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2014年3月20日木曜日

【東京混声合唱団 第233回定期演奏会「半世紀の合唱の流れ」】

2014年3月19日(水) 於 東京文化会館 小ホール

 個人的には、いずみホール定期以来の東混演奏会です!東京文化会館は、2011年3月の東混定期で小ホールへ、その後、同じ年の早稲グリで大ホールで演奏を聞いた位だったでしょうか?
 今回の上京方法は、ローカル線乗り継ぎの旅でした。ということで、多分これまでで一番辛い旅になるんだろうな……と覚悟していたら、意外や意外、これは、バスよりは全然楽かもしれません笑自分、鉄道と相性が良さそうです。
 と、まぁ、それはさておき。東混としても、日本合唱史としても、とても価値のある演奏会に立ち会えたのではないかと思っています。

指揮:田中信昭
ピアノ:中嶋香(2, 4)

・御託つらつら

 本演奏会は、東京混声合唱団の創団者でもあり、その活動、委嘱活動を通して日本の合唱界に甚大な影響を残している田中信昭先生の指揮による演奏会です。田中先生が東京混声合唱団の音楽監督として指揮を振るのは、この演奏会で最後となりました。もっとも、来年からも、先生が指揮をされる演奏会はありますが、その立ち位置は大きく変わることになるでしょう。まもなく始まる来年度からの東混音楽監督は、山田和樹先生。いまやオーケストラの世界を中心に華々しく活動されるヤマカズ先生ですが、指揮キャリアの基底のひとつには、東混や早稲田大学グリークラブをはじめとする合唱指揮の経験があるといっても過誤ではないでしょう。松原千振先生や大谷研二先生の選曲や、ノンビブラートを射程にも入れた音作りも相まって、まさに、東混のみならず、日本の合唱界の新時代の到来を予期させる人選となりました。
 日本合唱史上、東混が果たした重要な役割のひとつに、数多くの委嘱活動があります。嘗てアマチュア合唱団が新作初演をする能力がなかった時代から、プロとしての豊富な実力を武器に数えきれないほどの数多くの合唱曲を委嘱し、日本現代音楽の創作をけん引する存在の一つとして活動を重ねられてきました。故・武満徹氏に合唱曲を書くきっかけを与えたのは、田中信昭先生はじめ、東混による委嘱で書かれた「さくら」(『うた』(ショット・ジャパン)所収)ですし、故・三善晃氏も、東混も参画したNHKの音楽劇での作曲をきっかけに、東混とのタッグで、合唱への実験的作品「トルスII」を皮切りにした、数多くの合唱曲の創作をはじめました。なかでも、本日演奏された『五つの童画』は、三善先生をして、自身のピアノ書法の集大成といわしめる(三善晃『遠方より無へ』白水社、2005復刻)、三善作曲史のなかでも重要な作品として知られています。
 本日の演奏会は、日本合唱音楽半世紀史を振り返る内容です。作曲だけでなく学術においても重要な功績を残された故・柴田南雄、プロ、アマチュア、教育を問わず、永く日本音楽の発展に寄与された故・三善晃、世界的なレベルで多くの仕事を手がけられ続けている佐藤聰明、そして、数多くの受賞履歴をして、なおも独特の新たな音響に期待が持たれている西村朗、各先生。いずれも、音楽史にその名を残し続ける、偉大な作曲家たちです。そして、その通底に、数多くの新作をサポートし続けた、田中信昭先生と東混の存在があります。日本音楽のダイナミズムそのものを、時間を遡るようにして楽しめる――あるいは、勉強できる、といったほうがいいかもしれません、そんなプログラムとなりました。

・ホールについて
言わずと知れた、日本を代表するホールの一つです。響きについては、新しいホールに水を開けられている面もあります。しかし、それでも、ホール全体に確実に広がる豊かな響きと、ホールの意匠が織りなすイマジネーションは、やはり、日本随一のホールと言って差し支えないと思います。ステージへの動線や、客席のスタイル、更には開演ベルの音色に至るまで、多くの面で、日本が誇る名ホールだと思います。

・第1ステージ
柴田南雄『三つの無伴奏混声合唱曲 作品11』(北原白秋・詩)

 柴田南雄というと、音楽史の教科書でその名を知る方も多いかもしれません。東混では、『萬歳流し』が、今も各所の訪問演奏会を中心に再演されています。
 戦後直後に作曲された同曲。時代的には、清水脩『月光とピエロ』と成立時期を同じくします。戦後、様々な文化と同様、日本の合唱音楽が制度的にも再構築される中で成立した作品です。実際、当時はまだ、日本人による合唱組曲という文化が余り存在せず、ちょうど、『月光とピエロ』がそのような文化の走りと言われていますが、それ以外にも、この曲もまた、現在のような合唱組曲文化の醸成に一役買っていると言って間違いなさそうです。
 そんな時代背景の中から生まれた曲です。まだまだ現代音楽そのものも十分に成熟していた時期ではありません。東混の取り上げる日本人作品としては、非常にわかりやすいプログラムでした笑 抒情的な雰囲気を見せる小品、しかし、演奏技術そのものは、多様な和声をしっかり束ねる必要があり、聞かせるためには高度な水準が要求されていました。
 今日の東混は全般的に、過去の音源に頻出するような無理に歌い上げることをしない傾向にありました。要所要所をしっかりと抑え、豊かなハーモニーで歌い上げる演奏。最近の東混の音作りの基本姿勢ではあると、耳から感じてはいます。他方、もう少し鳴らしても効果的かな、とは思わされたので、バランス感覚は、課題の一つでしょう。
 Alto Solo は志村美土里先生。素晴らしかった!是非今度、日本語歌曲のソロ演奏会開いてください。って、それは東混の団員さん皆さんに言えますが笑

・第2ステージ
三善晃『五つの童画』(高田敏子・詩)――追悼ステージ――

 本日、もっとも注目を集めたプログラムといっても過言ではないかもしれません。NHKの委嘱により作曲、初演は、東混、指揮はもちろん、田中信昭先生。実際、東混の委嘱による「トルスII」から合唱音楽を本格的に書き始めた三善晃先生にとって、本作品は、合唱音楽のみならず、自身のピアノ書法の集大成と語るなど、大切な作品とされています。まさに、初期三善晃の傑作の一つといえる作品です。
 さて、特に1曲目「風見鶏」を中心に再演される機会も多い同曲ですが、その要求水準は過酷を極めます。たとえ音符を追えたとしても、その後、高い演奏水準まで持っていくためには、より甚大な努力が求められます。更にその上で、果たしてどのような解釈の元、どのようなテンポ設定、演奏が成り立つか、ということを議論することになるため、語弊を恐れずに言えば、実際に「芸術」として成立するような演奏は、必ずしも多いとは言えないのではないでしょうか。
 初演団体としての東混の演奏。今回の演奏は、これまでの多くの演奏とは一線を画する、少し趣を変えた演奏となりました。具体的には、テンポ設定が全般的に遅く、そして、全体的に、第1ステージのおとなしめの演奏を引き継いだものでした。この演奏、「風見鶏」のテンポに対しては、少し物足りない感じこそしましたが、全体としては、「童画」らしい、三善晃音楽を通底する快活で少しお茶目な曲想を明白に浮き立たせる形となりました。同曲は、三善晃の合唱曲の中では、非常に「遊び」の部分が少ない曲だと思われています。しかし、こんなにも多彩な顔を見せる曲なのか、という基本事項を再確認させられる快演でした。
 さらに申し上げると、東混としても、発声技術の変遷により、よりハモる発声へと変化したことから、音源の時代とくらべて、曲の風景がより明白になったように感じます。特に、2番「ほら貝の笛」は絶品。独特な間と、ピアノが織りなす独特な緊張感が、聞いててゾクゾクさせました。まるで、法螺貝が、生きているよう。たまにビクッと動くんです。思い出してても、たまりません。

インタミ20分。4ステージ構成で1回休憩、となると、お客さんのためにも、これくらいの休憩時間を確保したい。プロだとこの時間が一般的なのではないかと思います。アマチュアでも今後参考にしたい数字です。これが適切です。

・第3ステージ
佐藤聰明「海」(仏教典「華厳経」より)〈改訂版初演〉

 佐藤先生は、どちらかというと器楽の世界で世界的に活動されている作曲家。とはいえ、この曲の原版を委嘱したのが「合唱曲を委嘱する会・岩国」というアマチュア団体ということで言えば、決して合唱作曲を嫌われている方でもないようです。しかし、この団体、凄い名前ですね……笑 確かに、「創る会」など、同コンセプトで活動されている団体は何個かあるのですが、ここまでド直球に団体名になっているのは、ある種清々しくもあります笑
 さて、こちらは、これまた非常に、最近の東混らしい選曲でした。音楽は、2度の和声を巧みに使いながら、打ち寄せては引く波の様子を写実的にスケッチしつつ、作品のメッセージである、事物は等しく宇宙に包含されている様をリアルに聴衆に訴えかける作曲でした。和声はとんでもなく難しく、長2度だけならまだしも、転回7度や短2度音程もガンガン聞こえてくる中で、しかし、逆に、そういった和声をよどみなくしっかり聴かせる東混の実力に驚嘆していました。以前、ウィテカーの演奏の際に、少し和声構築でコケていたかな?と思わされた時とくらべて、確実に東混としての実力が上がっていたように思います。
 淡々とした曲ではありますが、逆に、その淡々とした同じ所作の繰り返しが織りなす日常感、そこに生まれてくる非日常の風景や、あるいは、日常にすら感じられる、甚大な量のエネルギー。気力も体力も使う演奏でしたが、よくぞしっかりと演奏されました。緊張感という意味では、「ほら貝の笛」を想起させます。

・第4ステージ
西村朗「邪宗門秘曲」(北原白秋・詩)

 木下牧子先生の作品などで、広くその名前を知られたテキストに、西村朗先生が挑戦された作品。2013年夏の「虹の会」による初演(指揮は田中信昭先生!)以来の待望の東混再演でした。最近の定演での西村作品の採用回数が非常に高く、今や、定番レパートリーのひとつになりつつあります。
 そして、その日頃の鍛錬の成果がよく現れました。演奏、作品共に、現代の傑作を聞いたように思います。本当に素晴らしかった!音楽の、感情を吐露するように咆哮する羅列を、余すことなく咆哮し、それでいてかつ、妖しい和声に併せて妖しく光る「びいどろ」の表現など、音色の使い回しや、特に西村作品で難しい、和声の機能変遷、さらには言語列の適切な表現など、新時代の東混の実力を余すことなく見せつけられたように思います。
 さらに、楽曲としては、普段の言語の自然な音程に強く依拠する旋律だけにとどまらず、ある種宗教音楽的な旋律もふんだんに織り交ぜられた、多彩な色彩を見せる音楽になっていました。さらに、ピアノも良く踊り、全体として、西村先生の器楽音楽の見せる魅力なんかを思い起こさせる内容になっていました。なにより、その世界観が、本当に「邪宗門」の世界観をよく表していた!ただ、ただ、衝撃に満たされ、音が引き、大きな拍手に包まれるステージを見ながらもなお、興奮冷めやらず、ついその前まで聞いていた音楽の衝撃に満たされていました。個人的には、歴史的快演に立ち会えたのではないか、と思っています。

なお、アンコールはありませんでした。

・まとめ
 まず何より、本当に魅力的なプログラムだったように思います。「半世紀の合唱」の「黎明」にあたる柴田作品、そして、「円熟」にあたる三善作品、さらに「実験」的ともいえる佐藤作品、さらに「ニュースタンダード」を示したのが西村作品だったと仮に解釈するだけでも、休憩のタイミングを含めても、静的だけでなく、動的にも、日本の合唱を俯瞰するようなプログラムになっていました。
 そしてまた同様に、日本の合唱界を振り返ることは、ひとつには、東混の歴史を振り返ることとも同義ともとれます。特に、手に届く範囲で録音の残る三善晃『五つの童画』について言っても、演奏面においても、嘗ての演奏とは一線を画す演奏と言えます。ある面では、ノンビブラートへの変化や、和声構築的な合唱という、最近の「流行り」にも近いような演奏のあり方を反映し、しかし他方では、録音の残すような独特の叙情性は今や失われてしまったものと言えるかもしれない。そこら辺は、一つにはバランスとも言えますが、しかし、東混のサウンドひとつ取るだけでも、昨今の情勢を反映した、センシティブな変化を読み取ることが出来ます。
 今後の合唱界は、と問われると、なんとも自身では断言しがたいことがありますが、松原先生、大谷先生、そして山田先生もまた、数多くの外国曲や、あるいは日本の、嘗て東混がやらなかったような音楽をどんどん採用していることは、ひとつの試金石と言えそうです。ここ最近の初演でも、マリー・シェーファー先生や上田真樹先生への委嘱は、おそらく古くからの東混ファンを驚かせたのではないかと思います。本年度で言えば、東混は「八月のまつり」向けに、信長貴富先生への委嘱をしています。機能的な合唱へ今後も安定的にシフトしていくのか、はたまた、ロマン派を彷彿とさせるようなサウンドへと回帰していくのか。数多くのアマチュア合唱団の動向をも左右し続けている東混の活動に、これからも目が離せません。そして、いくぶんそれは、日本の現代音楽の動向をも左右しかねない、重要な位置を占めているように思います。

旅の様子は今度書きますねー←
こちら、詳しくはFacebook の方にのみしたためさせていただきました。完全にただの日記になったので……
簡単な道程を。演奏会前には神保町で相方がご所望だった『サイレンス』(ジョン・ケージ)はじめ古本街を巡り、この日は節約のために、東海道沿線の辻堂駅のホテルに宿泊。翌日は18きっぷで帰りがてら、静岡駅に途中下車しました。公益財団法人世界緑茶協会(世界!堂々にも、世界!)さんの「しずおかO-CHAプラザ」にお邪魔してみたり、ホビーミュージアムでフィギュア見たり、ちょうど切らしていた緑茶やダシ取り用のかつお節買ったりしました。否、思いの外(スミマセンw)、楽しかったです。そんなわけで、旅の締めくくりも、いい形になりました。

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