おおよそだいたい、合唱のこと。

ようこそお越し頂きました。
主に、管理人が参りました、合唱団の演奏会のロングレビューを掲載しております。
また、時折、気分に応じて、合唱如何関係なく、トピックスを記事にしています。
合唱ブログのつもりではないのに、気付いたら合唱ブログみたいなことになってきました。
やたら細かいレビューからノリツッコミまで、現状、合唱好きな方の暇つぶしには最適です。
ゆっくりしていってね!!!

2015年11月4日水曜日

【Vocal Ensemble《EST》第23回コンサート】

[イタリアからの贈り物、そして、新曲の誕生]
2015年11月3日(火・祝)於 三重県文化会館大ホール

もっと早く行っときゃよかった……
あのホール、昔は周りに何もありませんでしたよね。今日すっごい久々に行ってみたら、前はなかったはずの博物館あるじゃないですか。で、そこでやっていた展覧会が何かと思ったら、10月の鈴鹿サーキットに合わせて、なんとF1展。まさに今年復活を遂げたマクラーレン・ホンダ関連の展示だったそうで、看板にデデンと載ったのはあのマルボロ色のマシン(MP4/5B)も。そんなに詳しくはないんですけれど、最近好きなんですよ、モータースポーツ。こんなことなら、午前中から行っておくんだったなぁ……笑 あと10日あまりみたいです。
しかし、それにしても、行きがけに名駅でラーメンを食べ、連れと落ち合うところで電車を逃し、急遽特急に乗りつつも車内に藤田屋大あんまきを持ち込んでプチ観光気分になっていたので、まぁ、それはそれでヨシ、ですかね笑
そんなわけで、ESTの演奏会でした。中部地方、いや、日本を代表する合唱団のひとつですね。今年の全日本では惜しくも全国大会を逃しましたが、それでもしっかり金賞を取ってくる、安定感抜群の合唱団。一方で今年はイタリアのアレッツォで行われたコンクールに参加。さらに当地での教会での演奏など、また一つ、充実した活動を重ねてきました。アツい向井先生の指揮と、それと対峙する合唱団。生み出される音楽の繊細さは日本随一のものがあります。毎年、本拠地である三重で行われる演奏会。その影響力は、津市長から祝電も届くほど。まさに、合唱の枠を超えて、三重の文化を牽引しています。

……ちなみに、「もっと早く」繋がりで言えば、今回はしばおうさんが僕より一歩早く更新されています。速報を売りとするうちのブログとしては……ぐぬぬ←意味のない張り合いw

ホールについて
門構えが豪勢なホールです笑 津駅から25分(Google情報)歩かされるホール。タクシーを捕まえようにも、四日市よりも都市規模が小さいと言われる県庁所在地(!)の裏口のロータリーから歩かなければならないだけあって、意外とそれも難しい。バスも出てるらしいんですけれども、個人的にはあまりアテにしていません←
そうして着いた大ホール。オペラ用のオケピットも出来るであろう大きな舞台に、客席もバルコニーを兼ね備えた三層方式。そして何より、天井がすごく高い!ステージから客席奥まで、天井の高さも均一で、残響時間はすごく長く、贅沢な響きです。あと、座席の座り心地も抜群で、長尺の演奏会でも十分ゆったりと楽しめます。
ただ、このホール、音圧となると、なかなか合唱団泣かせ。簡単にいえば、飛んでこないのです。ESTも、そんなに鳴らせない団ではないはずなのに、音圧が足りない!と思わされる場面が何度も。否これは、合唱団の実力なのか(失礼)、それともホールのせいなのか……おそらく、後者なのかな、と思っています。よくありますよね、しかし、響きを取るか、音圧を取るか、みたいな問題。
なお、行ったら行ったで、ホールに喫茶店があるくらいで、食べ物には結構難儀します。お昼はホールで食べるのもありですが、安く済ませるなら、ホールに行く前に、駅前の逆側の出口から出て、何か食べていくなりコンビニに行ったほうがいいかもしれません。いや、これ、disってるわけじゃなくて割とマジな話なんです……苦笑

指揮:向井正雄

背景には教会の出窓風の飾り付け。あら、あんな柱あったかしら……窓みたいなのは作ったのかな……しかし、この雰囲気で教会音楽というのはいいですなぁ……など、妄想が膨らむところ。
なんと今日はテレビカメラが入っていました。地元のケーブルテレビかな……なんて思っていたら、終演後ロビーで見えたカメラには「東海テレビ」の文字が。ご存知(?)、名古屋を中心にエリアを持つ、フジテレビ系列の地元局。一体どんな形で放映されるのだろうか……それはそれで、楽しみなところです。第1ステージの5曲目で、雛壇を舐めるように撮影していたのが印象的でしたw

・オープニング
de Rore, Cipriano ”L’alto signor”

美しいアンサンブルを華々しく響かせながら、演奏会が開幕です。この曲、アレッツォのコンクールでも1曲目を飾った曲だったとのこと。少人数のアンサンブル。しかし、この曲、音楽が非常によく進む。軽いのに、旋律がしっかりと跳ねて、動いている様子がよくわかる。下降音型が落ち気味だったような気がしましたが、このアンサンブルの本質はそこにはないでしょう。ポリフォニーかくあるべき、という音作りがしっかり出来ていたように思います。まさに、この演奏会の方向性を見つけることが出来た思い。

第1ステージ『イタリアの協会に響いた宗教曲選』
da Palestrina, Giovanni Pierluigi ”Super flumina Babilonis”
Bruckner, Anton ”Christus factus est”
Reger, Max ”Nachtlied”
Poulenc, Francis ”Gloria”(from Messe en Sol Majeur)
Ferrario, Pietro ”Jubilate Deo”
Whitacre, Eric ”Alleluia”

アレッツォ報告演奏。1曲目は今年のG1でもあります。この曲、どうも、音楽が滑ってしまっていたように思いました。普通に歌っていると普通にガンガン進んでいってしまってあっという間に終わってしまう曲。ただ一方で、構造が割としっかりしているだけに、テンポを揺らすのはナンセンスにしても、聴かせどころを聴かせようとする意識をつけるだけで、少し音楽が変わったような。ただ、母音が非常によく揃っている。母音をハッキリというかなり堅実なラテン語発音をしていましたが、一方で乱暴にもならない。母音に対するコンセンサスが十分出来ているのだなと思いました。2曲目は、立ち上がりの音を中心に、少し勢いにかけていたような。キレイな音は聞こえるのだけれども、それ以上の表現の要素が何か欲しかったなぁというのが正直な印象。対して3曲目は素晴らしい! 言葉の処理とアンサンブルの妙が素晴らしくマッチしました。ドイツ語は否、歌のために生まれた言語なのだろうか、としばしば思わされますが、まさに、ドイツ語の響きをよく音楽に乗せられていたように思います。まして、キツく聞こえがちなドイツ語が、こんなにも丸く優しく聞こえたのは本当に、今思い出しても、スゴいものです。4曲目になると、分散して聞こえてくる各パートが、全体としてのまとまりを作りきれなかった印象。散り散りになってしまっていたのがなんとも惜しい。5曲目は、雰囲気とクラスターの音響がとてもよくまとまっていました。6曲目は十八番の持ち歌。ウィテカーというと、縦に振り回されがちになってしまいますが、実は横の動きを作るのが上手い作曲家。クラスターはいわば、横の動機を探っている音というか。その点、和声のつなぎ方が非常に美しい。それでいて、出るべき旋律がちゃんと出る。ホールの相性とも、ウィテカーはよく会っていました。優しく膨らむ表現は、幸せになることの出来る音です。
最初の方は心配でしたが、概してあとに行くにつれ演奏はよくなっていったと感じました。思うに、音楽が自然に旋律を作らないような曲だと、推進力が少し落ちてしまう印象でした。象徴的なのは4曲目ですが、ともすると、自律的に音楽を作るという意識を持つだけで、この団は一段先に行くのではないかなと思いました。――って、釈迦に念仏ですかね、嘗て全日本で、あんなゴリゴリの鬼畜リズム曲をバッチリ仕上げてきた団体ですし……どれとは言いませんけど笑

2ステに行く前に、アレッツォをイメージしたであろう窓の飾り付けを取り外し……って、柱をイメージした布ごとバトン(=団旗・社旗・国旗等を括りつけるために舞台上部に用意された水平の棒)に括りつけていたの!? 道理で、この柱見覚えないんだよなぁとなるわけだ……笑 ってかそもそも、公演中にバトンを下ろすっていう光景を初めて見ました……笑

第2ステージ
鷹羽弘晃『解釈の試み〜鷹羽狩行の俳句に寄せて〜』
1. 少年に菫の咲ける秘密の場所
2. 摩天楼より新緑がパセリほど
3. 村々のその寺々の秋の暮
4. 一対か一対一か枯野人
5. しがらみを抜けてふたたび春の水

今年のTOKYO CANTATで初演された曲の三重初演(確か)。各曲の冒頭には、4ステの初演曲の作詩をした堤江美さんによる、2ステ曲テキストの朗読がありました。元文化放送のアナウンサーで、今も朗読活動を続けている方とのこと。言葉による風合いを明確に色づけて、その後で合唱を楽しむ。曲によっては指示があったりもしますが、割に新しい試みのような気がします。
最初の朗読で日本語を日本語として意味を堪能した後に響く合唱は、対照的に、言葉を分解して、和声を以て音像的に示す風景描写。鷹羽弘晃というと、アンジェラ・アキ「手紙」の合唱編曲(原盤)で著名になりましたが、単独で作品を書くと、「Premiere Vol.1」で発表した『立原道造の詩による四つの心象』でも顕著なように、ヴォカリーズによる繊細な和音で静謐な世界を美しく見せる独特な和声構造に特徴があります。特に今回の曲でいうと1曲目。「秘密の場所」の言葉のままに、「少年に菫の咲ける」風景を、言葉だけでなく、否むしろヴォカリーズを印象派絵画のように使いながら描き出していきました。2曲目は、林立するビル群の中の小さな緑を、そして、シュールな中に峻立する3曲目と4曲目、そして5曲目に湧き出る春の芽生えが吹き抜けるように聞こえてきます。
演奏については、いろいろ言えることはあるんです。でも、何より、この和声を磨き上げる実力をもってすれば、この曲はなんてことはないのです。まさに、手馴れている。いい意味で。――ただ一方で、課題を求めるならば、やはり徹底的にこのヴォカリーズの和声でもあります。もっと豊かに表現できたはず、というのは贅沢な要求かしら? もっとネチネチと表現しても、この曲は意外と堪えてくれるのではないかな、と思いました。でも、それはこの曲のことをよくわかっているからこそ。ともするととっ散らかってしまいそうな曲の、要諦をよく掴んだ表現が光りました。そう、この団は、どんな複雑な曲でもキチンと整理して届けてくるから素晴らしいんだ。
しかし、久々に日本語の曲で面白いと思える新曲に出会いました。否、今までの曲がアカンってわけじゃなくて、しかし一方で耳障りのいい愛唱曲的なものが多いのもまた事実。この、自分のポリシーを崩さず、表現したいことを表現したいままに音にするような曲というのは、個人的には随分久々でした。メインにはなかなか使いづらい曲ですが、今回のように、インタミ前においておくにはベストマッチだと思います。是非、様々な団で、様々なところで聞いてみたい曲です。
イヤ、こういう曲が生まれるから、カンタートはやめられませんね(?)!笑

インタミ15分。なんか、知り合いが、なんなら愛知の人がいっぱいいて、やはり、三重県って言葉はともかく文化は名古屋文化圏にいるんだなぁと実感させられました笑「缶コーヒー」が飲みたかったのですが、自販機が見当たらず、残念← もっとも、ラウンジも閉まっていたのですがw

第3ステージ『友情出演〜MoiMoiをお迎えして』
Sariola, Soila ”Nouse lauluni”
Gjeilo, Ola ”Northern lights”
Alfvén, Hugo “Och jungfrun hon går i ringen”

今年(来年春郡山全国推薦決定大会)の愛知県アンサンブルコンテスト一般混声部門で金賞を受賞した団体。数人がESTの団員だったり、向井先生も講師をつとめる名古屋ユースの中心メンバーがいるなど、様々な縁が重なり出演したとのこと。活動柄、知り合いも非常に多い団体。代打の代打っぷりだったり、代表挨拶でザワつく客席だったりなど、内輪で盛り上がれる話題はともかくとして……笑
まずなにより、ESTと比べると音が明るすぎるな、という印象がある点が、パッと聞いて思いついた点。何言ってんだお前は、という声はごもっともですが、でも、どうしても気になった。明るいに越したことはないだろうという声が世の中の大勢ですし、現に僕もピッチが明るいことを褒め称えたことはありますし、その言葉に偽りはないです。でも何か、明るすぎたような気もしてきてしまう。
ともすると、明るい音色を使いこなしきれていない、ということがことの本質かもしれません。確かに音色が明るいと、非常に耳障りがよくなります。鳴りが華々しくなりますので。その点、MoiMoiの演奏は、アンコンで金賞を取るには十分余りある演奏でした。ただ、全体として、音楽がESTと比べると推進力に欠ける。もちろん、前述のとおり音は歌えているのですが、その音が次の音へと繋がる出方をしていない。スラーに歌うとか、イントネーションとか、なんなら純正律とか、細かい要素分解はいろいろ出来るのですが、こういうとき、何だかんだ「役に立つ」のは、気の持ちようだと思っています。例えば1曲目だったら、リズムとフレージングの区別、2曲目なら、静かな曲だからこそ逆に気にしたいフォルテ系の表現の付け方即ち小さく音楽をまとめないという意識、3曲目では、牧歌的な歌詩に突然出てくる「ライフルで撃った」というテキストと、その音楽的表現における戯曲性のある表現の付け方、及びその対比など。その曲その曲の引っ掛かりを、どう想像して、どう音にするか。ともすると、精神論だとか、やれ感情的な表現は音色を暗くするだけだとか言われがちですが、逆に、それだけ歌える団だったら、僕はむしろ、音色を暗くしてでも表現を付けてやるという意識のほうが良いんじゃないかと思ってしまいます。だって、上手いんですもの。技術は持ち合わせている集団、あとは、想像力と、その想像をどうやって音にするのかという考え方。
むしろ、想像した音を実際に鳴らすことの出来るようにするために、技術をもつべきなのだと思っています。――ともすると、技術のために技術を持つ、という「コンクールで勝てる音楽」との分水嶺はそこにあるのかも、というのは、最近流行っている話の一般論笑

第4ステージ『山下 祐加の世界へ♪』
作曲・ピアノ:山下祐*加
(*「祐」正しくは「示」に「右」)

まずは、山下祐加さんをステージに呼んでトークセッション。今回のアレッツォにも帯同したとのこと。そして、このステージのオープニングに1曲。

「ありがとうの花束」(ピアノ伴奏付き二重唱)
ソプラノ:鈴木慧
メゾソプラノ:村上かなえ

ESTが昨年初演したという曲を女声二重唱版(w/ Pf.)で。この二人、昨年までESTで活躍する傍ら、通っている高校で合唱同好会を一から立ち上げた実に凄腕なふたり。三重のアンコンでは2人で出て金賞を獲得する程。なんか自分で書いていて自分を疑う。本当かいな、ってくらいに笑 ご本人による、間違っているorもっと盛ってくれ、いずれのご意見も受け付けますので、是非どうぞ(何
イヤでもね、盛るまでもなく、この二人スゴいんですよ。演奏が。ユニゾンがしっかりハマる様は、もはや全国クラスの団顔負け。鍛えられていただけはあります。二人だけでしっかり音楽が進むさまは、もう、お世辞抜きに、ESTよりも音楽をしていたかもしれないなと思わされる。そして、この歌詞がいいんですよ、これまた。「あなたがいたから/世界は美しいと思えました。」
演奏会きょう一番の拍手は、間違いなく、このステージでしたね。ほんとうに素晴らしかった。

そして、堤さんも登場して、新曲初演について。
「音と言葉の関わりを中心に研究していた時に、堤さんの書籍に出会い、非常に多くの気付きを得た」(山下)
「言葉は、目で見るのと耳で聞くのとではぜんぜん違う。今日は、色と音と風景がすごく広がる曲を聞いた。リハーサルでは、こんなにも言葉には気付かない大きさがあるのかと驚いた」(堤)
演奏前には堤さんの朗読つき。前述のとおり、朗読活動を続けられているその実力が本当に素晴らしい。こんな読み手の朗読を久々に聴きました。言葉ごとに風景が見えてきて、その言葉が心の奥底に突き刺さってくる。絶妙な間合いと、飾ることのない自然な発声が、日本語を文字として、景色として実態のものとする――プロ中のプロの読みでした。脱帽。

混声合唱とピアノのための組曲『ふるさとのように』(堤江美)《委嘱初演》
1. ワクワク
2. かわせみをみる
3. 希望
4. 雪
5. ふるさとのように

対して、曲は必ずしも、堤さんの朗読通りにいかないもの。否しかし――これは、いい意味で。独自の解釈で、爽やかに鳴る音がとても印象的な仕上がりでした。「ワクワク」の言葉を、希望と期待の中に花開かせた1曲目、怪しげな中に静謐な雰囲気を湛えた2曲目、ピアノのアルペジオが美しい、まるで終曲のように堂々と希望を歌い上げる3曲目、サウンドスケープが雪の風景を巧みに描写する4曲目、そして、最後にアカペラで、ふるさとを思う暖かな響きが印象的な5曲目。聞きやすいながらも粒だった珠玉の組曲。特に2曲目の出来はほんとうに素晴らしかったです。もう一度是非聞いてみたい曲です。
もとがとてもシンプルな曲です。シンプルな曲はどうしても、無理に、とは言わずとも、膨らませないとしぼんでしまうような気がしてしまいます。ともすると、1曲目はもっと鳴らしたほうが良かったような気がします。でも、鳴らす、という意味に置いては、3曲目や5曲目はとても良くなっていて、それこそ、終曲が2曲あったかのような壮大さがありました笑 一方で、強い曲に挟まれたやや弱勢の4曲目は、もっと強音に対する意識を強く持たないと、いくらサウンドスケープの曲とはいえ埋没しかねない状況になったように思います。そうはいっても、曲含め完成度の非常に高かった2曲目も回顧するに、とても素晴らしい最終ステージを聴くことができたな、という印象。
なにより、曲がいいですね。イヤ、演奏もいいんだけど、曲が本当に面白い曲。2ステの鷹羽先生の曲もそうなんですが、決して愛唱曲よろしく口馴染み耳馴染みの良さだけを表現しているのではなくて、テキストの持つ深い表現と、その深い表現に対する音楽的な応答のダイナミクスを十分に感じられる曲達でした。特に今回は、詩がやわらかいながらもとても深みのある、作品としてとても優秀なもの。その中に潜む表現を、持てる全てを持ちだして表現すること。それを表現した委嘱者であり初演者であるEST。これまでなかった世界を表現するという意味において、とても価値のある初演だったように思います。

・アンコール
山下祐加「ありがとうの花束」混声4部合唱

先ほどの曲を。このホールは何より、こういう響きに強いですよね……! 演奏会の最後を、名残を引くように歌っていくのが、とても気持ちよく響いていたように思います。

・Ensemble MoiMoi 合同アンコール
松下耕「湯かむり唄」

そしてダブルアンコール……否、チラシに書いてありましたね笑 アレッツォでも大人気だったとか。こういう曲を、難しそうとか思わずに軽々歌ってしまうからこの団は強いんだよなぁ……。

最後には、なんと「クイズ」。閉演アナウンスの際に出たクイズは……「オープニングのアンサンブルで歌っていた団員は何人?」……ごめんなさい、覚えていませんでした笑 ちなみに、アンケートクイズに答えた正解者から抽選で3名は、来年の演奏会ご招待とのこと。そういえば、演奏会の最後に宣伝もしていた。京都バッハとの共演でマーラー『復活』を歌うとか。――したたかな宣伝ッ!笑

・ロビーコール
木下牧子「夢見たものは…」

こちらは定番ですね。ロビーも非常によく響くんです。思わず歌ってしまう人もちらほら……ってアレ? 自分もなんか勝手に口が……笑 ロビコあるあるですね笑

・まとめ
この演奏会のチラシを見てからずっと、「この演奏会でESTが表現したいものは何なのだろう」ということをずっと考えていました。確かに、百花繚乱、いろいろな音楽が並んでいて、ゲストも、友情出演もある。海外での演奏経験を活かした演奏もあるらしい。でも、肝心の、では、この演奏会で一体何が聞けるのか、正直、チラシだけの段階では半信半疑の側面があったのも否定は出来ませんでした。
で、演奏会へ行ってみて。――なるほど、むしろ、ESTはこれを聴かせたいのだな、という考えを持ったのが、僕の正直な結論です。なるほど、この百花繚乱そのものを見せたいのだ、と。アレッツォのコンクールのルールの都合上、どうしても幅広いジャンルの曲をやらなければならないという事情もあったようですが、どうも、それだけでもないような気がしてしまいます。EST、様々なイベントが重なり組織全体が大きな転換点を迎えている合唱団です。ともすると、過去の実績をともかくとして、この合唱団が何を持っていて、これから何を表現できるのか、いろいろと試されているのではないかな、と勝手に考えています。否だって、本当に、様々な表現が楽しめて、ただでさえ多い引き出しが、さらにどんどん増えている。そうしていくうちに、合唱団として、どんなことが出来るのか、新しい曲に対峙した時に、どういう対峙の仕方が出来るのか、その反射神経だったり、経験の量だったりが、これからのESTサウンドを作っていくのではないかなと思い至っています。
今日は、ESTの過渡期を聴くことが出来ました。それは、悪い意味ではなく、いい意味で。これから先、ESTはもっと違う音楽を、様々な形で、私たちに届けてくれる。いわば、価値を発信する合唱団から、価値を創造する合唱団へと、大きくシフトしていく、その一端だったのではないかと思います。これからもやるべきことはたくさんある。しかし、その上にある世界を、この団は、様々な活動を通して、既に見据えているのではないかと思います。これからの音楽のあり方から、これからの活動スタイルまで。次はマーラー『復活』へ取り組むという、ある意味、今回の演奏会とは真逆の単一テーマ一本モノに取り組もうとしているところ。そこで見せてもらえるであろう、この団の、組織の、本当の粘り強さというものが、今から楽しみで仕方ありません。
否しかし、今日は(昨日だけど)数多くのジャンルを一度にインプットできて、とても貴重な体験でした。何より、個人的には出会った日本語の曲が大好きだったので、もうとにかく満足です笑

2 件のコメント: