対する叙情、そしてそれにゆったりと寄り添う旋律が、流れてゆく音楽をしっかりと、明るい音色で彩りました。次の2曲は、いずれも大谷先生の高校時代にNコンの課題曲だった曲(曰く、年がバレる、と笑)。「海はなかった」では、厳しい曲調の中に、そっと寄り添う下部旋律。そして柔軟性の高い表現だからこそ出来る厚みのあるフレージングが語りかける中に、三和音をしっかりと鳴らし、第三音の解決も流れの中に豊かに響きました。「ひとつの朝」は、少し最初の男声は怖かったのかも、とは思いました。しかし、和声に伴うアンサンブルの展開力が、この曲に新たな輪郭を与えました。「ひとつの」の響きには、一方で、もっと力が欲しかったか。
 団員はここで一回楽譜替えのためにステージを立ち、大谷先生がお喋り。「松下耕「信じる」の初演の際に斎木先生(ユリちゃん)と初共演。いまではまるで親戚みたいな仲」。次の女性作曲家2人に対して、「80年代にとても目立っていた。木下さんは正統派、「鷗」も『ティオの夜の旅』も大好き。対して高嶋さんは豊富なアイディアの持ち主。当時珍しかった無伴奏での女声合唱曲(『待ち人ごっこ』)も印象的だった」。そんな大谷×東混の「方舟」にはビックリ。そうか、こんなにハマる曲なのかこれは!笑 ソプラノが少し軽いかと思わせる一方で、しかしそれがピッチとしては全く正しく、和声構造をして、この曲の壮大さを語りかけます。そして、第三連以降のピアノを含め、音楽がディティルにわたってヌルヌル動く、そのダイナミクス(所謂ディナーミクに非ず)に驚いてしまいます。「かみさまへのてがみ」は、このステージで最もユーモラスな曲。最初のチャイムのモチーフだけでもワクワクさせられて、リズムの絡みがとても心地よく、肩肘張らずに、チャーミングに軽く歌いながら、しかし最後の和音にしっかり含みをもたせるあたり、さすが東混といったところ。
「指揮者は――イイですよ、ずっとここで聴ける」という大谷先生の自慢話も場を沸かせつつ、「次の3曲に共通するのは、戦争や世の中に対する不安などを訴える曲」。「IN TERRA PAX―地に平和を―」は、至極あっさりとしたファンファーレが含みを持たせつつ、さわやかな情景が音として駆け抜け、そして、地球の躍動の気付きに対する早いパッセージを境にしっかりとリズムを刻みます。「鳥も木も草も」の、思わず身震いさせるくらいの豊かなクレシェンドから始まる「IN TERRA PAX」のファンファーレは、曲の後半に行くにつれ、じっくりと、豊かな音量で聴かせてくれるものでした。イヤいいわこの曲、この演奏! 納得のフライング拍手です笑「聞こえる」では、特にこの曲で顕著だったのですが、いちいち歌い上げない表現が本当に全体に亘って見事。逆に、歌いあげるべきところをしっかりと歌い上げている。だからこそ、弱音部がちゃんと映えるんですよね。「なにかできるか教えてください」、そして溶けてゆく和声の日常。「きみ」は鈴木輝昭作品。意外とお目にかかれない組み合わせのようにも思いますが、ナニ、師匠の曲はメインレパートリーなだけあって、そうだ、この団は輝昭作品も軽々と歌いこなしてしまうのだ笑 早くなったところもむしろより早く、一瞬の淀みもなく駆け抜けていくというのは、なかなか出来たものではありません。「しんだきみといつまでもいきようとおもった」の部分の響かせ方、そして、最後の畳み掛け方、なにより、斎木先生が弾く圧巻の輝昭サウンド!
 ここで、突然振られた斎木先生、大谷先生の第一印象を訊かれ、「ずっと私が Nコンを弾いていて、その中で新しい指揮者さんとして大谷さんがやってきて……異色だな、と思って……異色だな、と(笑)意外にも(?)よく怒られるけれど、素晴らしい人です」。そんな初演のコンビによる「信じる」。最初のピアノは、これは斎木先生でないと鳴らせない音! とても静かに、あっさりと、しかし、時折淀むようにして、じんわりと聴かせるピアノの前奏の後は、合唱が静かに入ります。主題まで本当に、響きで歌うように静かに歌っていきました。何かと歌い出しからボリュームが爆発してしまいがち、そうでなくても「大口あけて」で合唱団が大口を開けてしまいがちな曲(笑)ながら、この演奏では徹頭徹尾、その静かさが守られていました。そして、主題でようやく恢復のようにしてじっくりと音量をあげて、しかし最後には確実に静かな音量へと戻っていく。静かに始まり、静かに終わる、その中に溶け込んでいる内なる情熱に思いを馳せられる――これまで聞いた「信じる」の中で一番良かったかもしれない。
 最後の曲を前にして大谷先生曰く「アンコールは――否、次の曲歌った後にアンコールは、これでもう十分だな、と(笑)。サイン会を請われていますので、そちらで皆様をお見送りしたいと思います。遠方から来てくださっている方もたくさんいらっしゃるようですしね、金沢とか、名古屋とか」――ご配慮恐縮です!笑 そんな最後を飾る曲は「くちびるに歌を」。そりゃもう、この団にこの曲歌われたらタマラナイんですけど、歌った身として物凄く感動したのは、「Gedränge dich bang!」の言葉の処理! めっちゃ細かい話なんですけど、実はこの部分、無意識に歌うと「Ge / drän / gedich / bang!」になりがちなんです。音節がずれてしまう。今日の東混は、この内、本来の強勢にあたる「Ge[drän]ge」(囲った部分)の子音をかなりインテンポより前から鳴らしていたんです。こうすることで、本来の「Gedränge dich bang!」の単語・音節の通りに言葉が聴こえるようになる――少なくともそう諒解した当方、唸らされました。見事。感動が約束された曲というのは、普通感動しないところをしっかりと表現することで感動が生み出されるのですね。神は細部に宿る。先生は最後の最後、「Hab' ein Lied auf den Lippen」の応酬のくだりで立ち上がる。最後にして業の光る、納得の出来でした。

「予告通り」アンコールはなく、厚かましくも最初の方にサインを頂戴して、慌ただしく大阪を辞しました。――否、間に合ってよかった苦笑

・まとめ
 今日全体をして、「この曲って、こういうことだったんだ!」という発見に満ちた演奏会でした。最後のドイツ語問題こそ象徴的ですが、最初の『嫁ぐ娘に』を含めて、他団での再演も多い曲、ともすると、様々な演奏を聴いてきて、果たしてこの曲の本当の解釈は、というのがぼやけてきてしまうような錯覚に囚われます。その中にあって、今回の演奏会では、この曲はこう聞くといいんだよ、というのを演奏が自然に教えてくれるようでした。まさに、この曲の泣き所を掴む演奏。それが全く恣意的でなくて、全体の流れの中で自然に解釈の中に対置されている――そう、だからこそ、この団はプロたりえるんです。アマチュアの合唱団が最もマネの出来ない、マクロ的な曲の解釈という点について、この団を差し置いて他にないという程の圧倒的な実力を、此度もまた魅せつけられました。
 そして、この団最大の特徴の一つである、作品発掘。新作や佳作再演を通じて様々な曲を、その時々において余に提示し続けるこの団にあって、今回の『クレーの絵本第2集』もまた、そんな問いかけの一つ。三善追悼とあってもなお、再演されない曲というのも多い中にあって、この名曲を引っ張り出してきた大谷先生と東混には、本当に感謝したいところ。ヘタしたらこのまま埋もれてすらしまいかねなかった曲。再演の意味は非常に大きいトコロがあります。
 今後直近、神奈川豊田での公演を控える東混。しばらく、また「うた」を届ける日々の後は、12月には東京定期で三宅悠太と鷹羽弘章両氏による新作2本と三善晃『波』『日本の四季』というリッチなプログラムを控える東混。今後の展開も楽しみです。その、直近だと、『まどマギ』演奏会への出演とか←

……ここまで書くだけで桑名まで来てしまった……長い戦いだった……笑

2015年8月5日水曜日

【第82回(平成27年度)NHK全国学校音楽コンクール・愛知県コンクール・全県予選】

2015年8月5日(木)於 瀬戸市文化センター大ホール

今度はちゃんと合唱の記事だよ!!!
いや、アレも頑張ったんだけど、今度はちゃんと合唱の記事書いていくよ!笑
というわけで、Nコンが愛知で始まると聞きつけて、のこのこ行ってきました。初めての名鉄瀬戸線全線乗り通し。普段は守山生涯学習センターに行くために守山自衛隊前駅を使用する程度でして……ちなみに、途中、水野駅には「駅からダッシュで14秒」の歯医者さんがあるようです……と、車内アナウンス広告で聞きました笑 御用ある方は是非笑
実は初のNコン。大学合唱からこの世界に入った自分としては、何かと新鮮な世界でもありました。

・Nコンについて
っていうことについては、公式サイトさんとかNコンブログさんとか今日出会ったNコンマニアさんとか、詳しいところが色々あるんですが、そこから色々ちょっぱってかいつまんで笑
中学や高校での学生合唱では、主に2つのコンクールに出る機会があります。ひとつが、朝日新聞社と全日本合唱連盟が主催する「全日本合唱コンクール」、そしてもうひとつが、このNHK全国学校音楽コンクール、通称・Nコン。小中高の合唱コンクールの中で広く支持されているNコンは、全日本と並んで、日本の合唱界における2大コンクールのひとつです。一方で、Nコンヲタというわけでもない、合唱好きにとってのNコンの魅力といえば、テレビで放映されるという点。県コンクール以上はテレビ放映され、なかでも全国大会は、体育の日を含む三連休の週に、各大会の生中継が、多くの人に親しまれています。
しかし、県大会「以上」と書いたのは、それ「未満」があるから。実は、参加校の多い県では、県大会前に予選が行われます。特に小学校、中学校は参加校が膨らみやすく、各地で参加校数を調整するために地区予選が開かれることが多いのですが、一部の県では、高校ブロックでも県大会を予選と本選に分けて、参加校数を絞ることがあります。その「一部の県」に含まれるうちの一角が、愛知県コンクール。予選で18校16団参加しているところを、5団に絞り、本選である県大会への最初の関門となっています。華々しい全国の舞台の裏にある、一番最初の、全国大会との契機――そんな、ひとりひとりの晴れ舞台の様子を、少し覗いてきました。とはいえ、予選をやる理由は実は人数だけでもないような向きがありますが笑

・課題曲
この曲についてはまぁ、以前のブログ記事を非常に多くの方にお読みいただいているので、その点、いまさら何をか語らんといったところなのですが、解釈という点は差し置いて。今日ずっと聞いてて思ったんですけど、この曲、課題曲としてとても出来のいい曲だなぁと思いました。最初は小さな音の各パートの追いかけからはじまって、ポルタメントを含む和声構築、「ホットケーキにメイプルシロップ」のユニゾンとそこからの和声展開、「透明な銃を光らせろ」から「周りではばたばた人が倒れてる」、その後レガートへ向けたアーティキュレーションの構築力、そして、「恋人は眠っている」とオブリガードとともに感動的に歌い上げる力と、その後同じテキストをアカペラでひっそりと歌い上げる力、テンポを揺らしながら「暗黒の宇宙の彼方で星が燃えている」と歌う部分。そして最後には小さく「子猫の名前を思いついたよ」。ホント、「IROHA-UTA(以呂波うた)」と同じくらい。いやそれ以上といってもいいかも。それぞれの要素をしっかりと試しながら、それが有機的に繋がって、確かに一つの曲としての形をなしている。コンクールのためにありながら、コンクールを超えた範囲で、演奏曲としても十分聞かせてくれ、そして、圧倒的なインパクトと感動を以て私たちの心に残る曲。近年名曲が続くNコン課題曲の中でも、一二を争うレベルの名曲です。

・審査員
浅田邦穂・音楽教育推進審議会顧問
江端智哉・名古屋芸術大学非常勤講師
国藤真理子・愛知文教女子短期大学准教授
谷村真一・岐阜県合唱連盟会長
中川洋子・愛知教育大学名誉教授
講評を担当したのは谷村真一先生でした。講評を要約。
「Nコンと全日本、両方のコンクールの練習で忙しい中、一生懸命やってきたことに敬意を表する。金賞団体は順位をつけるのに本当に苦労した。課題曲、発表された時に感動しながら見たのを覚えている。なかでも「メイプルシロップ」は、とても勉強になった曲だった。ここにおられない人もこの曲を知られると、より人生が豊かになるのでは。「透明な銃」という言葉と世の中の激動――。表現では、高校生らしい、中身のあるフレーズ作りを。一人ひとりの解釈が演奏にどうあるか、そこを私はみた。音楽をしていて、主体的に作品に向き合っている――その点で見ると、皆本当に素晴らしい。他、審査員から「楽譜の読み取りをより深く」「参考音源のコピーのようにならない」「勉強と部活の両立が素晴らしい」「表現、特に、弱音について、ロングトーンなどでどういう音色、エネルギーで歌うか」という点言及があったことを付言」

・ホールについて
瀬戸市文化センター大ホール。はじめてきました。Nコンではなにかとお馴染みのホールのようです。ちなみに本選は稲沢です。「意外と」1,500人くらい入るキャパの広さが特徴的です。1階と2階の広さが大体同じくらいなんですね。だから、ホールの奥行きはそこまで広くありません。一説に、天井が高いホール、と。言われてみればそうかも。
内装レンガ張りで埋められたシックな雰囲気。しかしホールの中は明るく、フカフカした席、そしてとても素晴らしい冷房笑 市民が芸術や講演を楽しむという意味では申し分ない印象。雛壇はなんとキャリー運搬式の三段。なにあれ便利そう。ちなみにベルは、「ごーん……ごーん……」という、どこかにでも教会があるのかといわんばかりの、非常に荘厳な音響笑
ただまぁ、このホール、ステージにたまる響き方をします。キレイに響いて雑味はないものの、飛び目の合唱団でないとホールをうまく鳴らせないのがなんとも演者泣かせなところです。聞かせるのは難しい一方で、ホールのどこで聞いても鳴りが一緒なのは面白いホール。この感じ、ちょっと良く鳴るアゼリアホールって感じでしょうか。しかし、以前もどこかでいったのですが、何、鳴らせればなんということはない笑
あとなにより、あまり夏に行きたくないホールかも。いやね、道中暑い……コンビニもない……行き掛け上り坂……み、水……(大袈裟

まだ県予選の段階では、コンクールのタイトルが書かれたバナー看板もなく、コンクールという感じがどうもしないような、静かな中で戦いが始まります。しかし、アナウンサーは抜群にうまいあたり、Nコンですね……笑
金賞5つ、銀賞2つ、銅賞3つ。金賞団体が、県本選へと進みます。ステージに上ってから4小節だけ練習が可能とのこと。入れ替えは15人まで、ちなみに、緊急地震速報が出たらステージ上で「その場でしゃがむ」とのことですので、皆様是非覚えておきましょう!(?)

・午前の部
1. 愛知産業大学三河高等学校/愛知県立豊田高等学校(混声)
自由曲:木下牧子・混声合唱組曲『ティオの夜の旅』から「祝福」(池澤夏樹)
指揮:原勝祐(教職員)
ピアノ:長坂由紀(学外)
今年のびわこ総文でも合同での歌声を響かせてきたという合唱団が朝イチのトップバッター。課題曲は、着実に音が当てられていて、かつ強弱に対する意識も感じられます。アルトは特に好感。しかし、一発目でそう思わせても、まだ淡白と思わされる点がこの曲の難しいところ。テンポの遅いところをより繊細に表現できるとよかったか。また、フレーズの終端が雑になってしまったのも惜しいところ。自由曲は、エ母音が全体的に響きが落ち込んでしまいました。加え、旋律部でアンサンブルの縦のラインが崩れたトコロがあり、そこも惜しいところ。最後の和音はしかし、素晴らしい。キレイな音を鳴らすポテンシャルがある団です。ルネサンス音楽とか聞いてみたいかも。

2. 愛知教育大学附属高等学校(混声)【銅賞】
自由曲:arr. 信長貴富・無伴奏混声合唱による『コルシカ島の2つの歌』から「O Barbara furtuna(ああ、なんと酷な運命か)」
指揮:伊奈福久代(教職員)
ピアノ:横尾萌(学生)
子音がよく出ていたのが好感が持てます。一方で、特に無声子音の後で、母音が乗り切らないまま次の音に行ってしまう、という現象が頻発してしまいました。しかし一方で、表現については非常に面白い。前半部の表現を引き継いだまま、地続きかつ上品に「ホットケーキにメイプルシロップ」と表現する繋ぎ、個人的にはとてもよかったように思います。「でも銃声が……」という部分の「でも」もgood。しかし、上にある分、2回目の「ホットケーキに……」はもっとガッツリ歌ってもよかったかもしれません。自由曲は、最初のクレッシェンドでもっとじんわりと音量が上がっていくように出来るとよかったか。しかし、多彩な音色を持っているという印象を演奏からは抱きます。それなら、その多彩な音色をより活かせるようにそれぞれの要素の表現を磨けるとよかったか。あと、鳴った時、この団は強い。そのときの感覚を忘れないようにしたいものです。

3. 名古屋市立桜台高等学校(混声)
自由曲:信長貴富・寺山修司の詩による6つのうた『思い出すために』から「てがみ」「思い出すために」(寺山修司)
指揮:中川実徳(教職員)
ピアノ:村田麻衣(学外)
男声が少し上に当たらず、逆に女声は少し幼い発声となっていたでしょうか。女声は、オブリガード部で音程が落ちてしまった点があって残念なところも。また、ディナーミクという意味では良かったものの、細かい表現についてはもっとできたのではないかというような印象があります。もっとじっくり一音一音確認するという作業をしても良かったかもしれません。しかし、「でも銃声が……」のところにはコダワリを感じました。意欲は十分! 自由曲は、フレーズの扱い方に好感。特に「思い出すために」は、男声の旋律から、シンコペーション進行のリズミカルな表現もよく歌い上げられていて、かっこよく、丁寧かつ意欲にあふれた演奏でした。特に主題部の歌い上げの高揚感は見事でした。コンクールという意味では、要素要素指摘する点が多い演奏でこそあったものの、かなり好きな部類の演奏です。今後共その情熱で歌いあげて欲しいところ!
そして、何より言わなければならないこと。男声、よくぞ3人でここまでキチンと鳴らしたものだ! テナー2名、ベース1名の快演でした。

4. 岡崎学園高等学校(混声)
自由曲:信長貴富・混声合唱曲集『かなしみはあたらしい』から「未来へ」(谷川俊太郎)
指揮:山本千穂(教職員)
ピアノ:板倉晴香(学生)
のびのびと歌えているのがなにより良かったです。一方で、細かい点で指摘すべきところも。例えばヴォカリーズ、アルトの/a/が生声に開きすぎた一方で「ル」はよかった。後者に音を近づけるイメージが欲しい。また、今度は「でも銃声が……」はもっと切り込まなければならなかったか。とはいえ、最終的な目標は、上も含めて、のびのび歌った中へ表現の各要素をどのように位置づけていくかという問題ではないかと思います。音楽を大局的な流れの中で解釈したいところです。自由曲は、その点、十分歌いあげられる曲で、選曲がとても良いチョイスだったように思います。言葉が特に主題部でまっすぐ届けられているというのが印象的です。「未来だから」という表現は、だからこそ、もっと大切に歌いたかったか。ポイントだと考えるのは、低い音のところでどう歌い込むか、というところ。最後の伸ばした音に、この団の未来を感じたい。

5. 愛知県立西春高等学校(混声)【銀賞】
自由曲:面川倫一・無伴奏混声合唱のための組曲『ささやかな歌』から「もっと向こうへと」(谷川俊太郎)
指揮:水野麻美(嘱託員)
ピアノ:早川陽子(学外)
ひとまず、紹介文がとてもいいなぁと思いました。めっちゃ好き! でもこれ生徒が書いたものだったとしたら、多分将来枕を顔に押し付けてうわあああってなるやつかも……
表現がよく練られていて、飽きずに聴くことができたのが印象的。ディナーミクもしっかりしています。ただ一方で、音量が大きくなる前の箇所が捨てられる傾向にあったのが惜しいところ。例えば、「目覚めたいのに目覚めない」というときの「のに」など。大事な言葉が何処にあるかを十分見極めた表現としたいところ。ボリュームが十分だった一方、一歩上がるためには、その中の繊細さについて思いを馳せたい。自由曲、「あなたの……」など女声の支持音はよく聞こえてくるが、その裏の男声の対旋律が消えてしまったり。やはり、課題は課題曲と同一。最後のシンコペーションなど、繊細な部分をどう表現するかが肝要か。音の鳴りは申し分なく、ここまでで一番ホールを鳴らすことが出来ました。だからこそ、「その先」をどうしても期待してしまう演奏。音に乗った気合が、より技術に反映されるその時を信じて。

6. 愛知県立武豊高等学校(女声)
自由曲:R.シューマン「流浪の民」(E.ガイベル、石倉小三郎・訳詩)
指揮:磯貝綾子(教職員)
ピアノ:(課)安田みか(学生)、(自)竹内枝里(教職員)
なんと創部以来はじめてのステージ演奏だとか。しかし、最初の4小節練習でもしっかりと音を鳴らせている。最初から興味津々でした。
この団のポイントとしては、フレーズを最後まで伸ばすこと。フレーズに明確な意思をもたせた演奏ができるようにこれから改善していくべき。しかし逆に言えば、この団は、それをまずやるだけであっという間に化けていくと思います。それこそ、初出場と思えないくらいに、よく整ったアンサンブルをみせてくれました。加えるならば、もっと発声を鍛えられるとよいか。アルトの声量とソプラノの丁寧さをミックスさせたい。しかしまぁ、この課題曲を、創部まもなくでよく歌いきったものです笑 自由曲は、その点、今後もっと凝った選曲を期待したいところ。否、この曲大好きですし、そうそう簡単とも言えませんが、変な話、もっとこなれた選曲でもついていけるような気がします。その点で、しかし、この曲の表現としては、中間部の緩急についてもっとじっくり表現してもよいような気がしました。ただ単にリズムが緩くなってしまったような印象を受けてしまう。なぜテンポが緩むのか、それを考えるのが、この曲においての最大の表現なような気がします。

7. 名古屋市立向陽高等学校(混声)【銀賞】
自由曲:松下耕・混声合唱のための『あい』から「あい」(谷川俊太郎)
指揮:友森美文(教職員)
ピアノ:坪井佐保(学外)
友森体制2年目。Nコン単独出場は今年がはじめてとなりました。友森先生、譜面台の調整をしていたら、途中でネジが緩んだのか、ズドンと一気に下へ。そうか、思えばこれがフラグだったのか……(後述参考)
演奏。ハミングが少し暗いのが気になります。また、テナーに対してアルトが小さめに聞こえました。アーティキュレーションに配慮しているえんそうなのは伝わって来ましたが、それ以外の部分を捨てすぎてしまったようにも思いました。例えば、助詞が全然音にならなかった。また、「その血を吸った」のは一体何だったのか。また、ソプラノが「目覚めたいのに」と歌うオブリガードをどうアンサンブルに落としこむか、逆に言えば、少し浮いてしまったか。男声の熱さに対する女声の冷静さ。しかし、最後のハミングから「子猫の名前」の件は、上位校へと向かうこの団の風格を示していました。そして、この自由曲。この「あい」。大会の録音に残らないのが本当に残念で仕方がない! 音程、音量バランス、旋律の歌い方、この段階で既に完成度が非常に高いものでした。音楽の概形がここまで示されたアンサンブルを見せられたのは、この団に風格が出てきた証拠です。一音一音を大切に刻みながら、一方流れに豊かで単調でない。大人な曲をここまで表現し切る実力たるや。あえて課題があるとするなら「いつまでも生きていて欲しいと思うこと」の転調部。しかし――今回、銀賞に「留まってしまった」原因は、ひとえに課題曲にあるのかも。しかし、あの「あい」は本当に素晴らしかった……。

8. 愛知県立千種高等学校/愛知県立名古屋西高等学校(女声)【銅賞】
自由曲:木下牧子「にじ色の魚」(村野四郎)
指揮:伊木和男(教職員)
ピアノ:扶瀬絵梨奈(教職員)
総勢7人。しかし、この人数でこのボリュームが鳴らせているというのが何より素晴らしい。数年前の、同じく少人数で東北ブロック大会まで出た秋田北を彷彿とさせる演奏でした。ひとりひとりの音がよく飛んできていて、それで十分に音楽をしている。最大ボリュームが想像を上回る大きさを出せているので、逆に、もっとダイナミックレンジを広くすることができたかもしれません。そして、団の紹介文にもあったように、ユニゾンにはよく配慮ができている。この難しい課題曲を、よくぞここまで聴かせられるアンサンブルを仕上げてきたものです。自由曲になると、少しクセが見えてきたか。高声と低声の声質の違いが、フォルテになると目立ってしまいました。しかし、音色とよく似合った得手とする選曲。よどみのない少人数アンサンブルが木下音楽の協和音を鳴らすこと。表現、和声、アンサンブル、旋律など、各要素のよく光るいい演奏。納得の入賞です。

・午後の部
9. 愛知県立明和高等学校(混声)【銅賞】
自由曲:信長貴富・無伴奏混声合唱小品集『雲は雲のままに流れ』から「逝く夏の歌」(中原中也)
指揮:(課)一色南穂(学生)、(自)湯浅範子(学生)
ピアノ:戸谷誠子(教職員)
生徒主体で意見を出し合って音楽を作るという言葉の通り、表現がよく練られた演奏。音楽としての表現が本当に素晴らしく。フレーズのひとつひとつが磨かれていたように思います。特に「恋人は……」のアカペラは白眉。一方で、言葉が少々なおざりになってしまったか。また、結果として銅賞を受賞できたことからもわかるように、「このレベルまで」くると、男声の喉声発声やパート内の発声・ピッチの統一をちゃんと考えてみるとよりよいアンサンブルが出来るのかも。特に閉母音で音色がブレました。それこそ「恋人は夢を見ている」とか。自由曲は、全体の表現はよく考えられているが、内声に少し甘さが見られたか。音程というわけではなく、副旋律的に鳴る各音が膨らみに欠けるところでした。そのことも含め、中間のハミングがブレてしまったり、あるいは女声のぶつかりの妙をもっと聴きたいところでした。よく攻めたアンサンブルでした。しかし、まだ攻められる。まだまだねちっこく、十分表現することが出来る。今後の成長にも期待。

10. 愛知県立刈谷高等学校(混声)
自由曲:木下牧子・混声合唱組曲『ティオの夜の旅』から「ティオの夜の旅」(池澤夏樹)
指揮:福代まり奈(教職員)
ピアノ:(課)酒井あむる(学生)、(自)林菜々子(学生)
4小節練習ではよくボリュームが出ていたようには思いますが、一方、そのボリュームを使い切れていない印象も。弱音をもう少し芯のある声で、大きい部分はもっと大々的に歌いあげてもよかったように思います。雰囲気という意味ではよかったものの、ピアニストがしっかりと鳴らしていた分だけ、音量が足りないと思わされてしまう状態でした。また、フレーズの最後を切って整えているような印象を受けましたが、それよりは、細かく聞こえてしまうことの方が気掛かり。「ホットケーキにメイプルシロップ」における発声とボリュームを基準とするとよいかも。自由曲は、打って変わって非常に上手い。細かい音をよく喋れていてかつクレッシェンドが上手いのにも好感が持てる。その点、18人とは思えないくらいの大胆な表現で聞かせてくれました。後半はもっと言葉が聞こえるとよかったでしょうか。意欲的な表現はしかし、なにより評価したいところ。
ところで先生の譜面は旧表紙。最近頓と見なくなってきました。

11. 光ヶ丘女子高等学校(女声)【金賞
自由曲:信長貴富・無伴奏女声合唱のための『風のこだま・歌のゆくえ』から「月色の羽音―歌のゆくえ―」(大手拓次)
指揮:(課)内田若那(学生)、(自)白鳥清子(教職員)
ピアノ:白鳥清子(教職員)
部員数112人。この春にはブタペストのコンペで最優秀賞。なんてこった。練習で4小節歌っただけで信じられないくらい鳴る。ホールが変わったのかこれは。
表現の幅そのものは申し分ないのだが、一方、最初の出だしはネチっこすぎたかも。同じようなところで、「透明な銃……」のところは、もっと上品なエッジの効かせ方をしたかった。今のところ、野性がむき出しな感じになってしまっています笑 一方、「食べたいな」とか、「子猫の名前を……でも銃声が……」とかの表現は光が丘のためにあるといっても過言ではないのかも。特に後半は震えた。うますぎる。全体としては、メゾの表現と、それをどう外声が支えられるかという点が問題になってくるか。しかし、「目覚めない」とか含め、こんなにも鳴らせるというのか。自由曲は、コード進行が明白に見えるアンサンブル構築と揃いきったユニゾンが印象的。ただ、少し言葉が飛んできづらいのが気になったところ。いやそれにしても、中間部の声部分かれながら「小鳥よ……」と歌っていく応酬はもう完成レベルにすら達している。そこが完璧だからこそ、内声が喋りながら縦に揃うところで、もっと落差的にボリュームが欲しかったところ。過大な要求かも知れないが、否、まだ出るはず。また、最後のディミヌエンドは今一度検討が必要。
しかしまぁ、白鳥先生の振る時譜面台のネジがゆるかったか、ズドンと落ちたにもかかわらず、それにも負けず気丈に(?)歌い切るところ、この団は全国クラスの団なのだ、やはり笑

12. 金城学院高等学校(女声)【金賞】
自由曲:鈴木輝昭・無伴奏女声合唱のための『星翠譜』から「南天の蝎よもしなれ…」「双子座のあわきひかりは…」
指揮:小原恒久(教職員)
ピアノ:森貴美子(学外)
ポーランドでホームステイしたりジョイコンしてきたりしてきたそう。4小節をさらっとはじめてさらっときる小原先生かっこ良すぎですわ……笑
生声側に近い発声でしたが、ピッチの高さは目を瞠るところ。とはいえ、このレベルになると、ユニゾンが揃いきらないというのは一つ課題になるだろうか。ボリューム的にディナーミクの幅があまり広くないところも気掛かり。しかし、言葉はよく聞こえてくる。一方、この声質だといまいち深刻さが伝わってこないのが辛いか。もっと表現に多彩さがあると、課題曲はよかったか。突き詰めると、結局そこなのかも。最後の「子猫……」のあとの残響は気持ちよかったです。そして自由曲。金城と輝昭音楽がここまで合うとは正直思ってなかったです。逆にこちらは、取りこぼし少なくよくまとめられていました。ディナーミクも、ユニゾンも、こちらはしっかりと克服されている。2曲目も、コード進行がよく表現されているのが、輝昭音楽を聴く上で十分な指針となり、非常に好印象。メゾが針に糸を通すような非常に良い仕事をしていたように思います。表現の細かさはしかし、より頑張ることができるのでは。

13. 愛知県立岡崎高等学校(混声)【金賞】
自由曲:信長貴富・混声合唱のための『Anthology』から「序」(不詳)「星のない夜」(及川均)〈初演〉
指揮:近藤惠子(教職員)
ピアノ:前田菜織(学生)
Twitterで議論する限り、自由曲はどうも初演らしい、ということで、信長(貴富)の野望に早くも加わっています。この曲の詳細についても今後の進展がまたれるところ。楽曲については私のツイートでもご覧いただくとして笑
最初は少し音色が重いかな、と思ったら、そんなことはない。思った以上に前へ進むアンサンブル。表現については範になりうるディナーミクを見せた一方で、最初からなにかと深刻に過ぎた面も。また、ソプラノのオブリガードが相対的に音量不足だったのが気掛かり。しかし、「銃声が激しくってよく聞こえないんだ」の後のヴォカリーズは絶品。他方気掛かりなのは、ボリュームの割にホールが鳴りきってないように思われる点。また、アカペラ部はこの団、もっと聞かせられるはず! 自由曲、演奏面では、擬態語を中心にモチーフの繰り返しがよく出てくるが、そこでどうしても中だるみが出てくるので、その点、十分音量を保って演奏したいところ。また、全体として強音が目立つ楽曲だけに、弱音の表現が課題となってきます。もっと弱音の集中力を高める練習をしたいところ。その意味では、「メイプルシロップ」と結局課題は同じなのかも。しかしまぁ、この団で鳴らしたい曲を書いたのでしょう信長先生、音響効果を考えると名曲の予感がプンプンしてきます。

14. 愛知県立岡崎北高等学校(混声)
自由曲:松本望・混声合唱組曲『あなたへ』から「やわらかいいのち」(谷川俊太郎)
指揮:大谷和正(教職員)
ピアノ:内田悠里(学生)
合唱以外にもバンドとかなんだとか色々やっているそうで。バンド……? 3年生抜きで、それでも40数人いるというなかなかな大所帯。
「食べたいな」でもっと刺さる表現を聞きたかったという点からしても、今ひとつ、音圧に欠ける点があったか。どこかフワフワしている。しかし、岡高の後というのを差し置いても、よく鳴らせていたように思います。ホールを使うのが上手。そして後半からは本当によくもちかえしました。この曲をどう表現したいかという意図がよく顕れた快演。改善するなら、フレーズの頭をより明白に出すということを徹底したいところ。例えば、これはあらゆる団にあてはまりますが、「ホットケーキ」の「ホット」に苦戦していました。そして自由曲。以前G4になったことがありますね。この曲は、頭出した途端にすべてが決まる鬼畜曲。もっとなにより、ふくらませにいかないといけません。「メイプルシロップ」で明白だった表現に対する欲が欠落してしまった感。この曲に振り回されているような表現となってしまいました。全体としてフレーズが短いというのもその象徴かも知れません。淡白なまま流れた演奏。そこに「何か」を残したかった。

15. 桜花学園高等学校(女声)【金賞】
自由曲:信長貴富・女声合唱とピアノのための『不可思議のポルトレ―与謝野晶子の四つの詩―』から「I. 歌はどうして作る」(与謝野晶子)
指揮:奥山祐司(教職員)
ピアノ:下山麻衣子(教職員)
ディフェンディングチャンピオンみたいなものですね。課題曲は、最初の音が食いつきすぎて少々空回りしたのを除けば、とても明快な演奏。ただ一方で、表現の意図は明白なものの、もう少し「落差」をつけてもよいと思われる部分も。たとえば、「逃げ出しちゃった」のあたりなどがそれにあたります。しかしその分、テンポのゆらぎをどの団よりも恣意的に、かつ効果的につけることができました。中間部は特に見事! 各パートがそれぞれちゃんと出てくるのも素晴らしいところ。あとは、それをよく活かすことの出来るような演奏がしたいところ。自由曲では、ユニゾンがよく通る団だけに、こういったしっかりと歌う曲はまさに得手とするところ。特に、鳴らすべきところが良くなるというのが印象的。それでいて、強音の中にもダイナミックレンジがしっかりしている! 序盤や中間部の音色の使い分け、言葉も見事。特に最後の「真実はある」という言葉は本当によく聞こえてきました。シンプルな曲にこそ、その実力が見える。この時点でこの出来は見事です。

16. 名古屋市立北高等学校(混声)【金賞】
自由曲:三善晃・混声合唱曲集『木とともに 人とともに』から「生きる〜ピアノのための無窮連祷による〜」
指揮:三沢満里子(教職員)
ピアノ:戸谷誠子(学外)
全体として、ユニゾン、パート内の音色のブレというのがどうしても気になってしまうところか。伸ばす音がベタッとなってしまうのも惜しいところ。一方、ディナーミクについては、これを待っていたという、細かく正確なものをみせてくれました。音もよく鳴っている点、やはり問題点は最初にあげた細かい音の鳴らし方か。だって、この課題曲の表現、多分今日の演奏団体の中では一番の出来でしたから! 他団と比べれば若干淡白でもあるのですが、しかし、それが逆に効果的に響いていたように思います。自由曲は、全体としての音楽の構築力が見事です。フレーズの短いように聞こえるのを、フレーズのボリュームをコントロールすることで、全体として横の繋がりを生み出し、かつ縦もよくはまるという相乗効果を生み出していました。ただ、「いのち」の「ち」で母音が遅れがちだったのは気になるか。いやしかし、ナニ、この団、未だ健在ナリ。表現というポテンシャルが、なにより素晴らしいところ。

・まとめ
とあるNコンマニアな方と帰りがけ話していたんですが、Nコンって、テレビに出ている以上のドラマがあるコンクールなんですよね。例えばある団にとっては、このコンクールが3年生引退演奏ってこともあれば、ある団にとっては、目指せテレビ出演! と目標を掲げることもあるだろうし、更に言うなら、自分は西春が銀賞で「ああ、惜しかったなぁ」と思っていた一方で、当の本人たちは声を上げて喜んでいたりして。もちろん、当たり前に全国を目指していく団も、そしてその中には人数制限の都合で熾烈な出演者争いをしている団員もいるのでしょう、それらを含めて、それぞれの形の青春をぶつけていくのがNコンです。私のように大学から合唱をはじめて、Nコンと無縁な中で育ってきた人間からしたら、どうしても気になるのは結果、どこの演奏が聴ける、聴けない、という感じで聴きがちなんですけれども、その裏には、本当に、人間一人ひとりが持つドラマが潜んでいる。今日の演奏は、テレビに映らないどころか、実は「Nコン on the Web」にも音源すら上がりません。その中でそれぞれの青春を輝かせる合唱人たちに思いを馳せると、本当に、合唱という音楽は裾野の広い音楽だし、その裾野の広さに思いを馳せていくことで、より深くより広い世界を見ることが出来るのだなぁと思い知らされるものがありました。合唱祭とも違う、それでいて全日本ともまた違う――今日来て、演奏聞いて、本当によかったなぁと思いました。全部ひっくるめて、「今日まで」Nコンに参加された皆さん、お疲れ様でした! そして、全国でこれからNコンに挑んでいく皆さん、どうぞ全力を尽くせるよう、頑張ってください。
あと、Nコン沼ってジャンルはとてつもなく深いんだなって心から思い知りました()

2015年7月31日金曜日

雑感・2015年甲子園初出場組と復活出場組をまとめてみた

いやね、思うんですよ。高校野球。
確かに、早実は強い。実は5年ぶりっていうのにびっくりするくらいには今でも強いイメージが離れない、その伝統のみせる29回目の甲子園進出。日大三高と双肩の、西東京随一の伝統校の甲子園ともなればそりゃ期待もかかる。しかも話題の清宮くんは1年生の段階からレギュラー張ってて試合に貢献できるんだから尚更すごい。果ては松井か清原か。将来のプロでの大活躍なんてのも思わず妄想しちゃうのは、すごーくよくわかる。
でもですね、甲子園って、高校野球って、
なにも東京だけのものじゃないと思うんです。
(ごめん東東京)
ニュースをよく見てみると、色々な地区の色々な学校が、奇跡の大逆転劇や、大躍進を見せて勝ち上がったりしてきている。そんな学校たちにもっと注目していくことで、甲子園は、もっと深くて楽しい大会に変わってくる。絶対的なスターと、数多のヒールじゃ、高校生たちがかわいそうだし、スターが負けた後に楽しめなくなってしまう。高校の数だけ、ドラマがある。100周年・97回目の夏の甲子園。せっかくなら隅の隅まで楽しみたい!
僕自身、ぶっちゃけ高校野球はシロートですけど、それにしても、今年は、初出場や久々の出場といったチームがとても多い(気がする)! 県大会は、多くの県で大混戦となりました。そんな大混戦を安定して勝てた常連校もいれば、涙を飲む前回の県大会覇者、常連校も数知れず……そんな中、今回は、「初出場組」「復活出場組」に注目して、それぞれの出場校をまとめてみました。
朝日新聞社の高校野球特設ページを参考に(というか大部分を依存)しながら、地区大会のレビューと、決勝をメインとした結果概況をほんのざっくりとまとめてみました。気になった高校があったら、高校名に貼ったリンク先の朝日新聞ページで是非チェックしてみてくださいね! あと、その、本当にドシロートですので、間違いがあったら是非ご指摘ください……苦笑
どれくらいドシロートかは、ほら、このブログの説明文みてみてください←

定義
初出場:今回初めて夏の大会に出場を果たしたチーム
復活出場:前回の夏大会出場から10年以上経過したチーム

したがって、「最近センバツに出場したチーム」も幾つか入ります。突然現れた新星や、ずっと実力を溜めてきた悲願の初出場組、なかなか勝ちきれなかった伝統校待望の快挙に加え、奇跡のリバイバルを見せた伝統校などが、この基準だと含まれることになります。
初出場、復活出場の順番に、だいたい北から南になるように並べてあります。あえて、個人の選手名は出さないでみました。あくまで、チームを紹介しようという試み、ということで。そこまで取材に手が回っていないとかそういうのじゃないっていってみる。解説文では、学校名と地名がわかりづらい恐れもあるため、学校名の文字を太くしてみました。おかげさまで、甲子園について解説する教科書みたいな装丁になっております。他方で文体は、気がついたら途中から段々NHKのアナウンス原稿みたいな調子になってきました。しかしまぁお前暇だよなとか何かアレな傷抉りに来るのやめてほんと。また、高校名は上掲朝日新聞サイトの表記に準拠しました。所謂登録名と同一であると推定されます。そのため、一部、たとえば早稲田実業早稲田実と表記されるなど、普通の呼び名と比べると学校名の末尾が切れていたりする学校がありますが、上に鑑み、何卒ご容赦ください。

初出場:7校
☆茨城県代表・霞ヶ浦(夏大会初出場)
☆千葉県代表・専大松戸(初出場)
☆三重県代表・津商(初出場)
☆大阪府代表・大阪偕星(初出場)
広島県代表・広島新庄(夏大会初出場)
☆岡山県代表・岡山学芸館(夏大会初出場)
長崎県代表・創成館(夏大会初出場)
復活出場:8校
青森県代表・三沢商(29年ぶり2回目)
新潟県代表・中越(12年ぶり9回目)
岐阜県代表・岐阜城北(14年ぶり3回目)
滋賀県代表・比叡山(16年ぶり8回目)
京都府代表・鳥羽(15年ぶり6回目)
山口県代表・下関商(20年ぶり9回目)
佐賀県代表・龍谷(20年ぶり3回目)
宮崎県代表・宮崎日大(18年ぶり2回目)

初出場
☆茨城県代表・霞ヶ浦(夏大会初出場)
霞ヶ浦にとって1990年にセンバツで一度出場して以来、なかなか再び行くことの叶わなかった甲子園。常総学院が十六強で東洋大牛久に破れたのを始め、さらに石岡一つくば国際水城下妻二、さらには前年優勝した藤代など、シード校が次々敗れていく中で、東洋大牛久の躍進を抑えた同じくノーシードの日立一と、明秀日立を破り、シード校同士の争いを制した霞ヶ浦が決勝を争いました。試合は、初回に2点を取った霞ヶ浦が、2人の継投で日立一を完封に抑え、そのまま勝利。かつて1990年にセンバツ出場した先輩たち以来の甲子園への切符を獲得しました。ベスト16では、明秀日立との準決勝では5-4の接戦になったものの、その他の試合はそれぞれ1点に抑える安定した試合運び。決勝の完封劇を甲子園でも見せられるか。

☆千葉県代表・専大松戸(初出場)
昨年の夏県大会決勝で東海大望洋に破れ初出場の夢を逃した専大松戸、春季県大会で見事優勝し、トップシードの一角としてこの大会に臨みました。昨年覇者の東海大望洋がシード校習志野に四回戦でコールド負けを喫した一方、古豪・拓大紅陵や復活の強豪・木更津総合を破った専大松戸は、東海大望洋に加え躍進を続けていた中央学院も抑えた強豪・習志野との決勝戦に挑みます。試合は習志野が3点リードしていた7回裏、専大松戸が一挙7点の猛攻を見せ、そのまま習志野を抑えて優勝。近年実力をつけてきた県大会の強豪が悲願の甲子園初出場です。ベスト16、ベスト8の試合を零封、準決勝以外をそれぞれ7得点以上の大差で勝つ、得点力の光るチームといえそうです。大量得点を甲子園でも見られるか。

☆三重県代表・津商(初出場)
ドラマは決勝戦9回表に始まりました。春大会3位の松坂商を破り、去年の夏の甲子園で準決勝までコマを進めた三重を制し勝ち上がっていた四日市工をも下し決勝に進んだ津商。迎え撃つは、センバツ出場経験のある津田学園や、今大会宇治山田を退けた古豪・海星をそれぞれ破ったいなべ総合。決勝戦、津商は、2010年以来2回目の甲子園を目指すいなべ総合を前にして、先行されたスコアを5回表に3-3のイーブンに戻すものの、その後6,7,8回に1点ずつ取られ6-3に。9回表攻撃の津商、1アウトを取られ、これまでかと思われたところ、そこから一挙5点を取り返す猛攻をみせ逆転。裏の回をそのまま抑え、夏大会優勝。最後の大逆転劇で甲子園初出場を決めました。着実に点を取り勝ち進んできた実力が生み出す奇跡。甲子園を奇跡の起こる場所とすることができるか。

☆大阪府代表・大阪偕星(初出場)
全国の中でも非常に多い参加校数を誇る大阪府大会。それに今年は高校野球が大阪府豊中市の豊中グラウンドで始まって100年ということもあり、新たなドラマに益々胸が膨らむところ。そんな中、2014年センバツで準決勝まで進んだ、豊中市に所在する優勝候補の一角・履正社が初戦(二回戦)で大阪桐蔭に敗れたところから、今年の夏大会は意外な展開を見せることに。履正社を初戦で下し波に乗る大阪桐蔭はしかし、前の試合で東海大仰星を下した大阪偕星に破れベスト8止まり。一方、廃部騒動に揺れるPL学園は逆に、県大会ベスト8へ進む躍進を見せましたが、こちらは近大付を下して勝ち上がった古豪・大体大浪商に敗れてしまいます。その後、大阪偕星関大一を破って勝ち進んだ大冠に勝ち、大体大浪商大阪産大付を破って決勝へ。古豪と新星の一騎打ちとなった決勝では、1対1で迎えた6回表、大阪偕星が1点を加えリードします。その後7回、9回にも1点を加える一方、大体大浪商による8回、9回の追い上げをそれぞれ1点ずつに抑え、1点差で大阪偕星が強豪ひしめく県大会の優勝を勝ち取りました。東海大仰星や大冠相手に大量得点で勝ち進んできた大阪偕星打撃力に自信を持つチームは、甲子園でも快音が響かせられるか。

☆広島県代表・広島新庄(夏大会初出場)
2014年、センバツ初出場を果たすものの、昨年夏は広陵と争った決勝を1点差で落とし、一昨年も決勝で1点に泣いた悲運の強豪・広島新庄。今年の大会、地元の強豪・広陵市呉に敗れ、逆に広島新庄と同じくなかなか地元で勝ち切れずにいた市呉にとっては春夏甲子園初出場に期待がかかる決勝進出。対する広島新庄は、近年の強豪校・如水館を下して掴んだベスト4では、古豪・崇徳との接戦を制して波に乗る広島工大を相手にその実力を見せました。悲願の夏大会初出場を目指した両校による決勝では、1回裏に広島新庄が1点を先制。市呉が同点に戻した後の4回裏、広島新庄が2点を入れて再びリード、そのまま守りきり、ついに夏大会を制し、代表校となりました。ベスト16でも、相手に得点をとらせないで守り勝つスコアが目立つ広島新庄、甲子園を縦横無尽に駆けるナインに期待です。

☆岡山県代表・岡山学芸館(夏大会初出場)
2001年にセンバツ出場を果たした岡山学芸館と、2010年に高野連新加盟、2011年に同じくセンバツ出場を果たした創志学園。決勝は夏の甲子園初出場をかける両校の対戦となりました。甲子園出場を嘗て経験する水島工、2013年の代表校・玉野光南を下して決勝に進んだ岡山学芸館に対し、古豪・岡山南を下したのち、準決勝では強豪・倉敷商を接戦の末制した創志学園が立ち向かいます。試合は創志学園が7回までに3得点を挙げ、創志学園ペースで進みましたが、8回表に岡山学芸館が同点に戻します。その後、ふたたび2点勝ち越された岡山学芸館でしたが、9回表にさらに3点を返しそのまま勝利。大接戦を制しました。ベスト16、ベスト8での大量得点が光るチーム。特に準々決勝は水島工相手に10得点。得点力にも期待がかかります。

☆長崎県代表・創成館(夏大会初出場)
2013年、2014年のセンバツに連続出場し、昨年夏大会も決勝へ進出した創成館。今年の夏大会決勝は、2年連続同一カードとなりました。シードで固められたベスト4、準決勝では、創成館が古豪・長崎商を制し決勝進出を決める一方、前年優勝校の海星佐世保実を破り、決勝へ進出しました。創成館にとってリベンジマッチとなるこの試合、前半は創成館が1回に1点を先制し、3回表に海星が2点を取り逆転すると、以降前半はお互いが取った分だけ取り返すシーソーゲーム。均衡が崩れたのは5回裏。創成館が3点を取り、海星を引き離すと、7回裏には1点をダメ押しして、創成館がリベンジマッチを制して初優勝です。相手を低得点に抑える一方、安定した得点力で確実に勝つ野球を、甲子園でも見せることが出来るか。

復活出場
☆青森県代表・三沢商(29年ぶり2回目)
青森山田八戸光星聖愛など、私学勢の強豪が多かった青森県大会。今年は、青森山田黒石商に、聖愛三沢商に破れ、四強のうち私学勢は八戸光星だけという大波乱の大会となりました。そのうち、シード校青森三沢商による大逆転で敗れ、ノーシードだった三本木は逆に昨年の覇者八戸光星に敗れ、ノーシードで勝ち進んだ三沢商八戸光星の決勝戦となりました。決勝は1対1の膠着状態だったのが、延長12回で八戸光星のピッチャーが投げた球が逸れ、三沢商の打者が振り逃げした間にランナーが還るという、ニュースにもなったサヨナラ劇で、三沢商が代表校に。青森の私学勢以外が甲子園に行くのは19年ぶりという記念すべき勝利となりました。投手戦となった決勝戦以外は、ベスト16以降、強豪相手にそれぞれ4点、6点、9点を入れており、得点力にも期待がかかります。

☆新潟県代表・中越(12年ぶり9回目)
1978年に夏の甲子園初出場、1980年代を中心に、2003年にかけて新潟における常連校の一角をなした高校が、再び甲子園に帰ってきます。ノーシードで躍進を続けていた小出を準決勝で下し、同じくノーシードで躍進を続けていた新潟を下した強豪校・日本文理との決勝戦を迎えます。中越は1回に3点を取った後、2回、5回にも得点を重ね、7対2という大差を付けて、強豪校を見事制し、久々に甲子園出場の切符を手にすることになりました。今年、中越は、昨年の日本文理に続いて県大会を秋、春、夏ですべて制する「完全優勝」を果たした、と報じられています。こちらはベスト16以降、決勝戦まで安定した得点力をキープ。失点も低めに抑えられていて堅実な試合運びが光りました。

☆岐阜県代表・岐阜城北(14年ぶり3回目)
市岐商県岐商という岐阜公立の強豪二校を下し、飛騨地区初の県大会決勝進出を果たした斐太ニュースになる向こう岸には、もうひとつのドラマが待っていました。甲子園出場経験もある美濃実、2007年のセンバツで初出場ながら決勝進出を果たして以来抜群の強さを見せている大垣日大を破って決勝に進出したのは、2006年の甲子園で準決勝に進出して沸かせた岐阜城北。ノーシード同士の戦いは、1-1で迎えた3回裏に岐阜城北4得点。その後、取られた点を裏の回で着実に取り返し、7-3で優勝。2001年以来遠ざかっていた悲願の夏の甲子園大会復活出場を果たしました。各試合、しっかりと点を取る一方、決勝以外のベスト16を零封。2006年センバツの記憶の再現を期待したいところ。

☆滋賀県代表・比叡山(16年ぶり8回目)
1999年夏の甲子園以来、甲子園の舞台から遠ざかっていた同校。春季大会を1回戦敗退で終えた一方、今年の夏の大会を、新興強豪の北大津、たびたび県大会を勝ち上がる野洲を下して、決勝で迎え撃つは、1992年に2度目の甲子園出場を獲得して以来、滋賀県を制し続けてきた昨年優勝の強豪・近江。初のベスト4を勝ち取った米原を破り、今年も決勝の舞台に勝ち上がってきました。しかし、決勝は、比叡山が1回に2点を先取したのをきっかけに、2回、6回、8回にそれぞれ得点を重ねる一方、近江打線をピッチャーひとりで完封に抑え、見事1999年夏以来の甲子園出場権を獲得。見事古豪復活を果たしました。近江相手に零封を決められる守備力に期待がかかる一方、着実に点を取ることの出来る実力で、甲子園で新たな伝説をみたいところ。

☆京都府代表・鳥羽(15年ぶり6回目)
1915年にその歴史が始まった全国中等学校優勝野球大会、現・全国高校野球選手権大会。今年ついに100年の歴史を刻むことになった歴史ある舞台の最初の優勝校が、京都二中、現・鳥羽。甲子園に連なる歴史の第一歩を踏んだチームが、100周年のこの年、夏の舞台に帰ってきました。2012年のセンバツ出場などで力をつけつつあった今年の夏大会、龍谷大平安や、いぶし銀・乙訓を大差で下し決勝へ。京都共栄と競り勝ち、同じく決勝進出を果たした2015年センバツ出場校の立命館宇治にとっても1982年以来となる、両チーム共にとって悲願である夏の甲子園再出場をかけての決勝となりました。初回の1点を皮切りに、表回の鳥羽が先行し、立命館宇治の反撃をピッチャーひとりで抑えきり、6-4で鳥羽が周囲のプレッシャーにも見事勝利です。この夏大会では、決勝戦以外の失点がわずか4点という見事な守りと、平均して5点を稼ぐ攻撃力が光ります。1947年以来の大復活出場をした2000年以来再び遠ざかっていた夏の甲子園。100周年の伝統は、鳥羽球児たちにきっと味方するでしょう。

☆山口県代表・下関商(20年ぶり9回目)
かつて黒い霧事件で永久追放の憂き目にあっていた(現在は処分解除・復権)悲運の西鉄エース・池永正明の出身校、下関商。初出場は1928年第5回センバツ。戦前と戦後すぐの山口県野球を牛耳る活躍をみせてきましたが、近年は甲子園が遠のき、2008年のセンバツに出場こそ果たしたものの、夏の甲子園は、1995年以来出場が叶いませんでした。今年は準決勝で宇部商を大差で破り、2008年以来の県大会決勝へ。対するは、初の甲子園出場を目指す下関国際。今年センバツに出場した宇部鴻城を破り、決勝へ進出しました。新旧下関勢対決は、3回から5回に下関商が5得点。下関国際を8回の1失点のみに抑え、堂々の復活出場です。宇部商を大量得点で下した得点力にも期待がかかります。

☆佐賀県代表・龍谷(20年ぶり3回目)
強豪・佐賀商を破り、準優勝に終わった今年春の県大会以来の県大会決勝進出となった龍谷。春の県大会は決勝で敗れたものの、その後の九州大会では九産大九州を破り優勝し、古豪が異様な存在感を見せつけていた今年の夏大会。昨年優勝校・佐賀北伊万里商に敗れる中、2011年に夏の甲子園へ出場した、新興・唐津商龍谷の相手として決勝へ進出しました。決勝では久々の甲子園出場を目指す龍谷に対し唐津商が4回までに3得点し、リードします。7回まで0点に抑えられていた龍谷でしたが、8回に一挙3得点で同点に持ち込み、延長戦に。龍谷10回表に1点を取ったものの、裏の回に取り返されてしまいます。しかし11回表で再び1点を取った龍谷が、ついにリードを守り切り、甲子園再出場を果たします。競り勝つ勝負勘の冴えた野球に甲子園でも期待です。

☆宮崎県代表・宮崎日大(18年ぶり2回目)
1999年に甲子園に出場、県ベスト8の常連として宮崎県大会の強豪を張り続けてきた宮崎日大。古豪・都城や、おなじく強豪の聖心ウルスラを制し、2013年春大会以来の決勝進出。対するは、昨年優勝の日南第一、甲子園7回出場の延岡学園といった強豪校が相次いで敗れる中、甲子園2回出場の都城商に対し逆転勝利をみせた宮崎学園。甲子園初出場を目指す宮崎学園に対し、宮崎日大はその強さをみせつけました。1回に2点を先制すると、4回、5回には2回連続4得点、さらに8回には3点のダメ押しで計13得点。投げては4人の継投で宮崎学園を0点に抑え、就任1年目の元プロ野球選手の監督が2回目の甲子園出場へ導きました。宮崎学園日向に大量得点のできる力と、都城聖心ウルスラに競り勝つことの出来る力、2つの野球が宮崎日大の甲子園を支えます。

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さて、最近ブログ更新が少ないなということで、こんな記事書いてみました。合唱はスンマセン、今住んでるところはジョイコン文化が少ない上にお金も少なくて……苦笑 まぁぶっちゃけてしまえば野球もそうだけど合唱でこの記事書けよって話ですかね……あれ?(現実逃避の目逸し)しかし、合唱の次は野球だなんて、ますます某オヤジさんみたいなことになってきましたね……?←
さて、合唱人的には(?)宮崎県大会には心躍らされることになりました。合唱の全国大会常連校、宮崎学園。決勝戦こそ敗れてしまったものの、これはその、合唱でのリベンジに期待ですね!……って、モノが違うって? まぁいいじゃん← そういえば、とある県で古豪と紹介したチーム、合唱でも古豪で有名ですね……さてどこでしょう?笑
ちなみに、音楽と甲子園と言えば、「熱奏甲子園」も外せませんね! アルプスの応援と、その吹奏楽応援に狂い踊る心をときめかせる人たちが、応援についてひたすら語るのが、隠れた甲子園名物になっています。応援団賞が設定されていない夏の甲子園、「マイ応援団賞」を決めるのもまた一興? 朝日新聞社吹奏楽コンクールアカウント梅津有希子さんのアカウントから目が離せませんよ!